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「美しい」の研究報告(10月)

見たり、触れたり、味わったり。日常の中で感じた「美しい」を掬い上げ、それについて研究した内容を綴る、日記に近い研究報告です。「美しい」ってなんだろう?そんな曖昧な感覚について深く考えてゆきます。



Taste

光を差すコーヒー屋さん


地元がちょっぴり好きになるコーヒー屋さんができた。私は昔から地元があまり好きではない。古臭いし、治安も悪くて有名だし、そんな地元にある名物商店街は、昔は賑わっていたものの、今やほとんどのお店がシャッターを閉じ寂しい空気が流れている。そんな寂れた場所に明るい光を差すように新しいコーヒー屋さんができた。様々なコーヒー豆が並ぶ店内は、焙煎も行っており、コーヒーの香りが立ちこめている。一つ一つ丁寧に淹れるコーヒーは、店主のこだわりと太陽のような明るさが閉じ込められているようで、たくさんの元気をいただく。そんなコーヒー片手に、お気に入りの堤防を散歩する、その時間がとても大好きだ。あまり好きじゃない場所でも、一つの美味しい何かによって、その場所が愛おしく思えてしまう。「美味しい」というのは不思議で魔法の感性だ。

📍 リノアンドアイアコーヒー




Time

スローな茶道の時間

昨年12月に茶道を8年ぶりに再開してから、仕事と生活の合間を縫ってお稽古に勤しんでいる。ファストな仕事時間、スローな茶道の時間、その対比がもどかしく、実に面白く、よき息抜きとして続けている。大人になって茶道に触れると、一つ一つの所作に意味が込められていることを知る。例えば、もてなすだけでなくて、毒盛りから客人を守るための所作もあったり。20分のお点前の時間に日本の歴史が垣間見れてますます茶の湯の世界と、生まれ育った日本の歴史に惹かれる。静かで奥深い時間。このスローな時間が、ファストな仕事時間に直接良い影響を与えるわけではないが、この時間で得るものは人生の豊かさに間違いなく繋がっていると感じる。




Product

誰かへの花

特別でも何でもない日に、花を買う。
名前の中に「花」という感じが含まれていることもあり、小さな頃から花へ対して意識が向いていたように思う。東京で一人暮らしの頃は、出勤前に花屋で「帰ってきたら元気をもらえるあったかな雰囲気に」「寒い季節に馴染みつつポップな感じに」とあまりにも抽象的なオーダーで小さなブーケを注文し、帰り道にそれを受け取る、というのをよくしていた。東京に出たてで、給料も少なかった当時はそれが自分への小さな贅沢であった。それから数年経ち、今も定期的に自分や友人や家族や恋人のために花を買う。それは、ご褒美な時もあれば、言葉にできないごめんねの気持ちだったり、亡き存在へ手向ける感謝の気持ちだったり。私にとって、花というのは、言葉にできない、言葉にしたくない、大切な気持ちを手渡すために美しく大切な架け橋なんだろうなと、二輪のマリーゴールドを見つめて思う。




Book

独立記念日

「私はもう、ひとりじゃない。でも、だからこそ、いまこそ独立しよう。ときおり寄り道したり、つまずいたりしながらも、まっすぐ歩いていくために。(独立記念日/原田マハ)」

平凡な日常を過ごしているようで、私たちは日々何かを手放し、そっと歩みを進める。ずっと近くに抱き寄せていたものを手放すのはとても怖く寂しいことではあるが、そうやっていくつもの独立を重ねることで、私たちはより私たちらしく生きてゆくのだろう。仕事や私生活で転機があった10月、私の心にそっと寄り添う一冊だった。

📍 「独立記念日」原田マハ


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