夕暮れベンチ、 もしくは バヤリースオレンジ
何気なく見た、映画や小説の中で
後の人生に影響をあたえてしまった。
そんなエピソードって
ありませんか?
私の場合は、『夕暮れ時のベンチ』
これを見てしまうと
条件反射的な速度で
思わずしらず涙腺がゆるくなる
週間少年サンデーに連載していた
「がんばれ元気」を思い出すから。
エピソードは、物語の序章。
幸薄い31才の父と息子
息子の誕生と引き換えに、最愛の妻を亡くした
ボクサー、シャーク堀口。
生活のため、一度はあきらめたボクシングだったけれど
ものごころついた息子「元気」くんに
チャンピオンを目指す自分の姿を見せようと
31才の堀口は、リングへのカムバックを決意します。
大好きな父が、トレーニングに励む姿を見て
父子の絆は深まり、元気くんは父を尊敬する。
そして、自らもチャンピオンを目指し
トレーニングを始めます。
年齢的にピークアウトしているシャーク堀口だけれど
順調に勝ち上がり、いよいよ運命の一戦。
相手は若き天才ボクサー、関拳児。
うぬぼれ、老年ボクサーを嘲笑する若き天才。
試合前、尊敬する父を冒涜する関拳児に
元気くんは挑みかかるも撃沈。
リング上で息子の無念を知った堀口は
怒りに燃えて、関を追いつめる。
天才ボクサーが初めて知った恐怖のなか
やけくそにぶん回した一撃が堀口にヒット。
勢いあまってリングの外へ飛び出す堀口。
鈍い音を残して後頭部を強打する。
それでもまた、リングへと・・・。
が、意識は飛んだ。
試合は、シャーク堀口の敗北。
鎮まる控室、意識なく横たわる父を心配する元気くん
起き上がった父の変わらぬ笑顔に
元気くんはほっとする。
試合後の検査を抜け出し、
父は元気くんとふたりで向かった遊園地。
ほんのひととき、父子の楽しい時間。
缶ジュース(たぶんバヤリース)を両手に
父が待つベンチへ、
手渡した缶が、父の手から落ちる。
敗れ、疲れた父を励ますように
ついさっきまでの、父の奮闘を
しゃべり続ける元気。
都会の遊園地の灯が、ひとつづつ消えて
街灯の灯に、父子のベンチがポツン。
眠る父の傍らには、それを見守る元気くんが座っている。
父が二度と立ち上がれないことを
元気くんは、まだ知らない・・・
さまざまな場所に、ポツンとあるベンチ
そこではどんな人たちが
どんな会話をしたんでしょうか。
きっと、いろんな物語があったんでしょうね。
『夕暮れ時のベンチ』
それが遊園地だったなら、なおのこと
いまでも鼻の奥のほうが、
ツーンとしていまうのです。
最近では、どういう訳か
バヤリースオレンジの缶を見ても
”ウルっ” ときてしまいます。