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月に1番、近い場所で
小さな小瓶に、1つだけ頭の中から取り出した記憶をつめて
繰り返し繰り返し、目の前で小瓶の中で踊るような記憶を眺められるとしたら
そこにはどんな思い出が入るのだろう?
小瓶に入れた記憶だけは
いつまでもいつまでもこの世界で無くならないとしたらどんな記憶を引っ張り出してくるのだろう?
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いつかの、真夏の濃いブルーと入道雲の境界線のある高い空にミンミンゼミの声
車窓から見ていた、流れては消えて行く
真っ暗な景色に夜の様々な光たち
いつだったか、過去の幸福を餌に辛い時を凌いでいた気がする
それなのにいつの間にか過去は過去になり、過去の姿も自分の心が変わって行く度に姿を変えて行く
過去の宝物だったものはもう宝物ではなくなっている事にふと気づいてしまう
それは、年相応の子供が欲しがる玩具のように
もうこの世界からいなくなってしまった
友の振り絞る様に言った最後の願いを聞いてあげられなかった
まさか、もう二度とその人の姿を見ることが出来ないなんて思いもしなくて
まさか、あの日から次に会う事が叶わなくなるなんて
あの時は知らなくて
私には、どうしたって小瓶の中に入れる記憶はこれしか思い浮かばない
特に仲が良かったわけでも無いし、友達かと言われても怪しいほどなのに
私はあの日から、どんなに仲が良かった友よりも
今はもう二度と会う事が叶わない友の名前を何度も呼んでいる
心のお守りの様に
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特別なことは人生では何度もある
奇跡だって何度も起きる
それでも、どうしてか
そんな記憶を瓶につめて眺めていたいのは
ただ、素直に
弱音を吐きたいだけだからなのかもしれない
願いを聞けなかった罪悪感と引き換えに私はその記憶を保管して
この世界に拠り所を見つけるように
「きみの分まで頑張って生きるよ」とか綺麗事で納められるように
生前、必死で生きていたその人を思い出しながら慰められている
最後に小瓶の中に残る物は良い思い出では無く
輝いていた時期では無く
心に響く物
それは良くも悪くも、そんな純粋な汚れのない物だ
きっと、何年経っても私は辛くなる度に
美しい心で真っ直ぐに生きている人を思い出し
そんな人がこの世界に居てくれた事に感謝する
何度でも人を信じて行けるように
何度でもこの世界で可能性と言う物を見つけ出せるように
最後の最期まで、ボロボロになっても大切な人を愛し通し
人目も憚らず大切の人のために泣きじゃくる
その人の姿は私にはとても美しく見えたから
そんな輝いた愛を持った人がいたことから私が学んだ事
さようならとありがとうを一時も忘れずに生きられるように
小瓶につめた思い出に、今日も甘えながら力を貰いながら生きて行く
さようなら、ありがとう
さようならが繋いだもの
一生分の立ち上がる力
akaiki×shiroimi