易しい法学入門
法学を学ぶ前に
人間は、一人では生きられません。
それは一人で、生活に必要な全てのものを自給自足できないことからしても明らかです。
人間は、今も昔も、他の多くの人間との共同生活の中で生きてきました。
狩猟採取をするにしても、農耕をするにしても、一人ではなく複数の人間が協力して行うことでより成果を大きくし、また、その成果物を交換することで便利さを手にして、これまでも生きてきましたし、これからも生きていきます。
この共同生活のことを社会と呼べば、人間は、社会の中で生きているということになります。
このような共同生活(社会)においては、一定のルールが必要となります。
多くの人間が、共同して何かをしようとすれば、そこに自ずから一定のルールが生じます。
そのルールの一つが法です。
法は、ルールの中でも、その取り決めに従うように強制する仕組みを伴う強力なものです。
このように法は、人間の共同生活(社会)における強力なルールであり、今日、わたしたちの生活は、この法のもとで営まれています。
この法そのものや法のもとでの共同生活(社会)を研究対象とする学問が、法学です。
法や法のもとでの共同生活(社会)は、自然現象ではなく、われわれの共同生活(社会)において発生しているいわば社会現象と呼べるものです。
そして、自然現象を研究の対象とする学問を自然科学と呼び、社会現象を研究対象とする学問を社会科学と呼ぶことから、法学は社会科学の一つとされます。
この法学を学ぶ目的は、究極的には、他の学問と同様に、人間とは何ぞやということを探求するためです。
そして、その対象は、先に述べたように、法そのものや法のもとでの共同生活(社会)です。
そのうちでも、今日の法学の主要な対象は、今現実に実施されている憲法や民法といった法律(これらを実定法と呼びます)です。
ただし、単にこれらの法律の条文の意味や適用例などを学ぶだけではなく、その法律の成り立ちやこれまでの歴史、今後のあり方なども学ぶことで、初めて前記の学ぶ目的を達成することができます。
法とは
既に述べたように、多くの人間が、共同して何かをしようとすれば、一定のルールが必要となります。
このルールのことを、社会規範と呼びます。
この社会規範が守られることで、人間は、円滑に共同生活を営むことができるのですが、全ての人間がこれを守るとは限らず、これを破る者が出てきます。
そこで、この社会規範を守るよう強制する仕組みが必要となります。
その仕組みが、国家(国)であり、国家によりそれに従うように強制する仕組みを伴った社会規範が法です。
すなわち、国家は、法を作り、これを実施します。
そして、その実施にあたっては、特有の強制を伴わせます。
この法における強制の典型的なものが、法に反する行為に対して科せられる制裁です。
たとえば刑法で定められる犯罪を犯した者には、国家により刑罰が科せられます。
法の変化
法が、社会規範の一つである以上、社会の変化に伴い法もまた変化します。
たとえば古い民法では、長男のみが相続するという家督相続が定められていましたが、現在の民法では、兄弟姉妹が均等に相続するという共同相続が定められています。
これは戦前のいわゆる家制度が、戦後は廃止されたことに伴う変化です。
このような法の変化もまた、法学の対象とされるべきものです。
このような法の変化を対象とすることで、法の変化が社会の変化に合致しているかどうかや、現在の法律が現在の社会に合致しなくなってきたのでその改廃をすべきどうかなどの考察が可能となります。
裁判制度
法に違反した場合、これを是正して法に従うよう秩序を維持するために設けられた制度が裁判制度です。
現在では、国家機関としての裁判所が、証拠に基づき裁判を行うものとされています。
裁判には、大きく分けて民事裁判と刑事裁判とがあります。
民事裁判は、たとえばお金を借りたのにこれを返さない者がいた場合に、お金を返すよう求めるといったように、個人間の問題を解決するための裁判です。
個人間の問題であっても、これを放置すると、解決のために勝手に実力行使をする者が現れるなどして法秩序が維持できなくなるため、国家が関与して解決を図るものです。
具体的には、解決を求める者の申立て(訴え)があれば、その個人間の問題についての双方の言い分の当否を裁判所が証拠に基づいて判断し(判決)、この判断に従わなければならないとするとともに、この判断に従わない場合には、強制的にその判断内容の実現を図ることとして個人間の問題を解決するものです。
刑事裁判は、たとえば他人の物を盗んだ者がいた場合に、この者に刑罰を科すといったように犯罪行為を犯した者に対して国家が刑罰を科すための裁判です。
刑罰は国家が科す強力な制裁であることから、必ず法に定める裁判制度によらなければならないとされています。
具体的には、国家機関である検察官が裁判を提起し(公訴提起)、裁判所が証拠に基づいて犯罪事実の有無やどのような刑罰が相当かなどを判断し(判決)、この判断に基づいて刑罰が執行されるものです。
裁判の基準
裁判官が裁判をする際に適用すべき法は、制定法、慣習法、判例法、条理という四つの形で存在すると考えられています。
このような法の存在する形(存在形式)のことを法源と呼んでいます。
制定法には、国会で制定された法律以外に、国会ではなく行政機関によって制定される命令や行政機関に対して独立した地位をもつ国家機関の定める規則、地方公共団体が制定する条例及び規則があります。
慣習法とは、社会において古くから行われてきたしきたりのことです。
慣習というのは、人々がある事柄について同じ行為を繰り返し繰り返し行うことですが、その中でも、それを破ると社会の手によって制裁を加えられるものが慣習法です。
判例法とは、裁判所の判決で述べられる趣旨(判決理由)が、将来の裁判の先例として実際上の拘束力をもつに至ったものを指しています。
そのような場合としては、法に規定が存在しない場合や法に規定はあるがその解釈に争いがある場合などがあります。
以上の制定法も、慣習法も、判例法もないときに、裁判官が裁判の基準にするものが、条理です。
条理とは、ものごとの筋道やものごとの道理を意味しますが、結局のところ、条理に基づいて裁判するというのは、その事件について最も適当な判断をするということにほかなりません。
これは、民事裁判においては、適用すべき法がないからといって裁判を拒むことが許されておらず、かといって裁判官に全く恣意的な判断が許されないことから、そのような場合は条理に基づいて判断すべきとされるのです。
法の解釈
法を適用する場合、まず適用の対象となる事実関係を確定します。
そして、次に、確定した事実関係に適用すべき法を探すことになりますが、そのためには法のもつ意味内容が明らかになっている必要があります。
この法のもつ意味を明らかにする作業が法の解釈です。
そして、法の文言は、かならずも具体的かつ詳細ではありません。
法は、多くの人々に適用されることを前提とした一般的な取り決めなので、どうしてもその文言が抽象的、一般的になってしまいます。
そうであればあるほど、その意味を確定する作業は難しくなります。
また、法の解釈にあたっては、その法の目的とするところを明らかにするなどの価値判断を伴うこともあり、解釈する者の価値観によって違う解釈のなされる可能性もあります。
まとめ
以上、法学についてのあらましを、できるだけ噛み砕いて、分かり易く解説してみました。
法学を学ぶきっかけにしていただければ、幸いに思います。