【おっさんずラブ-in the sky-】シノさんの世界について思うこと
今晩、最終回を迎えるおっさんずラブ-in the sky-。放送前にやっぱり書こうと思ったのが、シノさんのことだ。
初っ端から好きな同僚を盗撮ならぬデッサンするわ、ノールック卓球するわ、玉砕覚悟の告白の後にドモホルンリ○クルシステムを導入してお試しにこぎつけるわ、全話に渡ってネタを振りまきすぎじゃないのかっていう、シノさん。
今回のおっさんずラブの世界は、成瀬といい、マイノリティが当たり前になった、今の現実より進んだ未来じゃないのか、と思わせる。
が、そうじゃないかもしれない。
やさしい世界で切ない物語に、マイノリティであることを責める描写が今回はない。単発のハセはけっこうな扱いだし、S1の牧くんには最初に春田はやらかしてちずちゃんに説教くらっている。
今シリーズにはそれがない。そこがとてもマイルドだ。
じゃあマイノリティが当たり前な世界かというとそうじゃない気がする。そう思わせたのはシノさんと成瀬だ。武蔵は変わらずフリーダムなので、この際置いておく。すまん、武蔵。
成瀬はマサキとの愁嘆場で、女のトラブルと思っていた時、春田に口止めをしていない。口止めしたのはマサキとの関係を春田が認識してからだ。他人どうでもいいとパワハラ疑惑までかけられるほどの他人の視線に無頓着な成瀬が気にしているのだ。春田は春田で、男相手だったと知ると、女性相手と思っていた時以上に戸惑いを見せている。
シノさんにしてもそうだ。春田にキスできるかと聞かれて、できるよ、と言いながらもジョークに切り替える。そんなわけないだろうという言葉をお互い重ねて、丁寧に気持ちを隠している。
続いて卓球大会だ。鈍感すぎる春田に対して、成瀬はつい、シノさんの想いをバラしてしまう。この時、ミッチーは不在であり、いるのは春田が好きな武蔵とシノさん。マイノリティだからと排除する人はいない。
シノさんには子供がいる。元妻の蘭さんとのやりとりを聞く限り、蘭さんはシノさんのセクシュアリティを知って了承のもとに結婚している。シノさんはシノさんで、成瀬にゲイを隠して結婚する家族がほしい人はいる、と言われ、否定をしない。シノさんにとって、家族は持ったことが後悔なのではなく、欲しかったものなのに、大切にできなかった後悔なんだろう。
そのシノさんの相談相手が根古さんだ。根古さんは垣根がない。シノさんが男性を好きなら、そうですか、で終わる人間だし、蘭さんが結婚した結果もおせっかいはしても踏み込まない。
この根古さんの存在がトラップなのだ。まるで会社でシノさんのことをみんな知っているかのような錯覚がある。
ヒナちゃんは恋のライバルと宣言したが、それまでは知らなかった。最初にシノさんにカミングアウトされた時には一晩、解釈と対応に時間を要した。
何が言いたいかというと、シノさんは当たり前にマイノリティとして受け入れられているというより、受け入れてくれるであろう区画を、自分なりに持っているんじゃないかということだ。
この世界が優しく見えるのは、シノさんや春田の軸で見ているからで、実際は画面のこちらがわの世界と、そう変わらないんじゃないだろうか。
もちろん、これはあくまで私が感じたことで、他の捉え方をする人もいるだろう。でも、もしそうなら、この優しさは、シノさんが積み上げてきた人間関係の賜物じゃないかと思う。
当たり前なんだけど、多くの人は、大切な人には悲しい目に合わせたくないし、傷つけたくない。シノさんのことを知っている人はシノさんを知っているから、シノさんに向き合って、シノさんを否定しない。恋愛として受け入れられなくても、自分の想像と違うセクシュアリティでも、シノさんがシノさんで、シノさんが大切だから否定しないのだ。
今日、最終回を迎えるけれど、この世界は案外近くにあると思う。
最終回を前にして、シノさんの状況は、無理、しんどい、見てられないの三拍子だ。
それでもシノさんが生きてきた、人間らしいやさしさと後悔の時間を見守る誰かがいてくれる。恋でなくても、それは愛だ。そしてその場所はシノさんが積み重ねて自分で手に入れてきたもので、シノさんは同じようにとりまく人に愛を分けていた。それは恋でなくとも。
シノさんの生き方はとても不器用だ。それでもシノさんは、ライバル宣言してくれる女友達のヒナちゃん、なんでもお見通し感のある根古さんのように自分を受け入れてくれる人を持っている。
それはシノさんの力だ。
最終回を前にして、あまりに不憫なシノさんに、私はなんとか幸せになってほしいと思っている。一方で、シノさんはちゃんと幸せになれる力を同時に持っている人なのだとも思う。
そのシノさんとも、私たちはもうすぐお別れ。
でもシノさんは、不器用でも間違った時があっても、暴走しちゃっても、マイノリティでも、人が人を大切にして生きていれば、不器用でも結果が望む形じゃなくても、居場所ができることを見せてくれた。
それはリアルな世界でもきっと同じだ。
現実の世界も、自分の在り方で、やさしさと居場所を手に入れられる。
そう思わせてくれたのが、シノさん。
他のみんなの幸せはもちろんだけど、シノさんの答えがどうなるか、見守りたい。
そしてお疲れ様。ありがとう。シノさんのおかげで、やさしさのある世界をリアルな世界でも作りたいと自分でも思えたから。特別じゃない。ただ、そばで大切な人を大切にするということ。
願わくはシノさんの未来に幸ありますように。