資金調達手段としての補助金・助成金についての話
事業を始めるうえで、必ずといってよいほど問題となるのが「資金調達」です。自己資金や銀行融資を検討される方も多いと思いますが、そのほかの選択肢として「補助金・助成金」を利用する方法があります。
適切に使いこなせば、資金面で大きな後押しを得られる半面、申請手続きや採択後の事務対応など、独特のルールも存在します。
そこで本記事では、資金調達手段としての補助金・助成金のメリットとデメリットをじっくりと紐解いていきます。
今後、新規事業やビジネス拡大を計画されている方にとって、ぜひ検討材料のひとつにしていただければ幸いです。
1. 補助金・助成金とは
1-1. 基本的な定義
「補助金」「助成金」は、国や自治体などの公的機関が特定の目的を達成するために、企業や個人事業主に対して支給する資金のことを指します。多くの場合、事業計画や目的に沿った要件を満たし、審査を通過することで支給される仕組みです。
巷では、補助金と助成金について、以下のような分け方がなされている場合が多いです。
補助金
競争的要素が比較的強く、公募期間が定められていることが多い
申請書や事業計画を提出し、採択審査に通過すると交付決定が得られる
原則として「経費の一部」を補助してもらうため、自己資金や融資と組み合わせる必要がある
助成金
雇用関連などで一定の条件を満たせば、補助金より要件が緩めのケースもある
雇用保険加入など、制度上の基準を満たしていれば比較的もらいやすいものも存在
ただし、要件に合致しなければ申請しても不支給となることもある
ただし、行政用語としては補助金・助成金に明確な区分はされておりません。組織の内規・慣例として存在するかもしれませんが、行政用語辞典等でもその説明は曖昧さを含んでいます。中には「厚労省所管のものは助成金」等という極めてお粗末な説明もありますが、厚労省所管の“補助金”と冠する制度はいくつもあります。
本稿では便宜上、事業着手前に申請し交付決定審査を受ける類のものを「補助金」、対象の取組みを行った後で事後に申請する類のものを「助成金」と呼ぶことにします。
いずれにせよ、「補助金だから難しい」「助成金だからラク」という考えは不適当です。審査・報告などの事務プロセスは一筋縄ではいかない場合が多いため、手続きや管理をしっかり行う必要があります。
1-2. なぜ資金調達手段として注目されるのか
補助金・助成金が注目されるのは・・・
何よりも「返済不要」な資金である点です。
新型コロナウイルス感染症の流行による事業者への打撃を背景に、特にここ数年は多種多様な補助金・助成金が創設されました。
同じ資金調達手段として、銀行融資は利息や返済計画を考慮しなければならず、また出資を受ける場合は株式や経営の一部を譲渡するリスクがあります。そうした他の資金調達方法と比較すると、補助金や助成金は返済不要でありながら、一定額の資金を確保できる点が非常に魅力的です。
新規事業の立ち上げ費用、設備投資、研究開発費などに利用できる
補助金は社会課題解決のための手段として実施され社会貢献の一面があり、信頼度の向上にもつながる
雇用維持や地域振興、環境対策など、政策目的と合致すれば高額支援を受けられることもある
このように「事業を加速させるための補強」として有効な場合が多い一方で、後述のようなデメリット面も慎重に検討しておきたいところです。
2. 補助金・助成金のメリット
2-1. 返済不要で事業資金を確保できる
最も大きなメリットは、何といっても「返済の必要がない資金である」という点です。融資であれば利息負担がつきまといますが、補助金や助成金では、審査を経て採択された事業に対して一定割合の経費が支給される形となるため、「将来のキャッシュフローを圧迫しない」利点があります。
自己資金が潤沢でない場合でもチャレンジしやすい
新規事業やベンチャー企業にとっては大きな後押しになる
事業計画のリスクを軽減しやすい
事業が思ったほど伸びなかったときの資金負担リスクを削減
融資であれば「毎月返済」「金利負担」が常に発生するため、創業初期の段階ではキャッシュフローが苦しくなることが多々あります。補助金・助成金はそうした短期的な資金繰りの圧迫を回避できる点で、事業者にとって大変魅力的といえるでしょう。
2-2. 公的機関からの“お墨付き”を得られる
採択された事業は、「行政や公的機関から一定の信頼を得た」と対外的にもアピールしやすくなります。
金融機関や投資家への信頼度向上
「補助金採択」と聞けば、少なくとも行政の審査を通過したビジネスだと理解されやすい
メディアや地域社会へのアピール材料になる
地方自治体の公式ホームページなどで採択結果が公表されることもあり、名刺代わりとして有効
こうした“お墨付き効果”は、後の資金調達やビジネス拡大においてもプラスに働く場合が多く、企業としての信用度を高めるうえでも有利な側面があります。
2-3. 新技術・新規プロジェクトへの挑戦を後押しする
補助金の中には、研究開発やイノベーションの創出を目的としたものも多く、採択されれば「リスクの高い挑戦でも資金面で手厚いサポートを得られる」というメリットがあります。
最近お会いした経営者の方は「ウチの会社の血は補助金で出来ているから」と話していました。
研究開発型の補助金では数百万円~数千万円規模の支援が得られる例も
地域産業振興やスタートアップ支援の一環で、高額案件の公募が行われることも
こうした資金があれば、普段は手が出しにくい先端技術や新事業分野に挑める可能性が広がります。もちろん、採択後は進捗管理や成果報告が求められるため準備も必要ですが、新たなチャンスを生み出す大きな足がかりにもなり得ます。
3. 補助金・助成金のデメリット
3-1. 申請・採択のプロセスが煩雑
補助金や助成金には各種要件を記載した「要綱」「要領」があり、その要件を満たすか否かを事前に十分に確認して申請書を作成する必要があります。特に補助金の場合、競争的要素が強く、審査項目や評価基準に合わせて、周到な事業計画書が求められることもしばしばです。
書類作成に時間や労力がかかる
募集期間も限られているため、仕事と並行しながら急いで準備しなければならない
不備や要件不足で簡単に不採択になる可能性
応募が集中する人気の補助金では採択率が低く、事前準備が鍵を握る
人気の補助金として、東京都の「新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業」というものがあります。毎月1日の午前9時に受付開始されるのですが、5分程度で月の受付数に達してしまう人気ぶりでした。(その後、一定期間内であれば全数受付の方式に変更された)
また、助成金の場合でも、雇用関連の書類や労務管理の証拠書類など、細かい要件を満たしているかどうかのチェックが厳しいです。採択(支給)されるかどうかは、公募要項をいかに正しく理解し、適切な書類を整備できるかに大きく左右されるでしょう。
特に、助成金の場合は取組みの事後に申請する(場合が多い)ため、対象にならない方法で取組んでしまっていると、どうやっても助成対象にならない場合も起こりえます。
3-2. 交付後の報告義務や監査に対応しなければならない
補助金は申請し交付決定の通知を受けた後も、「実施報告」や「実地検査」といった手続きが求められます。支給された資金をどのように使ったかを証明するため、領収書や契約書を保管し、所定の報告書式で報告することが義務付けられるケースが多いです。
経費の内訳が要件と逸脱していないか
成果物や進捗状況を定期的に報告する必要があるか
不備があれば「違約加算金を乗じた上で補助金の一部を返還しなければならない」リスクも発生します。特に、補助金事務が終了後、補助金事務に関与していなかった人が補助金で取得した機器等を使用開始した後で、補助金上は不適切な使用方法と指摘されてしまうことが多いです。
事業継続をしながら報告書類を整える作業は負担も大きいため、採択後こそ事務作業に苦労すると感じる事業者も少なくありません。
3-3. 予算や政策動向に左右されやすい
補助金や助成金は、国や自治体の政策的優先度や予算規模によって公募内容や募集時期が変わる特性があります。政治の動向や経済情勢、災害対策などによって大きく制度が変わる場合もあるため、毎年同じ条件とは限りません。
公募そのものが突然終了または休止する可能性
来年度から要件が厳しくなる、補助率が下がるなどのリスク
したがって、中長期的に補助金・助成金に依存したビジネスモデルを組むのはリスクがあるといえます。そもそも、補助金・助成金は企業の「社会保障」ではなく、政策課題を解決するための手段です。民間企業にとっても、あくまでも一時的なブースト、あるいは立ち上げ時の資金調達手段として位置づけ、「使えたらラッキー」と考えておくことが良いでしょう。
4. メリット・デメリットを踏まえた活用ポイント
4-1. 申請前の充分なリサーチと計画づくり
まずは、各種補助金・助成金の「要綱・要項」をしっかり読み込み、自社の事業内容や計画が合致するかを見極めることから始めましょう。
募集テーマや対象経費、補助率、申請期間を確認
過去の採択事例や公式Q&Aをチェックして、必要書類の精度を高める
特に新規事業や研究開発型で採択を狙うなら、計画書の説得力を高めるために十分な時間を確保してください。
4-2. 採択後の事務作業への備え
補助金の場合、交付決定後に経費を使い始め、事業終了後に実績報告を行うのが一般的です。採択後は「いつまでに、どの報告書を、どのフォーマットで提出するか」を整理し、社内で管理体制を整えておくとスムーズです。
経費の支出管理や領収書・請求書の保管ルールを徹底
スケジュールを明確にして、タイミングを逃さないよう計画
必要があれば補助金コンサルタントや行政書士のサポートを検討
報告義務を軽視すると、最悪の場合、支給が取り消しになるリスクもあります。採択後は「終わりではなく、次のスタート」という意識で事業運営と報告準備を並行して進めることが大切です。
4-3. 補助金・助成金を一時的なブーストと位置づける
あくまで自力での収益化や事業拡大を目指すうえでのサポート資金と位置づけて、長期的な経営計画もあわせて検討しましょう。
事業が軌道に乗ったら、自己資金または融資で継続投資する戦略を考える
毎年公募要項や制度が変化するため、補助金に頼りすぎない体制づくりを意識
こうした視点を持つことで、補助金・助成金のメリットを最大限に活かしつつ、デメリットやリスクを最小化できます。
5. まとめ
補助金・助成金は、返済不要で事業を強力に後押ししてくれる可能性のある資金調達手段ですが、その分「申請の煩雑さ」や「交付後の報告義務」、さらには「政策・予算に左右されやすいリスク」といったデメリットも内包しています。
メリット
返済不要の資金
公的機関からの信頼度アップ
新技術や新事業への挑戦を後押し
デメリット
申請・審査の手間が大きい
採択後の報告義務や監査対応が必要
制度や予算の変動に影響を受けやすい
最終的には、自社が取り組む事業やステージに合わせた選択をすることが肝心です。条件に合わない補助金を無理して狙うより、相性の良い制度を見極めて、書類作成や事業計画の精度を高めたほうが成果につながりやすいでしょう。
補助金・助成金はあくまでも「飛び道具」ではなく、「きちんと使いこなせれば心強いサポート」という位置づけで検討し、企業としての成長戦略にうまく取り込んでいくことが望ましいと言えます。
行政が提供する補助金・助成金の活用は、一見するとハードルが高いように感じられますが、正確な情報と適切な手続きを踏めば大きなメリットを得られる可能性があります。
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