樋口円香について
アイドルマスターシャイニーカラーズというゲームには度々激重エピソードが登場する。しかし、僕はそれほどこのゲームをやりこんでいる訳ではないので、歴戦のプロデューサーからすればこいつ何言ってんだという記事になる。いや、もはや記事ですらない可能性がある。この僕の殴り書きをどうか受け止めてほしい。
まず、樋口円香についての性格をおさらいする。基本寡黙で性格が少々キツイが別に意地が悪いというような感じではない。むしろ、年下相手には優しくするといった行動も見られる。ただし、プロデューサー相手にはMr.〇〇といった皮肉を入れながら徹底的にdisっていく。ただ、それは彼女なりの不器用な愛情表現ともとれるだろう。彼女の言葉にはいつもどこか諦観のようなものが存在し、本気でやるということがないような宙に浮いたような感じがする。最も、宙に浮いているような気がするのは彼女の幼馴染である浅倉透の方なのだが。そう、その浅倉透が問題なのだ。樋口円香の諦観、静観は彼女によるものだ。勿論、彼女の意思などではない。小さい頃から、彼女を見てきた結果だ。
あなたは幼い頃、どんな人間だっただろうか。クラスの中心で騒ぐタイプだっただろうか。それともその取り巻きだっただろうか。あるいはクラスの隅っこにいるタイプだったか。もしくは図書館で本を読む子供だったか。世の中には往々にして、何もしてないけどまあなんかできるというような人間が存在する。本人はやる気もないし、努力もしていないけどなんか勉強ができる。足が速い。スポーツが得意。友達がたくさんいる。というようなことだ。向上心がない彼ら彼女らにとって日常はひどく退屈なものになり得る。困難がない。こんなんじゃない。絶望することだってある。だって周りとは感覚が違うから。誰も自分のことなんてわかってくれない。これを天才故の孤独と定義するのは簡単だ。楽な話だ。でもそんなんじゃない。天才だから巨万の富を築ければ多少は救われる。でもそうじゃない。ちょっと人よりできて、何もしなくても何かできるだけ。そんなに優れていないのに。持ち上げられる。誰も自分の苦しみを理解してくれない。〇〇ちゃんはすぐになんでもできるからいいよね。よくない。できる苦しみがわかっていない。逆にどうしてできないの?嫌味になる。省かれる。異分子になる。なぜ?この世では同調できないものは省かれる。それこそ、幼少期の子供の王国、世界ではより顕著だ。クラスの中心、言わば王様がそれを言えばそうなる。それが樋口円香だったのではないだろうか。
しかし、彼女は世に存在する、その少々の天才とは様子が違った。常に隣に浅倉透がいたのだ。これはすなわち、巨万の富を築ける天才がいたのと同値だろう。そんな天才が隣にいたら?憧れる?好きになる?嫉妬する?ついていく?離れる?いじめる?拒絶する?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?
樋口円香が憧れたのか、愛したのか、嫉妬したのか、ついていったのか、離れたのか、答えは明白だ。全部だ。それだけの感情は彼女は浅倉透に向けた。それが意識的であっても無意識的であってもいや、無意識だったからこそ苦しんだかもしれない。訳がわからないから。浅倉透のオーラが言語化できるものではなかったから。ギフテッドの天才が幼馴染であった方が良かったと思う。〇〇ちゃんは勉強が滅茶苦茶できるからすごいな、だけで終わるから。でも浅倉透はそうじゃない。言語化できないもの、理解できないもの、全てを超えたものを持っていた。きっと比べられたろう。円香ちゃんはなんでもできて凄いけど、透ちゃんは自由だね。ああ、いや今書いていて気づいた。多分、大人が褒め称えるのは円香だ。いつも褒められるのは円香だ。そして怒られるのが透。でも、円香にはそれがわからない。自分を遥かに凌ぐ超越者である透をなぜ大人たちは怒るのか。友達は自分を褒め、透を非難するのか。わからない。わからなかった。孤独。いや、無理解。円香はついぞ最後まで分からなかったろう。透がコミュニティから離脱するまで、いや、元から離脱をしていたかもしれないけれど。透はきっとコミュニティに馴染めない。でもそれを不幸だと思うタイプじゃない。悩まない。苦しまない。少しはそういうこともあるかもしれないけれどきっと昇華できる。でも円香はそうじゃない。彼女をみて、何故そんな芸当が可能なのか。彼女の特別さに挫ける。ずっと隣にいたから。彼女の苗字呼びはせめてもの抵抗。拒絶。なんでそんなことできるの、というクエスチョンだ。アンサーはない。いや、透が苗字で呼び返したことがアンサーかもしれない。お前には分からないという、唯一の彼女からの決定打かもしれない。真相は藪の中。透明な彼女たちはガラス瓶の中とでも表現するか。透明なままでいたかった彼女たち。多分、4人ならそのままでいられる。他者が介入しない世界なら。
透と雛菜。円香と小糸という構図は実に優れている。自分の生き方が定まっているグループと悩み、迷い、挫けそうなグループ。天才方と秀才型の構図だ。彼女たちはお互いになりたいと思うだろうか。互いをどう思うだろう。
さて、最後。結局樋口円香は浅倉透になりたかったのだろうか。答えは否であると思う。彼女は特別があるのだと信じたかった。彼女にとって退屈な世界で唯一輝くもの。それは正しくアイドルという言葉に相応しい。幼少期から透を一番近い距離で見てきた彼女はずっと世界が灰色に見えていたと思う。だって、全部透より劣っているから。綺麗な宝石もあの芸能人もイケメンな同級生も全てがどうでもいい。透だけが特別だった。だから気づいてほしい。透だけじゃないし、円香も特別だ。それがプロデューサーが伝えたいことだろうか。いつか彼女が気づく。それは自分と折り合いをつける挫折かもしれないし、それとも心機一転の前向きな一歩かもしれない。パラコレの浅倉透に憧れ、慣れ果て、挫折して折り合いをつけたであろう彼女はこれからどんな道を歩むだろうか。願わくば、幸多からんことを祈るばかりである。