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「現場にこそ現実があるので」 -日本最高峰のサーキットで戦う、顧問教員の思い

 「鳥人間」は大会に出れる保証がないんで、「エコラン」を始めたんですよ。「大会出れんかったら、1年間何も出来んやん」となると困るので。「エコラン」だったら、応募定員はあるけどそれが埋まったことは過去ないので、応募したら安定して出れる、というね。しかも結果が目に見えて、機械工学科だからエンジンの勉強になるよね、というのもあるし。

 こう語るのは、「鳥人間航空研究部」顧問の機械工学科教授・松田雄二先生。大会の性質上、毎年安定して出場することが難しい「鳥人間コンテスト」挑戦を補完する形で、機械工科学科のプロジェクトとして挑戦を始めたのが「エコラン」、「Hondaエコマイレッジチャレンジ」出場でした。

 初挑戦は2015年くらいかなあ。大会は、複数台がよーいドンで一斉に走るんじゃなくて、規定周回数を自由に走ってね、という感じなんです。10秒以内にスタートラインを切ってね。「鳥人間」は不安定ですけど、こっちは国際サーキットを走れるから。
 で、鈴鹿だと8周するんですよ。8周して、ガソリンの残量を量る。周回不足は記録にならないんです。一番初めに鈴鹿に行った時は、9周回ったんですよ。「お前ら、10までの数、数えれんのか!」という笑い話で。だから最初は、9周も走って記録無しでした。参加は認められたけど、周回オーバー。なんだそりゃ、と。

 新居浜高専の「エコラン」では毎年、鈴鹿サーキットで行われる「鈴鹿大会」と、モビリティリゾートもてぎ(旧・ツインリンクもてぎ)で開催される「全国大会」に参加しています。「鈴鹿」も「もてぎ」も、F1やスーパーGTなどが開催される日本屈指の国際サーキット。そんな最高の舞台で行われる大会への出場は、学生たちの目の色を変えると言います。

 やっぱり、目が変わりますね。
 他のチームの車だったら、かっこいいフルカウルのもあったりして、どうやって作ったんやろう、とか。だから、手ごたえは感じてますね。
 「現場・現物・現実」という話があって、現場にこそ現実があるので。いくら想像したところで、レースゲームの世界とは違うよ、と。指先だけの力加減ではなく、音とか匂いとか、熱い寒いとか。そういうのに加えて、チームマネジメントの部分も。ドライバーが喉乾いてないか、日陰を作ってあげようか、とか、ヘルメット持ってあげようか、とか。映像見ただけでは、そういう心遣いは生まれないですよね。
 車本体もそうですけど、それを運ぶための付属品だったり、工具箱の並び方だったり。「ああ、あの運び方ええなあ」とか。そんなのは、行くたびに経験ですね。手持ちだと体力使うので、そういう装備をどういう風に準備するか、というのもね。

 大会に行くと、目の色が変わる。それは、「現物」として他のチームのかっこいい車体を見た感動もさることながら、「現場」だからこそ発揮されるチームマネジメントの一つ一つが、新鮮な体験として記憶されるから。だた、「エコラン」は、ドライバーを含めて1チーム5人というのがルール。毎年2チームがエントリーしている新居浜高専から出場できるのは、30人以上いるメンバーの中でわずか10人。今年は1年生がドライバーを務めるなど、1年生の活発さが目立つといいます。

 今年の鈴鹿のドライバーは1年生が。数カ月前まで中学生だった学生が乗ったりね。若い頃にサーキットを走った、その経験をいろんな形でチームに還元してほしい、という思いがあるので。で、いまは5年生が経験豊富なんだけど、間の学年はちょっと歯抜けのような感じで空いてて、1年生が多い。今年の5年生は専攻科に行かないから、来年はお前らが主力だぞ、と。今年は、今の5年生の集大成なので、学年的には歯抜けですけど、その姿を1年生が見て、何かを学んでくれると信じてるので。

 日本屈指のサーキットで、五感のすべてを刺激する「現場・現実・現物」を、これでもか、と浴びる学生たち。「エコラン」に参加する学生たちにとって、8周走った後のゴールラインは同時に、未来のエンジニアとしてのスタートラインなのかもしれません。

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