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「試行錯誤の青春展」について

はじめに


「夢だったんだ、こういうの。文化祭って、こんな感じかな。」
「うちだって、毎年やってるよ。」
「うん、そうなんだけどさ。こんなに本気になったの、はじめてだから。」

古厩智之『青春ロボコン 「理数系の甲子園」を映画にする』岩波ジュニア新書2004

 2003年に公開された映画『ロボコン』の一幕です。
 
 「高専ロボコン」に奮闘する学生たちの姿を描いた映画の佳境、全国大会の前夜。
 重量オーバーとなった自チームのロボットの軽量化にチーム全員で深夜まで取り組んだのち、長澤まさみさん演じる主人公が、伊藤淳史さん、小栗旬さんらが演じるチームメイトと一緒に、顧問教員の用意したラーメンをすするシーンです。
 「ずっと今日が続けばいいのに。」と感傷に浸る主人公に、ニヒルな天才設計士という役柄の小栗旬さんが「1回戦で負けたら、明日の午前でおしまいだ。勝てばいい。そうすれば夕方まで続く。」と応じ、主人公が感極まる。「これぞ青春!」というシーンです。

 このような映画の例を引くまでもなく、「青春」と聞いて私たちがイメージする事柄はおそらく、大枠では共通していると思います。汗と、涙と、努力と、笑顔と、おそらく大きな成功と挫折と、海と、夕日と、帰り道と、友情と・・・連想される単語を列挙するとこのような感じでしょうか。
 たとえばそれは、具体的には「高校野球」かもしれませんし、映画の主人公も言及している「文化祭」かもしれません。そんな特別なイベントではなく、日々の何気ない放課後、のことかもしれません。
 ‘かつて高校生だった私たち’が振り返ってみても、「あれが私の青春だったかも」と思い出される記憶が、一つ二つ、ある方も多いと思います。そして、「こんなに本気になったの、はじめてだから。」という主人公のセリフに、心当たりがあると思います。

 今回の展示は、青春展です。「青春」を取り上げます。
 とりわけ、モノづくりの街・新居浜らしく、「モノづくりに【本気】になった」青春を取り上げます。「試行錯誤の」というのは、彼らが取り組むモノづくりプロジェクトがどんなものか、という概要紹介ではなく、そのようなプロジェクトに取り組む‘青春真っ只中’の学生たちが、何を見聞きし、どのように考え、彼らの青春がどんなトライ&エラーを経たものなのかを、本人たちのことばで紹介したいためです。

 忙しい中時間を割いていただき、たくさんの方に話を聞きました。
 若きエンジニアたちの、熱い情熱と野心を、少しでも感じていただければ幸いです。

参考文献・論文

古厩智之『青春ロボコン 「理数系の甲子園」を映画にする』岩波ジュニア新書2004
浅野健一『勝てるロボコン相撲ロボットの作り方』東京電機大学出版局2001
ニール・バルコム著・松本剛史訳『ロボコン イケてない僕らのイカした特別授業』集英社2014
萱原正嗣著・全国高等専門学校ロボットコンテスト事務局監修『闘え!高専ロボコン ロボットにかける青春』KKベストセラーズ2017
正本ノン・丹内友香子共著『ぼくらが鳥人間になる日まで』ポプラ社2000
中村航『トリガール!』角川マガジンズ2012
森政弘『ロボット考学と人間 未来のためのロボット工学』オーム社2014
久野治義・長谷部信行著『あなたの超小型衛星を作ってみませんか? 設計・制作から運用まで』恒星社厚生閣2023
今井一雅ほか「KOSEN-1 Jupiter radio observation campaign with ground-based radio telescopes」第150回地球電磁気・地球惑星圏学会 会議発表論文2021
今井一雅ほか「Technology Demonstration CubeSat KOSEN-1 for Jupiter Radio Observations」33rd International Symposium on Space Technology and Science (ISTS), February 26-March 4, 2022, Beppu, Japan
若林誠ほか「Report on the 2017 and 2018 KOSEN Space Camps: Mission CanSat to Model CubeSat」TRANSACTIONS OF THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES, AEROSPACE TECHNOLOGY JAPAN 19 (1), 130-134, 2021
梶村好宏ほか「宇宙人材教育のための連動型『モデルロケット講座·モデルロケット大会』の実施成果」『工学教育』65巻3号2017

もうひとつの「はじめに」

冒頭で紹介した「はじめに」を企画展開展に先行して公開した後、改めて今回の展示文章とそれぞれの元となった関係方々へのインタビュー、展示会場のレイアウトを見直しました。その際、実は「はじめに」の文章を刷新し、まったく別の以下のような文章を、展示会場では掲示しています。


最初から‘道’が見えてるわけではないので。
失敗をしながら、作りながら変えながら、なので。
それをどれだけ繰り返していくかでしょうね。

ある教員が、モノづくりに燃える学生たちを見守りながら、語ります。
一方の学生も、

「僕らはたぶん、先生に言われるのはあんまり好きじゃないと思うんで。」
「自分らの力だけで、やりたい感じなので。」

と、‘見えてるわけではない道’の模索を厭いません。

 ‘道’を求める日々の中、彼らはやがて成功と挫折を知り、勝利と敗北を知り、達成を知ります。
 そんな、膨大な時間と、労力と、汗と涙とを費やした日々をいつか振り返る時。
 彼らはそれが「青春の真っ只中」であったと、自信をもって、あるいは一種の恥じらいを滲ませて、語ることでしょう。

 今回の展示は、青春展です。「青春」を取り上げます。
 とりわけ、モノづくりの街・新居浜らしく、「モノづくりに本気になった」青春を取り上げます。「試行錯誤の」というのは、彼らが取り組むモノづくりプロジェクトがどんなものか、という概要紹介ではなく、そのようなプロジェクトに取り組む‘青春真っ只中’の学生たちが、何を見聞きし、どのように考え、どんなトライ&エラーを経たのか、ということを、本人たちのことばで紹介したいためです。

 忙しい中時間を割いていただき、たくさんの方に話を聞きました。
若きエンジニアたちの青春を、熱い情熱と野心を、少しでも感じていただければ幸いです。


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