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「KOSEN-1」と歩んだ最後の高専生活① 「自分の「ちょっと頑張る」のレベルが上がったような気がします。」

 今井先生がどんな方なのかよく知らなかったんですけど、宇宙関係の方って分かった時に、これだ、って思いましたね。研究室に配属されるときに「KOSEN-1の開発」みたいなことが紹介に書いてあって、純粋にそれがおもしろそうだなと思って。小さいころから宇宙には興味があって。高専でも天文愛好会の部長をしていたり、そういうところはありましたね。

 こう語るのは、2020年度に新居浜高専を卒業した、秋葉祐二さん。2018年にJAXAに採択され、2021年にイプシロンロケット5号機に搭載されて打ち上げられた超小型衛星「KOSEN-1」プロジェクトに、新居浜高専の学生では唯一、開発から携わった方です。
 純粋に宇宙への興味から配属先に選んだ、今井雅文さんの研究室。そこで、卒業研究のために関わりはじめた「KOSEN-1」プロジェクト。それは、「KOSEN-1」のメインミッションであった「木星電波」の基礎にも、その木星電波を観測するための「プログラミング」の基礎にも明るくなかった秋葉さんにとって、不安の多いものでした。

 高専のときは成績優秀というわけではなくて、こういうプロジェクトに関わるのは技術的にどうなのかな、不安だな、と思ったこともあります。全然スキルがない状態で「KOSEN-1」に関わることになって、木星のことも全然分からなかったんで。ほんとに最初は何にも知りませんでしたね。
 「パイソン」というプログラミング言語で開発を進めるんですけど、全然聞いたこともなくて。書いたこともなくて。いきなりやり始めて、でも最終的には形になったので、スキルは必須ではなかったかなとも感じました。もちろん、あるに越したことはないでしょうけど。

 秋葉さんが「KOSEN-1」に関わり始めたのは、2020年春に5年生に進級してから。それは、記憶に新しい「新型コロナウイルス」という未知の脅威に、日本中が翻弄された年でした。

 5年生の頃はほんとにずっと研究してましたね。僕は大学の編入試験もあったんですけど、編入試験って、例年4月とか5月、6月にはだいたい終わってるんです。でも僕らはコロナで、それが10月だったんです。10月って「KOSEN-1」のプログラムを本当に完成させないとまずいって時期で。研究ではなく開発なんで、期日があるんです。締め切りがあるので、それまでに完成しないとまずいので。ひたすら研究してて、編入試験の勉強もして。ほんと自分の時間がなかった感じで、ずっと学校に居ましたね。
 新居浜高専って23時まで居れるんですけど、週の1/3くらいは23時まで残って、ずっと研究してたと思います。でも、それが嫌だったなあ、とか、あの時きつかったなあと思うことは正直あんまりなくて。充実してて。なのでけっこう楽しかったなあという思い出がありますね。ネガティブな思い出はないですね。

 連日の長時間にわたる開発・研究と試験勉強。それを「充実していた、楽しかった」と振り返ることができるのは、指導教官である今井雅文さんの存在があってこそでした。

 今井先生が凄い方で、ほんとにいろんなことを分かってるので、そこで手取り足取り教えてもらったので、関わることができたかなと思ってます。
(開発の話を聞くと、孤独でしんどそうだな、と感じます。)
 おっしゃるイメージは分かります。でも、今井先生の面倒見がとても良くて、研究してるとよく見に来てくれて「秋葉君どうなの。」と気にかけてくれて。だから研究は孤独かもしれないですけど、今井先生を尊敬してたので。今井先生と一緒に研究してる感覚があったので。けっこう楽しかったですね。NASAとか、海外で研究されてた方と実際に研究できる機会なんて無いなあ、と思って。

 そんな「尊敬する」指導教官からの言葉が、自信になることもありました。

 毎週火曜日に「KOSEN-1」チームでオンラインミーティングがあって、その時に自分が担当している部分の成果を発表することがあるんです。それが終わった後に今井先生が、「なんか秋葉君って、そんなたいした成果なくても、自信満々に発表して、まるで成果があるように感じさせるのはとてもいいことだと思いますよ。」みたいなことを言われたことがあって。たぶん褒めてくれてるんだろうな、と思って。そういうのを言われたのは、その後にいろいろ研究発表をするときにも、けっこう自信にはつながりましたね。

 今もなお、大学院生として研究生活を続ける秋葉さん。その原動力は、今井雅文さんと二人三脚で関わった「KOSEN-1」での経験です。

 高専での研究ってけっこう遅くまでやって、いま大学院生になっても、多少は時間が長くなってもあんまり気にならない、というか。ほかのみんなはひいひい言ってるんですけど、僕はそんなに気にならない。今井先生がしている研究、経歴や論文の数もですけど、研究者としてほんとに一流なんで、あそこまで熱心に研究すれば、あのステージまで行けるのか、というのは思いました。すごく上の存在を見たからこそ、自分の「ちょっと頑張る」のレベルが上がったような気がします。周りのほかの人よりも、けっこう頑張れてるというか。
 だから、研究者としてのレベルが少し上がったのかな、とも感じますね。


その②に続きます。

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