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「つぎは宇宙でね。」 -「KOSEN-2」が、届かなかった日。

 もうすぐ始まるライブ配信の画面には、「革新的衛星技術実証3号機 イプシロンロケット6号機 打上げLIVE中継 打上げ時刻 9時50分43秒」と表示されている。
 ほどなくして、ライブ配信が始まる。イプシロンロケットの歴史が、様々な関係者の証言と共に紹介されていく。
 やがて、打ち上げまでのカウントダウンが0になり、轟音と白煙とともに、ロケットが宇宙を目指して飛んでいく。
 そして打上げから約10分後。ライブ配信を進行していた司会者が、打上げの「中止」とライブ配信の終了を告げ、配信は終了する。「想定はしていたが、想像だにしなかったこと」が起こったことが、否応なしに画面から伝わってくる。
 同じ日の12時過ぎ。「イプシロンロケット6号機を打ち上げましたが、ロケットに異常が発生したため9時57分11秒頃にロケットに指令破壊信号を送出し、打上げに失敗しました。現在、状況を確認しています。状況がわかり次第お知らせします。」というリリースが、「第一報」としてJAXAから発表される。
 私たちは、失敗知らずだった「イプシロンロケット」が初めて、打上げに失敗したことを知る。
 ここで紹介するのは、そんな2022年10月12日(水)の話。


 けっこう複雑でしたね。
 なんでかというと、CubeSatの場合は鹿児島の内之浦に持っていくんですけども、「KOSEN-1」では最後まで組み立てて、鹿児島に持っていく前まで、私も含め缶詰状態でいろいろやって「さよなら」だったんです。
 ですけど、「KOSEN-2」の方は幸い、内之浦でJAXAに引き渡すところまで一緒に行って、実際に引き渡すところまでやったので。「つぎは宇宙でね。」と別れたので。悲しい気持ちでしたけど、宇宙開発に「必ず」はないので。どんなロケットでも、人が関わると失敗が生まれるので。たまたまそれが我々の衛星だった、と思いました。

 こう振り返るのは、先代の「KOSEN-1」から引き続き、プロジェクトの中心メンバーとして「KOSEN-2」開発を主導した今井雅文さん。打上げライブの様子を新居浜高専で、開発に携わった数名の学生と一緒に見ていました。

 学生と見てました。学生たちはまあ、打上がって当然だと構えてたので。それが「あっ」となって。言葉を失うような、しーんとした感じでしたね。そこで私が、宇宙開発ではこういうこともあって、成功する時も失敗することもあって、というのを伝えて。まあでも、ショックですよね。

 開発に関わった学生たちの沈黙。「宇宙開発ではこういうこともあって、成功する時も失敗することもある」という言葉が、そこでしっかりと学生たちの胸に届くのは、今井さんが、若手研究者でありながら歴戦の宇宙科学者だということを、学生たちがしっかりと感じているから。今井さんは、前を向いています。

 ショックですけど、感情的になるより我々は、「KOSEN-2」をJAXAに渡して「やり切った」という思いも強かったので。引き渡し以降の段階は、我々もコントロールできないので。なるようにしかならないので。そのなかで‘ならなかった’のかな、という感じですね。次、‘なる’ようにするにはどうしようか、と考える感じですね。
 失敗が続くのがよくないので。原因を追究して次につなげるのはいいことだな、と思いました。我々の衛星は失われましたが、次につながることに関われたのかな、と思っています。

 この「KOSEN-2」に搭載された機器のプログラミングを、高専3年生から4年生のときに担当した窪田さんは、授業のため打上げをライブで見ることは叶わず、あとから「失敗」のニュースを聞きました。

 ライブは見れてないんですよ。授業中で。とにかくびっくりしましたね。なんか、19年ぶり(※)らしいんで。失敗は。それを、自分の衛星で引くとはなあ、という感じで。今井先生も、「ロケットは間違いなく打上がるだろう」と言ってたので。ショックでしたね。
(※イプシロンロケットと同じく「M-Vロケット」から多くの技術継承を受けたロケットとしては、2003年11月に「H-IIAロケット」が打上げに失敗。)

 いまも専攻科生として高専に残る窪田さんもそれでも、指導教員の今井さん同様、前を向いています。

 その時には、「KOSEN-3」が決まってたので。また衛星を作る機会があるというのは共通認識であったので、そこに集中すればいい、というのは言ってましたね。結局、「KOSEN-2」で作った技術は「KOSEN-3」に活用できるので、そういう部分ではまた、自分たちにできることがあるから、切り替えてやればいいかなと思いましたね。

 「KOSEN-1」にも増して、超小型衛星の開発と運用を通じた人材育成に力点を置くことが目指された「KOSEN-2」。打上げが叶わず、運用の段階に移ることができなかったことについて、今井さんはこう捉えています。

 「KOSEN-2」は、もちろん運用も人材育成で重要だったと思うんですけど、開発の段階までに、いろんな高専の学生が関わって、やっとモノとしてできあがってたので。ちゃんと出来上がったからこそ、JAXAも受け取ってくれたという感じです。衛星を作り上げる、ということそのものが最大の人材育成だと思います。
 「KOSEN-2」をつくったことは決して無駄にはならなくて、いまは「KOSEN-2R」という再チャレンジの機会をJAXAから与えてもらっているので。いまも開発は続いています。

 JAXAの「革新的衛星技術実証4号機」への搭載が2023年2月に決まった、「KOSEN-2R」。「R」は「Re-Challenge」、つまり再挑戦の「R」。学生たちの挑戦は、まだまだ続きます。

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