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「なげやりくん」奮闘記① ー「まずい、僕のアイデアが全部ポシャった。」

曰く、「ロボ研」の部室はパラダイスなんだそう。

 僕は、「高専ロボコン」をやりたくて新居浜高専に入ったので。中学校のときに1回、「中学ロボコン」出ましたけど、そのときは家にある材料だけだったので。ボール盤なんて一般家庭にはもちろんないので。もう、ネジとかで無理やり穴開けて。
 そんな環境からしたら、パラダイスですね。ここは。実習工房行ったら旋盤もあるし、3Dプリンターもあるし、ボール盤もあるし、材料もあるし、なんでも作れる。
 だからパラダイスですね。

 こう語るのは、「高専ロボコン四国地区大会」では「Aチーム」の一員としてロボットのコントローラーを握った、新居浜高専3年生の末永好一(よいち)さん。部員からは「好一さん」と親しみを込めて呼ばれ、笑顔も絶えない頼れるロボ研の部長です。
 「Aチーム」の、ボールを回収するロボットの設計・製作に加え、チームのロボット名「なげやりくん」の名付け親である彼は、「なげやりくん」命名の経緯をこう話します。

 「なげやりくん」というのは、9割くらい思い付きで「おもろいやん、決定!」という勢いだったんです。でも後付けで、今年のルールが難しいんです。それでも投げやりにならないようにがんばろう、という戒めを込めて。
(
ああ、難しいから投げやりでつくった、ということではなくて。)
 そう、投げやりにならないように、ということ。あと、実際にロボットを投げるので。去年が「もぎ取り君」だったので、その感じを引き継いだ、というのもありますね。

 他の部員や顧問の先生の受け止めを他のところで紹介している通り、今年のルールは難しかった。だから「投げやりにならないように」という願いを込めて、「なげやりくん」。命名の由来通り、今年のロボット製作は難航を極めました。

 金曜日になって、ルールに合致しない、って連絡が来たんです。で、やべえってなって。

 こう切り出したのは、2年生の菊池海梅(かいめい)さん。末永さんと同じく「Aチーム」の一員で、彼のロボット設計・加工の才能には上級生たちも一目置いている次代のエース候補です。2024年の四国地区大会では、高得点が狙える「ボックス」の回収・帰還を担うロボットの設計と製作、試合本番での操作を担当しました。

 (ルールに合致していない連絡を)先生を通して聞いたんですけど、聞いた時に、もともと作ってたロボットがグレーゾーンで、けっこう黒に近いグレーゾーンだというのは分かってたので、だめだったらやべえな、というのはありましたけど、「やっぱりか」とは思いましたね。「まずい、僕のアイデアが全部ポシャった。」とも思いました。
(当初から、もしだめだったらのBプラン的なのはあった?)
いや、いけると信じて、ダメだと言われても押し通す、押し通したいという気持ちでいたんですけど。

 元々製作していたロボットの箱の回収方法がルールの解釈上「ロボットではない」との連絡を受けたのが、本番前々日の9月27日金曜日、午後6時ごろだったと菊池さんは記憶しています。大会会場への出発は翌朝。体育館では最後の練習中。残された時間がわずかな中でも、’投げやり’にならないための怒涛の再挑戦が始まりました。

 部室内を、いろんな道具見ながら30分くらいうろうろして。どうしようかなって。で、やっとホワイトボードにいる要素を書いて、作り始めて。
 2時間くらい後、夜8時ごろには出来てました。軽くて、動いて、となると、軽いプラダンで、時間がないから結束バンドで留めて。結束バンドとプラダンなんで、免震ではあるんですよ。そういうのを脳内設計して。
 8時くらいにできて、部室が閉まる直前に「飛ばさせて!」と体育館に行って。で、
(飛距離的に)大丈夫そうだとなって、その日は終わりました。
 出来てしまうともう、僕にできることはなくて、制御の方の話になるので。制御の方が夜ずっとプログラムを書いてくれて、バスの中でもずっとプログラムやりながら、なんで動かないんだろう、とやって。
 だから、製作は1日で、回路と制御で残り2日ですね。

 末永さんが主導したボール回収ロボットと、菊池さんが奮闘した箱回収ロボット。この2つを発射するロボットの操作を任されたのは、2年生の高市健永(けんと)さん。他の部員から「守護神」と親しみを込めて評される、チームに落ち着きを与えるムードメーカーです。

 去年の大会は1年生チームと高学年チームだったんですけど、彼は去年の1年生チームのリーダーに立候補してくれて。その経験とかもあって。
 他のやつは、ロボットがうまく動かなかった時とかに「ああ、焦ってんな」と、見たらそれが表情が分かるんですけど、彼はそれが表情に出ないので。今年も「ふさわしい!」となって。

 このように評される高市さんですが、本人はもちろん、緊張していました。

 前日は大丈夫だったんですけど、前日は。でも当日は別で。朝も大丈夫で練習も大丈夫だったんですけど、会場に入った時に、それは緊張しましたね。周りを見る余裕がなかったので。
 でも、このロボットだけは、飛ばせることは分かってたので。着地の精度はあれど、飛ぶことは分かってたので。

 部長の末永さん。直前での仕様変更にも折れなかった、菊池さん。そしてムードメーカーの高市さん。新居浜高専Aチームの予選ブロック2試合が、始まります。


その②に続きます。

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