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学生に託す、鳥人間の夢  -指導教官・松田雄二教授の「かっこよく落ちる」青春

 新居浜高専で「鳥人間コンテスト」に毎年挑戦している「鳥人間航空研究部」の顧問を務める機械工学科・松田雄二教授。子どもの頃にテレビで見て、学生の頃には授業で聞いた「鳥人間コンテスト」出場は、1992年の新居浜高専着任以来の夢でした。

 新居浜高専に来てから10年目くらいですよ、鳥人間航空研究部を作ったのは。僕もずっと出たかったんです。でも、教員が旗振って「出よう!」と言うのは違うんで、あくまでやりたい学生を応援する。だから、応援する準備はずっと出来てたんです。
 というのは、僕が行ってた大学の教授も、「人力でどこまで飛べるか」というようなことを、授業でも採用して僕らに伝えてくれてて。もちろん、僕らの小さいときから鳥人間コンテストはあるし、小学校のころから見てたけど、でも、学生時代に「俺たちでやろうぜ」とはまったく思ってなかったんだけど。

 自身が顧問を務める部活動として動き出した、新居浜高専の「鳥人間」への挑戦。「ずっと出たかった」という自身と同じ夢を持つ学生は、少ないながら集まり始めました。

 僕は機械工学科だけど、電子制御の学生から、出たいんだけど、と相談があって。それで、「やろうや」と。「実は僕も出たかったんだ」と。
 でもやっぱり、問題はお金なんですよね。場所もなんですけど。高専最大級のモノづくりですから。当時は「フォーミュラクラス」って言って、初心者でも参加しやすいクラスがあったんです。滑空機のサイズが12m以内。ハンググライダーをいじったくらいで出来るよ、というね。地元・東予の産業だから紙を使おうか、地元素材を使うのはアリよね、とかね。いきなりアルミとかカーボンとかには手が出ないから、段ボールパイプで行こうか、とかね。そんなところから始まったんですよ。強度的に強いかどうかは分らんけど、東予の産業を活かそうや、と。まさかタオルでは飛べんしね。
 で、とにかく一回出場したいね、と。

 メンバーは集まった。東予の産業を活かす、という機体製作のコンセプトも決まった。しかし、高専生のモノづくり教育を念頭に置いている「ロボコン」や、幅広く出場チームを募っている「エコラン」と違い、「鳥人間コンテスト」はエンタメ番組制作のための大会。枠も限られている中、出場は容易ではありませんでした。

 鳥人間は番組制作のための大会なんです。それは説明会でもはっきり言われます。我々は、よく飛ぶ飛行機を採用するんじゃなくて、視聴率を取るためのコンテストを開いてるんだ、と。
 一方で、初出場は取り上げたいな、というのも言われます。人間模様を撮りたい、と。参加するチームも、恋愛ネタとか、廃部の危機とか、女性パイロットが飛ぶ、留学生パイロットが飛ぶ、とかね。

 ようやく初出場が叶ったのは、2007年。
 チーム名は、当時の部員たちが「渡り鳥」という意味の英単語から採って「Team Migrant」と命名。出場したのは、初心者にも門戸を開くために当時設定されていた「滑空機部門フォーミュラクラス」で、結果は8位。飛行距離は34mほど。2024年大会で645mという歴代最長記録が出た滑空機部門で、決して長いとは言えないその飛行距離は、言うなれば「ふわっと着水しただけ」というものだったかもしれません。

 映画『トイストーリー』のバズ・ライトイヤーのセリフに、「飛んでるんじゃないんだ、かっこよく落ちてるだけだ」というのがあるんですけど、あれが僕は大好きで。そのまんまなんですよ、鳥人間は。飛んでるんじゃなんですよ、落ちてるだけなんですよ。
 でも学生たちは、プラットフォームから上に向いて飛んでると思う。飛行機の離陸をイメージするから、当然そうですよね。でも、僕らは落ちるだけなんだよ、と。でも、その落ちる間に、落ちる力を前向きに変えないといけない。パイロットは30kgとかの飛行機を背負ってるから、プラットフォームでは全速力で走れないじゃないですか。だから、よたよたっと行って、落ちるんです。落ちた速度を使ってグイッと頭を上げないといけない。でもそれが難しいんですよね。頭を上げれると、100Mは行けるんだと思います。

 2007年の初出場以来、2010年代前半には連続出場を果たすなど、軌道に乗っていた「Team Migrant」。
 しかし、大会への出場は2017年を最後に、遠のいてしまいます。

 鳥人間は、連続性が叶わないですから。思いのある子の夢が叶わないことの方が多いですからね。高専は5年間だけだし。専攻科に行っても最大7年。そんな中で、学生の本業はもちろん学業で、そこにアルバイトとかデートとか、青春時代ですからいろいろあるわけですよ。それよりも順位的に上に、鳥人間を持ってこれる子が、「出れないけど、飛行機のことを勉強しとこう」という子が、どれくらいおるの、というね。

 2017年に1年生で「琵琶湖」を経験した後、専攻科に進学して新居浜高専7年目となっていた学生もついに、2024年3月に新居浜高専を卒業。「琵琶湖」を知るのは、顧問である自分だけ。そんな自分にも、定年退職へのカウントダウンが始まっている。
 そんな中でも、松田先生は「鳥人間」への熱を保ちつづけます。

 モチベーション的には、まずは自分が出たいからというのはあるんですけど、それは置いといて、まずは「鳥人間」が高専最大級のモノづくりだということ。設計図を描いて組み立てて形にして、こんな大きいものを作って飛ぶ。そんな体験は、どんな座学でも得られないと思うんです。自分たちの作ったものが飛ぶ。それに、人が乗ってる。
 しかも、我々機械工学科からすると、それは‘力学’で飛んでるんですよ。電子制御で飛んでない。そこが一番のポイントかなあと。センサーが良ければ飛ぶとか、資金がもっとあったら飛ぶとか、そういうことではなくて、翼の構造と、パイロットの重心移動と、落ちる力で飛んでいる。願わくば、落ちるんじゃなくて、少しでも前に飛びましょう、と。
 ほんとはプロペラ機を、という思いはあります。あるんだけど、あまり残された時間はないので。僕の指導の限界もあるので。
 ほんと、飛行機は繊細ですよ。適当に作った飛行機は飛ばないし。

 自らの熱意は冷めない。しかし出場機会に恵まれず、「学生になにか、出場機会を」と代わりに取り組み始めた「エコラン」や「海上自転車」に、学生たちの気持ちが流れていってしまう。そんな歯がゆい現状を、このように言葉にします。

熱く語りたいんだけど、熱く語る場所がないですね。飛行機はとくに。

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