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「KOSEN-1」と歩んだ最後の高専生活②「ああ、自分の作ったものがちゃんと形になってるんだ」

 その①から続きます。


 新居浜高専に在学した最終年度である2020年度に、今井雅文さんの研究室の一員として超小型衛星「KOSEN-1」の開発に関わった、秋葉祐二さん。1年間の開発は、楽しいながら苦労の連続でした。

 僕が担当していたのは、木星からの電波を観測できるようにするプログラムをつくったり、どういうシステムで電波を受信しようかという検討をしたり、そのプログラムの実装だったり、という部分でした。
 木星電波って2種類あって、突発的な電波と、数分から30分かけて放出される電波とあって。バースト性か、長期的な感じか、という。
 それぞれを同じようなプログラムで受信観測すると、データに冗長性
(重複する部分)が生まれたりするので、それぞれのニーズに合ったプログラムを書く必要があったので、それをつくるということをしてました。衛星が木星電波を受信する方のプログラムですね。

 プロジェクトの主要なミッションである「木星電波」受信について、地上だけでなく宇宙にも観測地点があることで、より精密に「木星電波」が観測できる点が有意義だとされた「KOSEN-1」。その核となる木星電波の受信プログラムを任された秋葉さんでしたが、自身の開発したプログラムで衛星が受信したデータの内容を、地上局と衛星とが通信して地上局に「下ろす」ためのプログラムは、他の高専が担当。「たくさんのプロジェクトメンバーと連携して開発を進める」難しさを痛感します。

 毎週オンラインミーティングをしていたので、他の高専の人でも、お互い顔は見えてましたね。
 受信した内容を地上に下ろす通信系の部分を担当している高専は別にあって、その通信系の高専の話を聞くと、想定以上に地上局に下ろせるデータが少なかったりして。そんなのを聞いて「え、今井先生、このままじゃプログラム、全然だめじゃないですか。」「ああ、ほんとだね。」とか話したり。
(秋葉さんが考えたプログラムでは100受信できるけど、通信のプログラムでは100をそのまま地上局には届けられないよ、となった。)
そうですそうです。実際は100受信できたとしたら、地上に届けられるのは10くらいで。ここから、そこ(送信できる容量)までデータを削って電波を受信するプログラムを作らないといけないのか、と思ったのは覚えてますね。「できたぞ!」と思ったのに、ぜんぜんできてない、という。その部分を担当してたのがたしか専攻科生で、年上だったんで、もう言うこと言われたら仕方ないよな、と思って。「え、そんな少ないん?」と今井先生と驚いた覚えはあります。「めちゃくちゃ少ないやん、もっと頑張れや。」と心では思ってたかもしれないです。だから、横の繋がりは、ミッションをやる上ではとても大事だと感じましたね。

 紆余曲折ありながらの衛星開発は、2021年3月に秋葉さんが新居浜高専を卒業する直前まで続きました。

 電波を受信するときの周波数を「木星電波」の周波数に合わせることで、「木星電波」が受信できるんです。それを例えば、新居浜FMとかに合わせればFMラジオが聞ける。「ラジオが受信できたということは、周波数を変えて、木星電波に置き換えれば、うまくいくよね」というように考えることができて。だから、地上で試験するときはラジオで試験してましたね。
 そうやって最初のうちはラジオで代替してたんですけど、卒業する1カ月くらい前に、実際に木星電波でも試してみようか、と今井先生に言っていただいて。そのテストをしたのが「うまくいったよ」という連絡を、大学に行ってから聞いたんですよね。受信機が地上にある時には実際に電波が受信できていて、中身も整合性がある。だからまあ、宇宙に行って、他の部分で失敗がなければ大丈夫だろうなと思ってましたね。ほんとはそれを、高専の在学中に聞きたかったですけどね。

 「KOSEN-1」が搭載されたイプシロンロケット5号機の打ち上げが成功したのは、2021年11月。秋葉さんが高専を卒業した7か月後のことでした。

 自分が作ったものが宇宙に行くっていうのは、自分の人生経験の中でもとても大きいことだと思ってて。そういうところに興味があったので、やらせてもらったというが元々のところなので。
 当時は、イプシロンロケットって失敗したことが1回もなかったので「自分が作ったものが形になれば、問題なく宇宙に行くだろう。」という自信があったんで。なので打上げが成功したのを見た時には「本当に宇宙に行った!」とは思いましたけど、もうその部分は心構えができていたので、感動は薄かったような気がしますね。
 その後、地球と通信できてると聞いた時の方が「ああ、自分の作ったものがちゃんと形になってるんだ」といううれしさがありましたね。そっちの方がうれしかったような気がしますね。打ち上がった瞬間よりも。通信がされてる、というのが、宇宙に居るっていう証拠なので。

 今まさにこの時も「KOSEN-1」からは、太陽電池の発電量やバッテリー残量など本体の基本情報がモールス信号で地球に届き続けているとのこと。それは秋葉さんの言う「KOSEN-1が宇宙に居るっていう証拠」なのです。

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