(赤玉村の住民紹介#2) 童貞だということを伏せて活動している自称恋愛マスター 木城 空斗
「そうなんよ。うん、うん。そうなんよなー。女って分からんよなー。いや、けどな?女って分からんよなーってことが分かったってことが大切なんよ。ほら、この前倫理の授業で習ったじゃん?ソクラテスの『無知の知』ってやつ。まず、自分自身が無知であることを理解することから全てが始まる!みたいな。お前って今、その段階なんよ。分かりやすく言うと。んで、問題はこっからで、じゃあ、どうやってアプローチしていこうかって話なんよ。ズバリ言うな?褒め上手になれ!褒め上手になれば全て解決なんすわ。「褒めるだけでいいんですか?」だって?うん。基本的にはそうよ。基本的には。けど、ただ褒めるのとは少し違うのよ。相手に刺さる褒めをしなきゃいかんのよ。ん?具体的にどうすればいいかって?まぁ、まぁ、慌てるな。俺は逃げねーから。じゃあ、ここで問題!今、目の前にめちゃめちゃ美人でいかにもモテそうな女性がいます。その人は少し大人しい感じの人です。さて、どうやって褒める?
「綺麗ですね」かぁ〜。はっきり言うね、その回答は0点。どうしてって?そりゃー、そうやって褒められたって相手が嬉しいと思わない可能性が高いからよ。だって、少し考えてみ?めちゃめちゃ美人の人って、これまでの人生で耳にタコができるほど「綺麗ですね」って褒められてる訳よ。それはもう本当にうんざりするほど。だから、今更お前から「綺麗ですね」って褒められたところで、相手はなーんも感じない訳。そりゃ、超絶イケメンの人から言われたり、その人が好意を寄せてる人からそうやって褒められたら嬉しいだろうけど、お前はそーいうタイプの人間じゃないだろ?俺らみたいなタイプってのは、褒めで相手に印象を残さないといけないんだから、大衆に埋もれてしまうような褒め方をしちゃいかんよ。分かる?そう!分かるよな。じゃあ、なんでお前はそういう間違いを犯したと思う?えっ、分からない?じゃあ、教えてあげよう!それはな、お前が自分の容姿に自信がないからだ!鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているな?いいね!いいね!つまりは、こういうことだ。人は自分が言われて嬉しいと思うことは、当然、相手も言われたら嬉しいと思うはずだと無意識に考えてしまってるってことよ。これの何が問題かって?そりゃそうだよな。保育園の頃から、「自分がされて嫌なことは、相手にもするな」っていう教育をされてきたもん。その逆もしかりだって思うよな。ただ、世の中そんなに甘くない。てか、そもそも「自分がされて嫌なことは、相手にもするな」っていう教え自体、疑ってかかる必要がある。例えば、性癖一つとってもそうだ。天井から吊るされて、女性から何発も鞭で打たれた挙げ句、夥しい数の罵声を浴びせられることって普通はされたら嫌なことだよな?けど、世の中には数万円払って、わざわざこれをしてもらいに遠くまで脚を運ぶ物好きな奴だっているんだ。要するに何が言いたいかというとだな、なにをされたら嬉しいのかは人によって違うってこと。
お前って自分の容姿を褒められたら嬉しいだろ?ある程度どんな人からでも「カッコいいですね!」とか「イケメンですね!」って褒められたら嬉しいし、それが超絶美人からだったらそりゃもう頭が爆発するほど嬉しいだろ?そうだよな。俺もお前と全く一緒で自分の容姿に自信がないが故に、そうやって褒められると凄く嬉しい気持ちになる。けどな、だからといって相手が容姿を褒められて喜んでくれるかどうかはわからないんだなぁー、これが。最初に言ったように、褒め上手になるには、相手に刺さる褒めをしなきゃいかんのよ。そのために大切なのは、主語を自分から相手に切り替えるってこと。要するに、「自分が言われて嬉しいから言おう」とかではなくて、「相手が喜ぶだろうから言おう」にしようぜってことだ。んで、その上でさっきの問題を考えると、相手は超絶美人なんだから「綺麗ですね」っていう褒めはNGだな。じゃあ、どうするか。俺レベルになると瞬時に様々な選択肢を思い浮かべることができるけど、まぁ、お前のような初級者が最初に考えることは、その人には「容姿褒め」と「内面褒め」のどっちが向いてるかってことだな。今回の場合は、「容姿褒め」は相手に刺さり辛いだろうから、「内面褒め」を選択する。そして、この「内面褒め」を選択した時に役立つ思考法として、4分割法ってのがある。4分割法というのは、その人の内面を、
・「その人も周りの人も知ってるその人」
・「その人しか知らないその人」
・「周りの人しか知らないその人」
・「その人も周りの人も知らないその人」
の4つに分割してみることを言う。相手と会話したり、行動を観察したりしながら、これらを分析していく必要がある。そして、ある程度分析することができたら、このなかでも2つ目、「その人しか知らないその人」の部分を褒めてあげる。
そうすれば、相手がお前を特別な存在として認識してくれる可能性が増える。なんでだろうか?この作戦は、人間の不思議な習性を巧みに利用してるからなんよ。さっき紹介した4つのその人、実を言うとどれも全部「本当のその人」なんよ。けど、人間って不思議なことに、本当の自分は自分しか知らない自分だって思い込んでいる。つまり、さっきの2番目のやつこそが唯一本当の自分だって。実際は全くそんなことないのにな。人の前ではふざけたことばっかり言う自分も、1人の時は顔が死んでる自分も、どっちも本当の自分なんすわ。だけど、何故だか人は、1人の時に顔が死んでる自分こそが本当の自分だって思っちゃうのよね。だから、「周りは私のことをちっとも理解してくれてない!」なんて不満を溢す。そして、太宰治の『人間失格』に心奪われるのさ。
んで、再び問題に戻ると、「性格褒め」を選択した上で、どう言った褒めをすればいいか。凄くシンプルな回答を教えよう。問題文から読み取れる相手の特徴は以下の2つ。
1, 美人
2, 少し大人しそう
まぁ、使えそうなのは2の少し大人しそうってやつだよな。この場合、大人しいっていう特徴は「その人も周りも知ってるその人」に分類される。その上で、「その人しか知らないその人」を考えなくてはいけないんだが、初級者さんは難しく考える必要はない。とりあえずは、「その人も周りの人も知ってるその人」と対照的なことを言っておけばOK。ただ、少しは捻りを加えないとダメよ。それを踏まえて「大人しそう」と対照的な褒めの例を挙げると、
「さっきから会話してて思ったんだけど、ワードセンス凄いよね、〇〇さん、めっちゃ面白いね!」
とか、
「〇〇さんと話してると、なんか凄く元気が出てくる!」
とまぁ、こんな具合かな。まぁ、合格点ギリギリの褒めだけどね、初級者はこれくらい言えたら十分でしょう。
よし、今日はこんな感じかな。
いいよ、いいよ。お礼なんて。特別なことなんて1つも教えてないから。ん?なに?彼女何人くらいいるの?ってか?
うーん。えっと、あっ、まぁー、「今は」いないかな。」