習作『・・は忘却される』
さて、何を書こうかと考えている間にどんどんと時間が過ぎていく。
もう少し考える時間が欲しいのだけど、その考える時間というのがどうでもいい些末な話ばかり浮かんで、『コレだ!』と話したい何かになる事は少ない。
だから今のところ、此れといって自分には書くことがない。そう説明しようと思うのだが、説明するためのボキャブラリーがこうも大量に必要となるのは一体全体どういうことなのだろう?
いや、書くことがないのなら唯々黙っているだけで勿論構わないはずだ。そんな気がするものの、誰かが何かを言い出すのを待ち望んでいる嫌な気配もする。その静謐とした空間を自分なんかが邪魔してはならない。身の程を知り、この身をわきまえて後ろに下がるとしよう。すると、うっかり棚なんぞにぶつかり、飾ってあった陶器製の食器を落とし、沈黙共々大きく破壊してしまうのだ。そして当然ながら大勢からの注目を集めてしまい、ゾッとする様なプレッシャーがこの身に襲い掛かって来る。クソ、しまった。やってしまった。
そのまま声をあげて逃げ出したくなる気持ちと闘いながら、血液を通して脳の奥から闘うための言葉を汲み上げていく。
どうせ大した話が出来る訳でもない。世間話感覚で今日の天気とかしておけばほんのわずかだが間が保たれるだろう。「いやぁ、暑くなってきましたね」などと、うわずった声で喋っておけば大丈夫だ。返ってきた言葉に適当に相槌を打ち、適当に誤魔化して、適当に場をつなげばいい。そのうち奇特な誰かが私の代わりに上手くやってくれる。そんな淡い期待と、誰も助けに来なかった時に備え、話をしながら逃げる算段を頭の片隅で始めている。
逃げる? 何から? 誰から?
そもそも逃げる必要が何処にあるのだろう。まったくないはずだ。それなのに逃げたい気持ちが心の底からある。逃げたい。帰りたい。この場所から離れたい。話すことが何もない。声が涸れてきている。ああ、水が欲しい。
勝手に恐れ慄き、息も絶え絶えに醜態をさらしてしまっている。足掻けば足掻くほど、自分が何を言いたいのか解らなくなってくる。
それでも逃げる気持ちと闘いながら、歯を食いしばって更に不明瞭な敵と向き合って闘いを重ねなければならない。前門の虎、後門の狼。どちらにせよ闘うしかないのだ。そうだ。闘え、闘え、闘え。面倒くさがっている自分自身との死闘、格闘、健闘せよ。とにかく屠れ屠れ。何度も立ち向かってくる敵の影を黒い血で汚せ。心の中を幾度も狂わせて、必死で平常心を装うのだ。矛盾で出来た屍の山を越え、その先に見えてくる栄光がきっとあるはずだ。あるはずなのだ。
そんなどうでもいい話すら忘れて、気がつくと時間ばかりが過ぎている。
さて、次からは具体性のある話をもっと考えなければなるまい。
やはり此れといって書くことがない。説明も済んでいない気がするが、まあ、いいだろう。
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