短編小説【空は青かった・ノースマイル】
※前作はこちら👇
授業が終わり僕は何処にも寄らず家に帰えり「ただいま」と店先の鉢を片付け出したバイトの甲斐さんに言うと「カズ君、おかえり」と彼女は口の端を持ち上げた。
「もう片付けんの?」
「うん、真紀さんが雨降りそうだからって」
「そう、母さんが…。後で手伝うよ」
「うん…」
店のドアを開けるとカランコロンとベルが鳴った。
中に入ると母に「おかえり。今日は?」と聞かれ「ただいま。手伝うよ」と返し店の奥の階段を上がった。
去年から母は自宅の一階で花屋を始めた。
店の手伝いをするとそれなりに給料がもらえた。
僕はジーンズに着替え店の前掛けを付け甲斐さんの手伝いを始めた。
母と甲斐さんは「ちょっと商品チェックしてくるね」と奥の倉庫に行ってしまい、店番をしてるとカランコロンとドアが開き入って来たのは同級生のチエだった。
「よっ。まだ帰ってないの?」とチエの制服姿を見ながら言った。
「うん…」
「いつもの?」
「うん…」
「少々お待ち下さい」
壁側にあるガラスケースを開け中からカーネーションを一本取り出し「これでいい?」「うん」「じゃ包むから待ってて」「うん」とチエは僕が包むのをカウンターの前で待っていた。
「今日だっけ?」
「うん…」
「これから?」
「うん…」
「雨降るらしいよ」
「そうなんだ。でも行かなきゃ」
「そう。はい」
「ありがとう」
精算し終えたチエはカランコロンと音を残し出て行った。
それから数分が過ぎ母と甲斐さんが戻って来た頃雨が降り始めた。
「やっぱり降って来たわね」
「そうですね」と外を見ながら話し合う二人に「ちょっと出かけて来る」と僕はエプロンを外しカウンター横にある自分の傘を持ち外に出た。
まばらに降り始めた雨が勢い良く降り出すのにさほど時間はかからなかった。歩いて行くと交通量の多い交差点付近の歩道にしゃがむ人影を見つけ僕は近づき頭上に傘をさした。
振り返ったチエを見ながら僕は言った。
「バーカ…」
「来るなら花ぐらい持って来てよ。それに私の分の傘は?」と空元気なチエ。
「うるさいな…。家まで送るよ」
「うん…」
僕らは無言のまま歩き始めた。直ぐ横をトラックや乗用車が引っ切りなしに通り喋りながらなど歩ける状態ではなかった。
僕はチエの耳元で「住宅街の方行かない?」と言うと頷き交差点を曲がり五分ほど歩くとさほど車の音が気にならなくなった。
「そういえば何でカーネーションなの? 母の日じゃないんだから…」
「うん。私もそう思うけどカヤノが好きだったし…」
「そっか…。今何考えてる?」
「そっちこそ…」
「お前が笑わなくなった理由…」
「理由なんてないよ…」
「そお?」
「だからやめてって! 何か聞き出そうとするような言い方」
「そんな言い方してないだろ」
「した!」
「そっ」
半年前、同級生のカヤノがトラックに撥ねられ死んだ。
事故か自殺かいまだに定かではないらしい。
カヤノが死んでからチエは月に一度同じ日にカーネーションを一本買いに来るようになり。
…その頃からチエは笑わなくなった。
何かに脅え、何かに苛立ち、少しずつ変わって行った。
僕は隣を歩くチエを見ながら「バカじゃねぇの…」と呟いていた。
「え?」
「お前が笑わなくなったからってカヤノは帰って来ねぇだろ」
「それぐらい分かってるよ」
「じゃ何で…」
「分かんないよ」
「カヤノは死んだんだ。ちゃんと泣いて自分の気持ちに整理つけて行かないと辛くなるのはお前だろっ」
「分かってるよ…。分かってるからもう言わないでよ…」
チエは立ち止まり、じっと僕を見つめながら、泣き始めた。
「誰が何と言おうとカヤノは自殺なんてしないよ」
僕はチエが泣き止むまでそばに居ようと思う。
あの日、屋上であったカヤノは確かにいつもと違って居たけど、自殺なんてしない…。
≪end≫
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