短編小説【空は青かった・彼女は風に髪を遊ばせた】
※前作はこちら👇
「チエ…。起きてんのか? チエ…」
ドア越しに父の声が聞こえた。
「うん。起きてるよ」
私はいつものように当たり障りのない返事をした。
今日も一日が勝手に始まってしまった。
見た夢もいつもと同じ。
学校の屋上から飛び降りた瞬間、いつものように父に起こされた。
制服に着替え軽く化粧し、最後に鏡を一瞥してリビングに向かった。
「おはよー」とエプロンを付けた父の後ろ姿に言った。
「おはよう。今日はハムエッグだ」
「ふ~ん。おいしそう」
愛想良く返し顔を洗い椅子に座った。
これが私の父だ。
母は私が五歳の時事故で亡くなりそれからずっと二人で暮らしてきた。
父は再婚する気がないらしく、母が亡くなってから家事、洗濯、掃除を二人で分担して生活していた。
「あっまずい。遅刻する~」
私は掛け時計を見て言った。
「ハムエッグは?」
「トーストだけでいいやっ」
バターの塗られたトーストを咥え玄関で革靴を履きドアを開けた。
「行って来ま~す」
「車に気を付けろよ」と奥から聞こえた。
「は~い」
急いで玄関を出て、少し走り、曲がり角からはゆっくり歩いた。
「遅刻する~」とは言ってもまだ10分ぐらいバスの時間まで余裕があった。
私は父が苦手だ。
得に意味はない。
ただ苦手なだけなのだ。
反抗期かな?
先月一七歳になったと言うのに父の「車に気を付けろよ」という口癖は小さい頃から変わらない。
母が交通事故で亡くなったからしつこく言うのも分かるけど…。
学校に着くと自分の教室に入る前に隣の教室を覗き込んだ。
あれ? カヤノ来てないんだ…。
そう思っているとチャイムが鳴り慌ただしく教室に駆け込む団体に混ざり自分の教室に入った。
それからすぐ担任が入って来た。
「知ってる者も居ると思うが昨日の夜、本校の女子生徒が学校近くでトラックに撥ねられ今朝亡くなった」
ざわつく教室内。
誰?
「時間変更がある一時間目は…」
私は担任の声より前に座る男子達の小声が聞こえて来た。
「あれって隣のクラスの瀬戸カヤノって娘だろ」
え? カヤノが死んだ?
私は自分の耳を疑った。
「らしいな」
「瀬戸ってあのおとなしい娘だろ」
「あぁ」
「そういえばさっき職員室で、まだ事故か自殺か分からないけど、たぶん自殺だろうって言ってた」
カヤノが自殺?
「何で自殺なんか…」
「知らねぇよ。でも自殺なら逃げたんだよ現実から」
「お前その性格直さねぇと友達無くすぞ…」
カヤノが自殺した? 何で?
…屋上行かなきゃ…。
立ち上がるとキーっと耳障りな音が響き、皆がこっちを振り向いた。
「どうしたんだ?」と言う担任を一瞥し何も言わずドアを開けた。
「どこ行くんだ!」
「どっか…」と呟きドアを強く閉め廊下に出た。
ざわつく教室。
私は女子の友達が出来にくい性格らしい。
男子みたいにサバサバしている方が好きなんだと思う。
でも、そんな私にも最近女の友達が出来た。
長い髪を二つに縛り、メガネをかけて本ばかりを読んでいたカヤノだ。
私は『立ち入り禁止』と書かれた看板をどけ階段を登り重い鉄のドアを開けた。
最初に会ったのも屋上だったけど、最期に会ったのも屋上になった…。
「バカ…」
カヤノが死んだから悲しんでいるんじゃない。
カヤノが私に何も言ってくれなかった事が悔しいだけ…。
お母さんもそうだった。
「来年は五年生だね」って言ってたくせにいつの間にか私の前から居なくなっていた。
でもカヤノは違う。
もしカヤノが自殺したんだったら…。
教室で前の席の男子が「逃げたんだよ現実から」と言った時、悔しかったけど私もそう思った。
「死んだらおしまいなんだよ…」
呟き、結んでいたゴムを外し風に髪を遊ばせた。
≪end≫
良いなぁと思ったら❤お願いします!
※続編はこちら👇
よければサポートお願いします!頂いたサポートは趣味に使わせていただきます。