短編小説【小さなキャンディー】
「…約束だからサヨナラは言わないね…」と、真っ赤な目をして涙をこらえ強がる彼女は、ボクのポケットにスッと何かを入れ「バイバイ」と、振り向くと行ってしまった。
肩が小刻みに震えていた。
「ゴメン」と素直に言えれば良いのに…。
彼女の去って行く背中を見つめながらそう思った。
今ボクが「ゴメン」と素直に言ったらキミはどうするんだろう?
と思いながら地面に落ちていたプラタナスの葉をポケットに忍ばせた。
何かが手に当たりポケットから出して見ると、小さなキャンディーだった。
付けっ放しの深夜ラヂオから流れてくる流行の歌を聞くわけでも、止めるわけでもなく、ただ付けっ放しにしていた。
暗闇の中眠れるわけでも、起きて何かをするわけでもなく、ただじっと天井を見つめていた。
開けっ放しのカーテンから入り込む月光…。
昇りつつある朝日を見ていたらいつの間にか頬に涙がつたっていた。
思ったより沢山思い出すものだと感心していた。
思ったより素直に泣けて良かった…。
付けっ放しのラヂオは子守歌になりそうだ。
やっと眠れる。
心の傷はきっと少しは癒せたかな…。
少しはキミを思い出にできるかな…。
冬が過ぎ、着なくなったコートはまるで想い出を隠すようにクローゼットの中へ。
再び冬が来てまたあのコートに手を通す。
ポケットの中から出てきたプラタナスの葉と小さなキャンディー。
「あっ、そっか…」と思い出して呟いていた。
あの時キミが最後にくれたキャンディーだ。
あの日、甘いモノが苦手だったボクにくれたキャンディーはキミの小さないじわるだったんだと思う。
とても甘いキャンディーなのに、でもきっと今食べたら少ししょっぱいキャンディーかも…。
≪ end ≫
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