短編小説【素直になれたら 2】
2 11月の夜
11月の寒い夜、僕は映画館前で待ち続けた。
約束の時間になってもハルカはあらわれず、何度もケータイにかけたが繋がらなかった。
ハルカの方からナイトショーに誘ったくせに遅刻するってどういうつもりなんだろう…とイラつき始め、もう一度電話しようとケータイを握ると空から湿った雪が降り始めた。
初雪だ…。
ハルカ見てるかな?
初雪だけは嬉しがるんだよな…。
空を見上げて居ると突然ケータイが震え出し画面を見るとハルカからだった。
「はい…え?」
淡々と喋るハルカじゃない誰かは信じがたい事を喋り続け、ゆっくりと降り出した雪の粒は頬に触れるとまるで涙が通ったように流れ落ち、いつの間にか電話が終わっていた。
座りたかった。
しゃがみたかった。
立ってなんて居られなかった。
でも一度座って仕舞ったらきっと動けなくなる気がして、沢山の恋人たちが幸せそうに行き交うネオン街を滑らないように駆け抜けた。
「ハァハァハァ…」
間違いであって欲しい…そう何度も思った。
「なぁハルカ、この暗くて寒い部屋の中でも二人寄りそえば少しは暖かいね。血で文字がにじんでるけどシワくちゃのバースデーカードとプレゼントちゃんと受け取ったよ。俺もさ、俺もハルカにプレゼントあるんだ。多分気に入ってくれると思うんだ…」
僕はポケットから小さな紙袋を取り出し、目の前に横たわるハルカのまだ暖かい指に紙袋から取り出した指輪をはめた。
「シンプルだろ。何が良いか、すごく悩んだ結果何だから文句言うなよ…。付き合ったところで将来とか結婚とか無いけど、それでも今日、俺さハルカにちゃんと告白しようと思ってたんだ…」
僕はハルカの手を両手で包んだ。
「なぁハルカ、何で何も言ってくれないんだよ…。何で、何でハルカがっ…クッ」
せっかく堪えて居たのに…クソッ。
ハルカの枕元に置いた血でにじんだメッセージカードを一瞥した。
『カナタ、おめでとう。
プレゼント気に入ってくれた?
私、カナタの優しい所と笑顔が大好きだよ!』
ハルカのプレゼントも指輪って…やっぱり俺ら双子何だな…。
ハルカの手を握ってる僕の両手が震え出し、全身でハルカの死を拒絶していた。
「なぁハルカ、愛してる…」
こんな時にしかちゃんと言って上げられなかった…。
返ってくるはずないと頭では分ってても、今なら聞こえるんじゃないかと何度も繰り返した。
安らかに眠るハルカに僕はやっぱりうまく笑えなかった。
もっと素直に受け入れられたら、きっと簡単に笑ってあげられたのかな…。
「ハルカが笑ってよ…」
僕はハルカの少し冷たい唇に初めてキスをした。
その途端、急に涙腺はゆるみ、体の脱力感と共に必死に堪えていた感情が表に現れ、それを止める事はもう僕には出来なかった。
「ハルカ! ハルカ…」
どんなに叫んでも届くはずないのに、
どんなに泣いても帰って来ないのに、
僕はただ泣き叫んだ。
その日、僕達の誕生日がハルカの命日なった。
≪ end ≫
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