「"Time Upon A Time"における瞬間の永遠性」 大道兄弟 写真展レビュー by Ducky Cho
「"Time Upon A Time"における瞬間の永遠性」
Ducky Cho
大道兄弟(優輝と康輝)による「 TIME UPON A TIME」展に入ると、説明文が一切ないことに気づく。展示を宣伝するアカウントを見ても、大道兄弟の過去を振り返る簡単な紹介文があるだけだ。従って、展覧会について事前に情報を得ていた鑑賞者も、展示情報や展示される空間についての情報がないまま偶然立ち寄った鑑賞者も皆、似た情報を持って展示場に入場することになる。
展示は、中央面を圧倒する木の壁と、シートで貼られた写真の上に10 冊の手作りの本が並んだ壁、そしてポスターで飾られた壁で構成されていた。中央面の写真がどのような規則で配置されたのか、写真間にどのような関連性があるのかを直感的に気づくことは難しい。しかし、中央に位置する誰かの部屋の写真は、自分が主人公であるという存在感を示している。単純に大きさや位置から来る圧倒感などではない。それは部屋にいた人がテーブルでお茶を一杯飲んで偶然撮影した雰囲気のある風景とは、微妙に異なる雰囲気を漂わせている。一般的な視線と言うには微妙に高い位置から撮影された場面は、まるで何かを「記録」するために撮影された写真ではないかという手がかりを与える。
では、「記録」は兄弟にとってどのような意味を持つのだろう?それが「TIME UPON A TIME」という展示のタイトルと関連しているのではないだろうか?
私たちが見たもの、感じたもの、会った人。その時の記憶は、私たちの頭の中に記憶や追憶という名前で保存されたりする。それが永遠であれば良いが、残念ながら記憶も追憶も心の中では永遠に美しく輝いても、実際の状況は極端なある断片を除いてはぼんやりとぼやけてり形を失ったり、ある記憶は最初からあったのかもわからないまま消えてしまったりする。大道兄弟はこの消えゆく記憶を保存するため写真を撮る。とても伝統的で、もしかすると写真の本質に近い行為だと言える。
展示のメインの壁は写真が占めているにもかかわらず、鑑賞者が最も多くの時間を費やす部分は、兄弟の手作りの本たちが並ぶ左側の壁だ。兄弟は個別に、または共同で本を制作している。しかし本の流れは非常に自然で、まるでひとりの人間の視覚から構成されたようにみえる。本から本への流れもまた同じだ。
膨大な量のイメージからは、社会の告発や問題意識は見て取れない。彼らの記録が「喪失」から始まったことを考慮した時に見えるような特有の圧倒的な切迫感や執着的な姿も、やはり見て取れない。ありのままの記録だ。兄弟の写真は自由だ。公式に出版された少数のタイトルを除けば、 すべて手作りで制作されたため、形式もまた自由だ。10年という歳月の膨大なイメージは自由な形の中で見るものを飽きさせない。
記録は、10年という時間の流れを背負い強力な力を生み出す。この正直さこそが、大道兄弟の写真が持つ力だと信じている。彼らの写真は「記録」の直訳である「ドキュメンタリー」とも異なり、むしろ非常に私的な歴史書に似ている。
彼らは黙々と記録する。現代社会でしばしば過小評価される「忍耐」の価値に該当するかもしれない。彼らは黙々と写真を撮り、脈絡を作り、結果物を提示する。そしてその過程をまた繰り返す。この率直さが彼らの写真を強くする。
「見て」「記録して」「作り出す」という行為が積み重なった時間の全てが、ひとつの壁に広がっている。それで「TIME UPON A TIME」なのかもしれないと思った。
この展示の全ての焦点は、写真を「見ること」に合わせられ、大道兄弟は展示の趣旨に忠実に、 できるだけ多くのことを見せようとしていた。そしてその写真を見た第三者の感情が気になったことだろう。展示場の片隅に置かれた芳名録には展示を見た人のフィードバックが書かれていた。ほとんどの芳名録は名前と日付だけを残すのに反して、短くても簡単な文が多く書かれているのを見ると、このフィードバックはおそらく、長い時間をかけて出した兄弟の全てを見た人が残した一種の挨拶かもしれないし、意識してかどうか、兄弟の積み重なった時間 (TIMETIME)の、僅かな一部に残りたい(UPON A TIME)という小さな欲望から始まったものかもしれないという気がする。
──「"Time Upon A Time"における瞬間の永遠性」
大道兄弟 写真展 Ducky Cho氏による評 より
展示風景 写真 :大道兄弟、FF Seoul、赤々舎
大道兄弟 写真集『My name is My name is...』はこちらから
Book Design:大道兄弟
発行:桜の花本舗 × 赤々舎
H252mm × W227mm |64 pages |Hardcover
Published in March 2024