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【短編小説】ヴァーティカルラヴ

あらすじ


高校受験の合格発表の日。

イズ コウは、自分の受験番号を確認するために、ひとりで星野ヶ丘高等学校に来ていた。

そこでイトウ ヒカリという女の子と出逢う。

一目惚れをしてしまったコウは、ヒカリに逢えることを楽しみに入学式を迎えたが……。


第一章 イズ コウ


3月15日。高校受験の合格発表の日。

志望校の正門をくぐる。

校内掲示板の前にはたくさんの受験生でごった返している。

自分の受験番号を探している者。

友人同士で抱き合っている者。

大声で叫んでいる者。

ただ立ち尽くす者。

泣いている者。

高校受験という人生の壁に、ここにいる全員が挑み、そしてひとりひとりにドラマがある。

俺は掲示板を前に唾を飲んだ。

自分の番号を探し始める。

俺の番号は385。

丁寧にひとつひとつ目で追っていく。



369、375、377、380、381、



385



あった。


受かったんだ。


この場にひとりで来たから、誰に知らせるわけでもないのに、嬉しさのあまり思わず隣を見てしまった。


目が合った。


肩まで伸びた黒髪にキラキラとした大きな瞳が印象的な可愛いらしい人だった。


「「あっ、」」

俺と、その子の漏らした声がハモる。

「あっ、ありました?」

向こうから尋ねられる。

「あっ、りました。あっ、りました?」

俺は流れで聞き返した。

「あっ、りました!」

俺と彼女はお互いに「おぉ!」とハイタッチをした。

「私、イトウ ヒカリ」

彼女はニコニコしながら名乗った。

「俺、イズ コウ」

「コウくんね!覚えたっ!一緒のクラスになれるといいね!」

彼女はそう言うと、親を待たせてるからと、すぐに行ってしまった。

一緒のクラスになれるといいね!

その言葉を脳内でリフレインしながら、彼女が駆けていく姿を見送った。


「イトウ ヒカリ」

なんだろうこの感覚。

まだ彼女と話していたい。

もっと彼女を知りたい。

たくさんの受験者がこの場にいるはずなのに、彼女の駆けていく姿以外何も見えてこない。

後になって知る。



これが、俺の人生初の、一目惚れであると。

*  *  *


入学式。

新入生は体育館に集められ、クラスごとに整列している。

俺は11組だ。
春休み中に学校からのメールで知らされた。

ヒカリは何組だろう。

入学式までの間に何度彼女を想っただろう。

ふとした時に、ヒカリのことを考えてしまう。

そんな自分をヒカリが知ったら、気持ち悪いと思うだろうか。

なんだか嫌われてしまいそうな気がして、ヒカリのことを考えてしまう自分が嫌になることもあった。

だけど掲示板の前で逢った彼女との場面を思い出してしまう。

そんなどうしようもない日々を経て、入学式を迎えた。

もしかしたら今日ヒカリに会えるかも。
俺のこと、ちゃんと覚えてるかな……。

そんな淡い期待と不安を胸に、体育館で整列している新入生をひとりひとり目で追っていく。

見える範囲に、ヒカリはいない。

クラス、離れちゃったかな……。

勝手に期待してひとり落ち込んでしまっている自分を気持ち悪いと思った。

入学式も終わり、いよいよ高校生活がスタートした。

11組に入ると、すでに友達づくりに成功している人たちがちらほらいた。

俺も流れで声をかけられ、みんなとの輪の中に交ざることができた。

担任が入ってきて授業が始まると、全員の自己紹介を行った。

結果、11組にはヒカリはいなかった。

一緒のクラスになれるといいね!

彼女の言葉を脳内再生し虚しくなる。

でもまぁ他のクラスでも会えないわけじゃないし。

虚しさを忘れようと、無理やりポジティブな思考にしてみる。

休み時間、お手洗いへ向かう途中に他のクラスを覗いて歩いた。

が、ヒカリは見つけられない。

一学年12クラスあるからな。
そう簡単に見つかるはずもないか。
そもそも同じ階のクラスとは限らないし。

結局この日は、ヒカリを見つけられずに終えた。

*  *  *


あれから半月が過ぎた。

それでわかったことがある。

この高校に「イトウ ヒカリ」なんて子はいない。

この目で確認したのだ。

同じクラスの男子が「同学年のミス(可愛い子)を探す旅」とかなんとかを企画して、全クラスに乗り込んだことがあった。
俺もしれっと便乗し、ひかりを探した。

だけど、ヒカリはいなかった。

全クラスの出席簿を確認したのだから間違いない。

3月15日。合格発表の日。

あの日、確かに俺たちは掲示板の前でハイタッチをした。

何かの間違いで合格が取り消しになってしまったのか。

それとも親の仕事の都合で、別の高校に通うことになったのか。

俺の恋は、入学して半年で叶わないことが確定してしまった。

*  *  *


入学してから3年の月日が経とうとしていた。

俺は、ヒカリがこの学校にいないという事実を知ってから、よく勉強するようになった。

喪失感を勉学で埋めたのだ。

その哀しい努力が実り、志望する大学への合格が決まった。


そして今日、俺はこの学校を卒業するーー。

★  ★  ★

第二章 イトウ ヒカリ


3月15日。高校入試合格発表の日。

私は、お父さんの車を降りて、校内掲示板の前までやってきた。

そこにはすでにたくさんの受験生でごった返していた。

自分の受験番号を探している者。

友人同士で抱き合っている者。

大声で叫んでいる者。

ただ立ち尽くす者。

泣いている者。

高校受験という人生の壁に、ここにいる全員が挑み、そしてひとりひとりにドラマがある。


やだ。吐きそう……。


自分の番号を探し始める。

私の番号は385。

丁寧にひとつひとつ目で追っていく。



369、375、377、380、381、



385



あった。


受かったんだ。


嬉しさのあまり、思わず隣を見た。


目が合った。


アップバングの前髪に、ツーブロックで刈り上げた短髪のイケメンくんだった。


「「あっ、」」


私と、彼の漏らした声がハモる。

待って、何この少女コミック展開!
マジ無理、私、あーもー知んないっ!


「あっ、ありました?」


私から尋ねる。


「あっ、りました。あっ、りました?」


流れで聞き返された!やった!


「あっ、りました!」


私と彼はお互いに「おぉ!」とハイタッチをした。

この流れ、いける!
そう確信した私は、彼の名を聞くために攻める。


「私、イトウ ヒカリ」

「俺、イズ コウ」

「コウくんね!覚えたっ!一緒のクラスになれるといいね!」

私はこの展開に耐えられなくなって、親を待たせているからと、その場から立ち去ってしまった。

あー、馬鹿。
連絡先まで聞くんだった。


「イズ コウ」

コウくん。

この胸の高鳴りは何?

他の人に声をかけるのとは違う。

少し緊張感があって、だけど嫌な緊張じゃなくて、ワクワクゾクゾクするような、そんな胸の高鳴り。

私は後に知る。




これが私の人生史上初の、一目惚れであると。

★  ★  ★


入学式。

新入生は体育館に集められ、クラスごとに整列している。

私は11組だ。
春休み中に学校からのメールで知らされた。

コウくんは何組だろう。

入学式までの間に何度も彼のことを想った。
仲の良い友達には、合格発表での出来事をすでに共有してある。

見た目クールなのに、声かけてみたら案外可愛い表情しちゃってさ。
「俺、イズ コウ……」とか照れちゃってさ。
人の良さ滲み出てたし、モテるんだろうなぁ。
彼女とかいるのかな。はぁーやだぁー。
てか初対面で会った人にこんなこと思われてるなんて知ったら、コウくんにウザがられるかな……。

だけど掲示板の前で逢った彼との場面を思い出してしまうんだから、しょうがないよね。
恋は止められません!

そんなどうしようもない日々を経て、入学式を迎えた。

もしかしたら今日コウくんに会えるかも。
私のこと、ちゃんと覚えてるかな……。

そんな淡い期待と不安を胸に、体育館で整列している新入生をひとりひとり目で追っていく。

見える範囲に、コウくんはいない。

クラス、離れちゃったかな……。

勝手に期待してひとりで落ち込んで馬鹿みたい!

入学式も終わり、いよいよ高校生活がスタートした。

11組に入ると、すでに友達づくりに成功している人たちがちらほらいた。

私も積極的に声をかけることで、みんなとの輪の中に交ざることができた。

担任が入ってきて授業が始まると、全員の自己紹介を行った。

結果、11組にコウくんはいなかった。

一緒のクラスになれるといいね!

自分の言葉を思い返して虚しくなる。

でもまぁ他のクラスでも会えないわけじゃないし!

こんなんで落ち込んでられるかー!
クラスにいないのなら、会いにいくのだー!

休み時間になると、同じ階の8組から12組まで覗いて、コウくんを探した。

が、コウくんは見つけられなかった。

まぁ、12クラスもあるし、同じ階にいるとは限らないしね!

結局この日は、コウくんを見つけられずに終えた。


★  ★  ★


あれから半月が過ぎた。

それでわかったことがある。

この高校に「イズ コウ」なんて生徒はいない。

ちゃんと何度も確認したのだから、間違いない。

友達に聞いても、そんな人知らないと返されるし、先生たちにも聞いたが、そんな生徒はいないらしい。

とある日の放課後、担任に、昨年度にこの学校を受験した受験者一覧があるかを尋ねたことがある。

受験者一覧はあるらしい。
が、個人情報だから見せるわけにはいかないだろ〜、と笑いながら返された。

見せなくてもいいから!と、無理言って、受験者一覧に「イズ コウ」が載っているかだけ確認してもらった。

その翌日、担任からの回答は「いなかった」だった。

嘘だ……。

3月15日。合格発表の日。

あの日、確かに私たちは掲示板の前でハイタッチをした。

受験者一覧にいないってどういうこと?

そもそも受験してないってこと?

でも合格発表の日、ありましたって。

もしかして私、

合格したことが嬉しすぎて、

誰かに一緒に喜んでもらいたくて、



幻覚を見てしまったとか?



あーもーなになにーー!
幻覚に恋してたの私?
イタすぎるんですけどーー!

でもハイタッチした感覚もちゃんと覚えてるんだけどなー。

あの日の出来事が、夢か現実かわからないけれど、ひとつだけわかってしまった。

それは、私のあの恋は終わってしまったということ。

★  ★  ★


入学してから3年の月日が経とうとしていた。

私は、コウくんがこの学校にいないという事実を知ってから、よく勉強するようになった。

喪失感を勉学で埋めようとしたのだ。

その哀しい努力が実り、志望する大学への合格が決まった。


そして今日、私はこの学校を卒業するーー。

* ★ * ★ * ★

第三章 ふたつの豆は光を見る


3月9日。卒業式。

体育館で卒業証書を受け取り、在校生、卒業生ともども合唱を終える。

全プログラムが終了し、体育館を後にする。

外には在校生たちが通路の両サイドに立ち、卒業を祝福してくれている。

在校生ロードも後半まで行くと、各部活動で固まったエリアに入る。
そこでは後輩たちが、先輩の卒業を祝ったのであろう紙吹雪が大量に落ちていた。

部活動をしていた人は、後輩から花束やら、ぬいぐるみやら、寄せ書きやら諸々とプレゼントされていた。

俺はその光景を微笑ましく思いながら、校内掲示板の前まで行く。

掲示板のガラスに反射したのは、胸のコサージュと卒業生全員がもらえるお菓子の首飾りのみを身につけた自分の姿だった。
左手には、卒業証書が入った筒を握りしめている。

3年前の3月15日。

ここで高校入試の合格発表があって、ヒカリと出逢った。

一緒のクラスになれるといいね!

彼女の言葉を思い出す。

深く肺に空気を溜めて、ゆっくり吐いた。

結局ヒカリには逢えなかったな……。
ヒカリも今日で、どこかの学校を卒業したのかな。


さよなら、ヒカリ。
今日、俺は、星野ヶ丘高等学校を卒業します。


ガラスに映る自分から目を逸らし去ろうとした時、


目が合った。


肩まで伸びた黒髪はパーマが緩くあてられており、キラキラとした大きな瞳を持つ女子生徒。

星野ヶ丘高校の制服を着たの彼女。
胸にはコサージュ、首にはお菓子で作られた首飾りが何本もかけられている。
卒業証書の筒を持った左手で、クマのぬいぐるみを抱えている。


「「えっ」」

俺と彼女の漏らした声がハモる。


「コウ…くん……?」


彼女は俺の名前を呼ぶと、手に抱えているものを全て地面に落とし、両手で口を押さえ目を見開いている。

カランコロンと落ちた卒業証書の筒が、少し転がって止まった。


「ヒ…カリ?」


俺が名前を呼び終わった瞬間、身体の前面に衝撃を感じた。

衝撃の後に、シャンプーの香りがふわっと鼻腔へ入ってくる。

ギュウっと身体を抱き寄せられる感覚。
俺はハグをされているのだと理解した。

そう理解した瞬間、恥ずかしくなって、でもヒカリに逢えたことが嬉しくて、冷静を装いながら、軽く彼女の腰辺りに腕を回した。

「やっ、と見つけた」

表情はわからなかったが、彼女が絞り出したかのように発したその声からは、嬉しさとか安堵とか怒りとかそういう感情が複雑に混ざっているように感じとれた。

「それ、こっちのセリフだから」

自分でも驚くくらい冷静で、それでいて何か凍っていたものが溶けていくような複雑な感情で返答した。

俺たちは一旦距離を置く。

改めてお互いの顔を合わせ見つめ合う。

ヒカリだ。ヒカリがそこにいる。

俺は3年前のヒカリと、今のヒカリを重ね合わせる。

「パーマ、あてた?」

「高一にあがってから、ずっとあててますぅ」

俺の問いにヒカリは目を逸らし、少し口を尖らせながら、人差し指で髪先をくるくると巻いている。

「すっげー似合ってる」

何も考えず本音を漏らしてしまって、すぐに照れ臭くなってしまった。


ヒカリは唇を噛んでいる。

「あ、ありがと。ってかコウくん、なんでここにいんの?!」

何故か少し怒ったような口調で前のめりになっているヒカリ。

「それもこっちのセリフだから。なんでヒカリがここにいんのさ!」

入学してしばらくヒカリを探していた時期を思い出して、俺も少し荒く返してしまった。

「なんでって、私ここの生徒だもん!そりゃいるでしょ!」

「嘘だ。俺はちゃんと探した!イトウ ヒカリはこの学校にはいなかった!」


「そっちこそ、合格発表の日、番号あったって言ってたくせに入学したらいなくてさ!先生にも確認したけど、受験者にイズ コウなんて人はいないって言われて……。どんなに辛かったか……」

ヒカリは少し目をうるうるとさせている。

「はぁ?意味わかんないし。それに番号ならちゃんとあったから!」

俺はポケットからスマホを取り出して、手帳型のケースを開く。

その中から、二つ折りにして仕舞っていた受験番号を取り出してヒカリに見せた。

385

「これ、俺の受験番号。そしてほら、ちゃんとあるだろ?」

続けてスマホのアルバムから、3年前の合格発表の日に撮った掲示板の写真を見せる。

掲示板にはちゃんと「385」が記載されている。

人生の壁を突破した記念に、なんとなく残しておいた受験番号がここにきて役立つなんて誰が予測できただろうか。

「え、ちょっと待って……」

ヒカリも慌ててスマホを取り出すと、手帳型のスマホケースから1枚の紙を取り出して俺に見せた。


385


「これ、私の受験番号なんだけど、、、」

「え」

何がどうなってる。

俺とヒカリは同じ受験番号。

あり得ない。

それに、お互いに合格はしているが、入学してから一度も会うことはできていない。

二人はそれぞれ学校でお互いの存在の確認を試みたが、その存在は確認できなかった。

そして、卒業式の今日、こうしてこの学校で二人が再会している。

「ねぇ、何が起こっているの?」

不安そうな顔で俺に問いかけるヒカリ。

「わからない。なぁ、ほんとにヒカリはずっと今日までこの学校に通ってたんだよな?」

俺は信じられなくて執拗にヒカリに投げかけた。

「うん。そして今日卒業した」

ヒカリは地面に転がっていた自分の筒を拾うと、中から卒業証書を開いて見せた。

俺は思わず息を呑んでしまった。

「ヒカリ、、お前、、、!!!」

「な、なに?!」

不安そうな声で返すヒカリに、俺も左手に握っていた筒から卒業証書を取り出して見せた。


「えっ」


ヒカリも固まってしまった。


卒業証書 伊豆 光 殿

お互いに見せ合った卒業証書には、伊豆 光の名前が記載されていた。

イズ コウ と イトウ ヒカリ

状況が飲み込めない。

同姓同名の読み違い?

ほんとにそれだけか?

その瞬間、俺は止まった時の中にいるかのような不思議な時間の流れを感じた。

その止まったような時の中で、これまでの出来事を走馬灯のように思い返すーー。

ヒカリとの出逢い。

入学式。

ヒカリを探す自分。

ヒカリのいない学校生活。

受験勉強の日々。

卒業式。

ヒカリとの再会。

ヒカリの言葉。

同じ受験番号。

そして、伊豆光が記載された2つの卒業証書。

全てが脳内を駆け抜けた後、俺とヒカリは互いに目を合わせて口を開いた。

「「平行世界パラレルワールド?」」

「嘘だろ……/でしょ……」

男性として生まれた伊豆光と、女性として生まれた伊豆光の平行世界が重なったのだろうか。

そんな都市伝説みたいなことがあるわけない。

3年前に重なった平行世界は一度離れたが再び今日重なったということなのか。

わけがわからない。

何が起こっているかはわからないが、またヒカリに逢えなくなるような気がして、急に怖くなった。

「ねぇ、コウくん。一緒に写真撮らない?」

ヒカリも同じことを思ったのだろうか。

何が起こっているのかわからない。
そして、これからまた何が起こるかもわからない。

だから今こうして二人が一緒にいる証を写真に残したい。

「撮ろう!」

俺とヒカリは掲示板の前に座りこみ、壁にもたれかかる。

そして卒業証書をそれぞれで持ち、肩を寄せ合った。

「はい、チーズ!」

ヒカリがスマホのインカメでシャッターを切った。

「連絡先交換しよ!写真送る!」

ヒカリは慣れた手つきでスマホを操作する。

俺もスマホを差し出した。

ヒカリが俺のスマホのQRコードを読み取る。
イトウヒカリのアイコンを友達追加ボタンを押して登録完了。

どうやらちゃんと登録されたらしい。

ピコン。


俺のスマホが鳴った。

通知はヒカリからのもので、写真が添付されている。

写真をタップすると、カップルのように寄り添い合う俺とヒカリが写っていた。
手には伊豆光と記された2つの卒業証書。
二人ともいい笑顔をしていた。

ヒカリは再び肩を寄せてきて俺のスマホを覗き込んできた。

「めっちゃ良くなーい?なんか、カップルみたいだねっ」

そんなヒカリの言葉に胸が高鳴った。

ここしかない。

俺は何かを決意した。


「なぁ、ヒカリ」

「んー?」

目を合わせずに、微笑みながら写真を見ているヒカリ。

「俺さ、実はあの日からずっと、ずっとヒカリのこと考えてたんだ」

ヒカリは黙って写真を眺めている。

俺は恥ずかしくなって視線を遠くに向けたくなったが、ヒカリにまた逢えなくなるような気がして、頑張って目を向ける。

「笑うよな。あの日、合格発表の日。ヒカリと出逢って、ハイタッチして、お互いに名前を名乗って、ただそれだけだったのに。一緒のクラスになれるといいね!って言ってくれた時のヒカリの笑顔が忘れられなくてさーー」

照れ臭くなって饒舌にダラダラと喋ってしまっている。

俺の悪い癖だ。

「だからその、入学したらヒカリにまた会えるって思ってたんだけど、なぜか会えなくてーー」

「っぷ、あははは!」

着地点を見失っている俺の話を遮るように、ヒカリは笑い出した。

「長い長いっ!」

泣きながら笑っているヒカリ。

「こういう時はね、シンプルでいいんだよ」

ヒカリが微笑みながら俺を見る。

「ありがとう。私もおんなじだったから、わかるよ」

そう言うと前を向きなおり、俺の肩に頭を預けた。

「すきだよ。コウくん」

俺は身体の芯から、ブワッと熱が込み上げてくるような感覚に陥った。

俺が言いたかった言葉を、ヒカリは簡単に口にした。

こういう時は、シンプルでいい。

そのシンプルがゆえの破壊力を、今全身で感じている。

俺は結局「すき」と言えずに、ヒカリの頭に軽く自分の頭を乗せ返すことで「すき」を伝えたのだった。

* ★ * ★ * ★

第四章 その先へ


あの後、学校から少し外れたところにある小さな公園へ行った。

公園のベンチで「これまでのこと」と「これからのこと」について話し合った。


入学から半年でヒカリを失った喪失感を勉学で埋めたこと。
その結果、志望する難関大学へ合格したこと。
将来、科学の分野で社会に貢献したいと考えていること。

ヒカリも俺に逢えない気持ちを勉学で紛らわせていたこと。
結果、志望する難関大学への進学が決まったこと。
将来は、アナウンサーになりたいと考えていること。

他にも色々話し合った。
あっという間に夕暮れ時。

話題は、今後の二人について。

「俺とヒカリが別世界で生きている者同士だとしたら、今日が終われば明日にはまた逢えなくなるかもしれない」

「そうだね……。帰りたくないな」

ヒカリは俺の肩に軽くもたれかかった。

「ヒカリの親も心配するし帰らないわけにはいかないだろ」

ダンマリするヒカリ。

「逢えなくなるかもしれないけど、また逢える可能性は残っていると思うんだ」

俺の言葉にヒカリは身体を起こして俺に向き直る。

「どういうこと?根拠は?」

「根拠はないけど、3年前に掲示板の前でヒカリと出逢った。その後はいっさい逢えずじまいだったけど、約3年後の今日、あの掲示板の前でまた出逢えた。つまり、あの掲示板の周辺は俺とヒカリの世界が重なるスポットのような場所になっていて、2つの世界が重なるスパンは最低3年周期ってことだと考えてるんだ」

俺は仮説を話した。

「なるほど。じゃあまた今日から3年後に掲示板の前に行けば、また逢えるかもしれないってことね!」

ヒカリは少しだけ嬉しそうに言った。

「そういうこと。だからその、もし、もし可能であれば、協力して欲しい。2つの世界の重なる周期と重なっている時間の長さを調査したい。ただこれはかなり無理なお願いになるから、できる範囲でいい」

俺は続けて調査内容を伝える。

「俺は、可能な限り毎日学校の正門前に来る。正門から掲示板までそう離れていないから、正門前も2つの世界が重なるスポットの範囲内である可能性が高いと思う。だからヒカリも来られるときだけでいいから、正門前に来てほしい」

無茶な依頼をヒカリにしていることは重々承知している。

だけど、俺はどうしてもヒカリと繋がっていたいと本気で思っていた。

断られることを覚悟してのお願いだった。

熱くなってしまったせいか、膝の上に置いていた手は、無意識に拳を握っている。

「コウくん、私のこと、超好きじゃん」

視線を膝下からヒカリに移すと、ニヤニヤしているヒカリがこちらを見ていた。

何も言い返せず目を逸らした。

「わかった。来れる時は正門に来るね!そしたらなるべく集まる時間帯は決めていた方がいいよね。あと必ず来る日とかも決めてた方がいいと思う!」

ヒカリの前向きな意見に、少し希望が見えた気がした。

「そうだな!それじゃあ時間は夜にしよう。学業やバイトとかに支障が出ないようにしないとだから、23時〜24時の間とかどうかな?」

あくまでそれぞれの日常はちゃんと確保する必要がある。だからこの調査のための時間は、なるべくお互いの生活に支障をきたさないよう深夜帯で俺は提案した。

「いいね!そうしよう!必ず来る日については、土曜日にしない?あと毎年3月9日から3月15日までの期間は毎日来る!」

「土曜日了解。毎年3月9日から15日?あーなるほど。俺たちが初めて出逢ったのは3月15日で、再会した今日が3月9日ってことは、3月9日から15日の間は2つの世界が重なっている期間になっている可能性が高いってことか!」

「イエース!さすがコウくん、私のすきぴだ!天才!」

ヒカリはピースサインをしてみせた。

「すきぴは恥ずいて」

「照れんなって」

ヒカリは肘でおりゃおりゃと横腹を攻撃してくる。

「じゃあ、明日は3月10日だから正門前に集合だな!」

俺はヒカリの肘攻撃を抑える。

「逢えるよね?」

少し不安そうに肘攻撃を止めるヒカリ。

「きっと逢えるよ」

俺はヒカリの手を握った。

「今日は寝る前にメッセージしてね」

ヒカリも手を握り返す。

「おっけ」

メッセージだって、いつ連絡が途絶えてしまうかわからない。今日はスマホで写真を送れたけど、もしかしたら2つの世界が離れてしまったら連絡がつかなくなるかもしれない。

ヒカリもそれはきっと知っている。

だからわざわざ正門前に来る日を決めて、調査に協力してくれる言ったのだとわかる。

夕空が藍色に染まっていく。

公園の電灯が点いた。

「いこうか」

「うん」

俺とヒカリは手を繋いだまま、ベンチから腰を上げ歩き出した。

* ★ * ★ * ★

第五章 人類の光


巨大なスクランブル交差点。

歩行者用信号機の音が鳴り止み、車が交差点を行き交う。

交差点を囲むように立ち並ぶビル群には巨大な電光掲示板や大型モニターが設置されている。

大型モニターから速報が流れる。

ー 続いては、気になるニュースです。垂直世界発見。東京大学 宇宙科学科3年 伊豆光いずこうさんがノーツベル科学賞受賞の快挙 ー

東京大学 宇宙科学科3年の伊豆光いずこうさんが、アメリカの宇宙科学研究集団N-SAとの共同研究の結果、垂直世界の発見に成功し、ノーツベル科学賞の受賞者候補にノミネートされていましたが、先ほどイギリスで開催されたノーツベル会合で、伊豆光いずこうさんのノーツベル科学賞の受賞が決定しました。

伊豆光いずこうさんが発見した垂直世界とは、普段交わることのない別次元の世界のことで、その別次元の世界が、ある一定の周期で我々の住んでいる世界の一部と交わることから、垂直世界ヴァーティカルワールドと名付けられました。

これまで「平行世界パラレルワールド」という別次元にある世界の存在を仮定し、研究に取り組んできたN-SAは、宇宙科学を専攻している伊豆光いずこうさんが卒業研究で取り組んでいた「垂直世界説」を唱えたことで、N-SAからオファーがあり共同研究が行われてきました。結果、我々の住む世界の次元と垂直に交わるように存在する別世界の発見に成功。その名誉が讃えられ、伊豆光いずこうさんがノーツベル科学賞の受賞者候補にノミネート。そして、先ほど受賞が決定したとのことです。

「いや〜、これほんとすごいニュースですよね〜。伊豆光いずこうさん、まだ21歳ですよ!私は難しくて正直全然理解できていないんですけど、要するに、別次元の世界と私たちのこの世界の一部が一定周期で空間?同じ場所?を共有しているってことでしょ?」

ベテランの男性アナウンサーが、若手の見習い女性アナウンサーに投げかける。

「ほんとすごいですよ!私も全く理解できておりませんが、別次元の世界との空間共有なんて、まるでSF映画のようですよね!もしかしたら、あと数年後には、垂直世界ヴァーティカルワールドの人たちとお仕事をしたり、恋愛をしたりなんて関わり方もできるのかもしれませんね!」

明るくハキハキと返す見習いアナウンサー。

信号待ちをしている歩行者たちのほとんどが、その報道を見ていた。

* ★ * ★ * ★

髪もバッチリ、セット完了。

鏡を前に俺は何度も自分の姿を確認する。

3月16日以降、会うことも連絡を取ることもできなくなった俺とヒカリは、お互いの約束を今も可能な限りで継続している。

2人で始めた調査で分かったこの世界の秘密。

1年に一度の周期で3月8日から3月15日までの1週間、俺のいる世界とヒカリのいる世界は空間を共有する。

共有する場所は限られているようで、今の時点でわかっているのは「世界自然遺産に登録されているアメリカのガイア国立自然公園」と「バルギア半島・アルデノエル・ヘラルディー諸島の3点を三角形で結んだ海域、バルデノディートライアングル」そして、俺が通っていた学校「星野ヶ丘高等学校がある星野地区」の3エリアのみ。

まだまだ謎が多い垂直世界ヴァーティカルワールドとの関係。

俺は大学で垂直世界ヴァーティカルワールドの研究の傍ら、別次元にいてもヒカリと連絡が取れるよう、電磁波や次元のもつエネルギーの研究にも取り組み始めていた。

全てはヒカリとの遠距離恋愛、もとい、

垂直恋愛ヴァーティカルラヴのために。

そして、また春を迎えようとしている。

春は出逢いと別れの季節であるとよく耳にする。

身支度を整えた俺は、一人暮らしの賃貸アパートの玄関ドアに鍵をかけた。

ポケットからスマホを取り出す。

ロック画面
3月8日 土曜日 07:28

日時を確認するついでに、ロック画面を解除する。

アプリのアイコンがバラバラに配置されている画面が開かれる。

アイコンの隙間に当時の2人の顔が見える。

それを確認してから俺は、スマホをポケットに仕舞った。

春の陽射しは暖かく射していた。



【完】




あとがき


ここまで読んでいただいた皆さまには、大天使ミカエルの称号を授けます😇(パァァ…✨)

やー、ってかここまで読んだ人いるのかな?笑

どれだけの人に読んでいただけたかわかりませんが、私なりに、読者が飽きないように持てる全てで書きました!(ハァハァ……)

今の精一杯だよッ!(アンジャッシュの児島風)

もしかしたら誤字脱字とか、間違った言葉の使い方とかあったかもしれませんが、頼む!許してくれ!

そんなことより褒めてくれ!

私は褒めて伸びる子!

ムチは自分自身で打ってるから、みんなからは飴ちゃんが欲しい!

欲を言えば飴ちゃんよりアイスが欲しい!
スタバでもいい!

エスプレッソフラペチーノとソイラテがいい!
トリプルエスプレッソでもいい!
ドーナツもつけろ!🍩

いかん!話が逸れ逸れの逸れっ!
(私の悪い癖)

コホン。
取り乱しました。ゴメリンコ×2

とりあえずまとめると、ここまで読んでくれた君が好きってこと👍

いつか誰かの心を揺さぶれるような作品をお届けできるよう、お祈りお祈り〜🙏✨

応援してくれるとうれピース!

ギャルピース!★✌️🐸


あからいだー

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