ビールの飲み方
「明日はきっといい日になる、いい日になる、いい日になるでしょぉ〜」
と急に歌われても、心の中のおいでやす小田が
「なるかーー!!きっしょい歌ーー!!」
とバタバタとツッコミを入れてしまい、ゆっくりとその曲に耳を傾けることができなくなる。
なぜそう思うのか、冷静に考えてみると、最初からポジティブ過ぎるのは拒絶されてる感じがするからだと思う。なかなか前向きになれないダメな僕を、まずうけとめて、そっと抱きしめて、「何も言わなくていいから」と、できればガッキーに囁いてほしいのだ。
もちろん、そんな妄想はかなうわけないのだけど、音楽を聴いてアーティストの歌声に身を預けることはできる。
Mr.Childrenの『花』という曲は、サビが「負けないように 枯れないように 笑って咲く花になろう」というすごくポジティブな歌詞だ。ここだけ聴くと、「何を勝手なこと言って。こっちの事情も知らないくせに」と思ってしまうかもしれないが、曲の冒頭から聴くとすーっと心に入ってくる。それは、サビまでの間で、疲れてる人たちと並走してくれているからだろう。メッセージを伝える前の、並走が大事なのだ。Aメロ冒頭の歌詞「ため息色した 通いなれた道」を聴いたその瞬間、「あ、これは僕のための歌だ」と身を預けたくなるのである。「ため息色」というのも、なんとも美しい造語だ。
この「疲れてる人たちと並走する」パートは、主題となるメッセージ以上に、そのアーティストの個性が出るような気がしてきて、僕は気づけばそこに注目して様々な曲を聴くようになった。
そしてある日、岡崎体育の『エクレア』という曲に出会った。初めて聴いたとき、たった数行の歌詞で僕は岡崎体育の虜になった。
「どうしようもない夜は
こっそり缶ビールあけよう
グビグビ飲めるわけじゃないけど
時間をかけて」
あーーー、そうだよなぁ。すごく共感した。ビールのCMってキラキラした俳優・女優が「乾杯!」って言ってグビッと飲んで、「うまい!」と笑うものばっかりだ。でも、実際にビールをそんなに気持ちよく飲める日なんて限られている。ビールなんてものは、どうしようもない夜に、なんとなくつけたドラマを見ながら、ちびちび飲むものではないか。ビールの持つきらびやかなイメージではなく、一歩踏みこんだ「生活の中のビール」に焦点を合わせてくれるこの人の曲は絶対に裏切らない、そう思った。
今回、わかりやすい例として、高橋優の「明日はきっといい日になる」を引用したが、曲の構成上サビ始まりになっているだけで、Aメロではしっかりと聞き手の苦労に寄り添ってくれる歌詞があることを、最後に言い添えておきたい。あと、おいでやす小田のツッコミを言ってみたかっただけで、高橋優をディスりたかったわけでもない。こんなことは、わざわざ書く必要もないだろう。誰も読まないような文章で、誰も気にしていないのは私もわかっている。しかし、もし、万が一これをガッキーが読んでいたら「配慮のできる人」だと思われたいから記しておくのである。