見出し画像

ポリゴンのウェイヴに乗って。(後半)

【前回のあらすじ】
Perfumeの、1年半ぶりの有観客ライブ [polygon wave] に当選した筆者。
レンチンパスタをうまく作れなかったり、足元の悪いなか事故渋滞に巻き込まれたりしながらも
命からがら会場に辿り着き、そのライブの演目に魅了されていく。
しかし、その裏で秘密結社「ポリゴンウェイヴ」の魔の手が
彼の背後に迫りつつあった―――。

=====
次に場内が光を得たのは、3人の映像がスクリーンに映し出された時だった。
仄暗い穴の底を見つめる3人。
差し入れた手がステージまで伸びる。
そして再び登場する、先程の黒子さんたち。
手に弾き飛ばされたり、ゆく手を塞がれたりする黒子。
散々な目に遭っている、と表現するのが適だろうか。
それでも最後は打ち勝って、希望を見いだせたような印象を受けた。
全体的にコンテンポラリー、かつダークな雰囲気で
これまでずっと抱いてきた「ポジティブで前向き」な3人のイメージからは
ちょっと想像がつかない内容だった。

再び3人が登場。
1人ひとり、別々の出島の上に現れ、再びセンターステージに集結する。
近頃、とてもよく見る衣装に変わっていた。

今回のライブ名にも冠されている「ポリゴンウェイヴ」。
足元にはマス目のような模様が描かれ、前後に流れるような動きを見せる。
それと併せて、ステージ背後から出てきた四角錐や立方体のオブジェ。
足元のマス目の動きとリンクして前後に動き、時折自転する。
ちょっと前に開催されていた「ライゾマティクス展」でも、こうしたオブジェを自動制御して
自在に動かせる技術が紹介されていたので、それを使っているのかなと思って観ていた。

…違った。
これまで何度かお目見えしている黒子さんが、オブジェの中に入って動かしていた。
前進も、後進も、自転も全て。

Perfumeのライブは、演出の技術的な凄さだけじゃなくて
そこに立っている「人間」のフィジカルな凄さや魅力が第一に際立っているところが、いつも凄いなと思う。
あくまで「人間」の凄さを見せることが第一で、演出はそれを際立たせるもの。
技術の凄さが、人間の凄さをぼかしていない。
だから、多くの人がPerfumeの3人”そのもの”に強く魅せられるのだと思う。

だから、黒子さんがオブジェを動かしていると気づいたとき
人間が底力を出せば、まだまだこれだけのことができるんだ、と見せつけられた気がした。
「人間って凄いんだな」と、とても感動した。
今回のライブの中でも、特に気に入った演出。

お次は「無限未来」。
残像のように揺らめく3人の映像。
こちらは当日放送されたNHK「ライブ・エール」でも披露されていたので、既にご存知の方も多いと思う。
全体的に淡い色彩とは対照的に、その後は色とりどりのレーザーが飛び交う「GLITTER」へと繋がる。
これも、自分が初めて行ったPerfumeのライブ「JPN」ツアーで、目玉曲として披露されていたので
やっぱり、当時のことが思い出されてどこか懐かしい。
ラスサビの前で煽る3人の語調からも、当時よりさらに強くなった熱を感じられる。

終始、レーザー技術を駆使して”GLITTER(キラキラとした輝き)”を表現しつつも
最後の「キラキラの夢の中で」の表現は、3人の頭上から紙吹雪を降らせるシンプルな手法に転じる。
“紙”吹雪といっても、アルミか何かキラキラ輝く素材でできているので
場内の照明を浴びて光を強く反射する。
シンプルに表現される輝きが、3人の人間としての魅力をかえって際立たせていた。

この楽曲は当時、東日本大震災からの復興の「祈り」を込めて
つくられた楽曲ではないか、という説がある。
その説を信じるなら、今回披露されたのはきっと
このコロナ禍が収束することへの「祈り」を捧げるためだと思えた。
その祈りが届けばいいなと思う。


その後は、どこからともなく鳴り始めた4つ打ちに合わせて「P.T.A.のコーナー」。
Perfumeの3人と観客がリズムに乗って身体を動かすことで
ウォーミングアップを図ろう、という趣旨のコーナーだと思っている。
夏らしいモノのジェスチャーは「スイカ」を食べる、「浮き輪」を回す、の2つの繰り返し。
スイカのジェスチャーで、誰かがぽろっとこぼした「志村(けん)さんみたいな食べ方だよね」。
かつて対談し、当時行き詰まり感を覚えていた3人にとって重要なヒントをくれた
恩人である志村さんのことも、今はこうした形で表現していて
何か乗り越えたモノがあったのかな、と感じた。

「スイカ」と「浮き輪」のどっちをやるかは、完全にあ~ちゃんのコントロール下。
ずっと「スイカ」を食べていたのに、いきなり「浮き輪」を回し始めて
慌てふためいてしまうのは我々だけでなく、ステージ上ののっちとかしゆかも同じ。
特に、かしゆかは我々観客よりも慌てふためいていて、その様がとても愛らしかった。

「スイカ」と「浮き輪」の無限ループを抜けた先には「阿波踊り」。
姿勢を低くして、男型の踊りまで披露するあ~ちゃんが格好良かった。


「ライブはいよいよ後半戦です」。
この言葉を聞くと、ここからのラストスパートに向けて胸が躍る一方
この時間ももうすぐ終わりか…と感じられて哀しくもなる。
それでも、その後に流れ始めた「FAKE IT」には、やはり楽しい気持ちのほうが勝った。

「FAKE IT」の後は「ポリリズム」。
これも、ステージで踊る3人の姿が背後に映される。
前回の「P Cubed Dome Tour」では、過去のライブ映像が繋ぎ合わさるように流れていたが
今回はそれもなく、今この瞬間のPerfumeだけを映し出していた。
色味や鮮やかさが近いからなのか、3人が初めて紅白歌合戦に出た時に
この曲を歌っていた映像が思い起こされた。

3人それぞれがソロパートを歌うところでは、表情がアップで映し出される。
いつもは3人ともカメラ目線だが、のっちは客席を見渡して
感慨深げな表情を浮かべていたのが印象的だった。

お次は「Time Warp」。
MVにも登場するセットを意識した映像で
今回のライブの中でも、ひときわカラフルな光景が目の前に拡がる。
よく考えたら、昨年リリースされたこの楽曲も
有観客ライブで観るのは今回が初めて。
ようやく会えたね…という気持ちが強い。

その次も、聴いてみるとなんだかビビッドな印象を受ける「Miracle Worker」。
「COSMIC EXPLORER」というアルバムの収録曲で
当時のツアーでも披露されていたことを思い出す。
加えて、この楽曲が一番好きだと言っていた友人さんたちのことも
何人か頭を過った。

楽しい時間はあっという間。
ラストのMCでの、3人の挨拶。
自分が特に印象的だったのが、のっち→あ~ちゃんに喋る順番を回すときに
のっちが目配せして頷いていたこと。
あ~ちゃんが既にかなりウルウルきていたので、最後まで喋れるよう「頑張れ」と
エールを送っているように見えた。
そのエールを受けて、最後まで喋りきるあ~ちゃん。
初日よりも、2日目のほうが冗談も交えながら喋っているように思えて
2日間ライブをやることで、最後の最後は少し緊張も解けたのかな、と感じた。

そして思うのが、Perfumeの3人はどれだけ感極まって泣いていても
最後まで自力で喋りきるところが凄いな、と今回改めて感じた。
他のアーティストのライブだと、喋る時に泣いてしまったメンバーに他のメンバーが寄り添って
励ましながら最後まで言葉を紡ぐ光景を観ることがある。
どちらが正しい、とか良い、とかいうことは無いけれど
本当は、あ~ちゃんももっとボロ泣きしたかったはずなのに、最後まで一人で喋りきって
両脇に居る2人は目を合わせたりしないながらも、最後まで見守っていた光景が
改めて観るととても印象的だった。


そして、最後の1曲。
「満場一致で(ラストは)この楽曲に決まりました」と言うあ~ちゃん。
その「満場」には、我々観客も含まれている…と思っていいのだろうか。

「チャンスは一度きりです」。
楽曲が始まる前にその一言を聞き、そう思っていいんだろうなと納得した。


客席中から伸びる無数の手。
これが、「MY COLOR」という楽曲の始まり方。
スマートフォンが普及し始めた頃につくられた楽曲で
「てのひらが世界中繋がるウィンドウ」という歌詞もある。
それが当時は、きっと、世界中の人たちと繋がれる「楽しさ、嬉しさ」が込められていたのだろうけど
今聴くと「なかなか他人と会えないご時世でもどこかで繋がっている、一人ではない」と
優しく「見守る」気持ちがこもっているように感じられた。

ここまで、映像や照明を多彩に駆使してパフォーマンスを魅せてきたが
最後はそうしたモノは何も使われず、ただステージ上に歌い踊る3人の姿があるのみだった。


「MY COLOR」も終わり。
最後は、「それでは、Perfumeでした~!」の挨拶とともに幕を閉じるのかな…?と思いきや
なにやらまだ続きがありそうな様相を呈している。

暗転した場内に、聞き覚えのないイントロが流れ始める。
最後の最後に…新曲が。

来月22日に発売される「ポリゴンウェイヴEP」の収録曲の中にも
これに当てはまりそうな楽曲は無い状態らしく、曲名が分からない。
だから、既に多くの人たちの間では「ミラーボール(仮)」という仮のタイトルで語られている。

「ミラーボール(仮)」、歌詞がスクリーン上に出ていたが
その時の自分は舞い上がっていたのか、あまり覚えきれなかったので
是非、ちゃんとリリースされた時にはその歌詞を読みこんでおきたい。


3人の居なくなったステージ上で、唯一スクリーンに映し出された
「See you at next stage」の表示を以て、今回は終演。
いつもの「それでは、Perfumeでした~!」の挨拶が無いと
なんだか少し不安な気持ちに見舞われる。
この、とてつもない余韻だけ残していく終わり方…
「LEVEL3」のドームツアーを連想した。


=====
幼少期の話。
園のお遊戯会でよく、お芝居を観ることがあった。

最近ふと、当時こんなの観たよなぁと思い出したものがある。
タイトルは忘れたけど、ストーリーは確か
どこかの村人が、悪の魔王に音楽を奪われて歌えなくなって
それを取り返すために旅に出る…とかいうもの。

当時は、なんともファンタジーなお話だな、と幼心ながらに感じた。


でも、それと全く同じことが今の日本で起こっている。
色んな場所で、色んな団体が、ライブやフェスを企画するけれど
最終的には中止に終わってしまう。
また中止。またできない。
自分と同じライブやフェスのチケットを取っていた人たちからもあがる嘆きの声。
なにより、開催に至れなかった主催陣、スタッフの方々、出演予定だったアーティスト…
そうした人たちの気持ちは計り知れない。

当時観た劇は、全くファンタジーな内容ではなかった。
そんなことを数十年越しに気づかされた。


だから、徐々に期待することをやめた。
何かライブの開催が予告されても、以前なら
「楽しみだな」という気持ちだけがある状態でチケットを取り、宿や移動手段も確保し
現地でついでに回りたいところを調べたり、会ってみたい人に声をかけたりしていた。

でも、最近はその気持ちも以前より薄まり
チケットを取るにしても「開催できるなら行きたいな」という
どこか胸につっかえている感覚があった。
開催日が決まっても、そこに向けての生き甲斐や
仕事やプライベートを頑張ろうというモチベーションも減り、どこかダラダラした毎日を送っていた。

楽しく思えるものを変えようとも思った。
誰の都合にも左右されず、ひとりでも楽しめるもの。
スポーツバイクを買ったり、DJ機材を譲ってもらったり。
読書も元から好きだったので、本を買い込む量も一時期より増えた。
この「note」も、以前よりもっと更新したいと思っていた。

でも、どれもしっくりこなかった。
やっぱり自分の一番の趣味は、ライブやフェスに行って演目を観ること。
加えて、自分と同じものが好きな人が世に居ると感じることだと判った。
やはり、他者との繋がり無しには、人は生きられないのだと思い知った。

今回、この [polygon wave] が無事に開催されて本当に良かったなと思う。
ライブ自体も勿論素晴らしかったし、なにより上記のような
自分が忘れかけていたことも色々思い出すことができた。


=====
ライブから帰宅した自分の目の前に拡がるのは、8畳一間のワンルーム。
自室でもあり、このご時世でリモートワークをしている自分にとっては「職場」ともいえる場所。

ここが、自分が現実を生きていく場。
朝使ったレンチンパスタ容器が、水切り用のカゴに置かれたままになっている。

「気分転換」と称し、時折ここを抜け出して
この世を上手く生きていきたいと思う。


「SWEET LOVE SHOWER」や「イナズマロックフェス」といった
この夏企画されていたフェスも、哀しいことに中止の連絡が相次いでいる。

音楽を奪われた人間たちの闘いはまだまだ続く。
自分と同じものが好きな人たちの存在を間近に感じつつ
負けないように、共に生きていけたらいいと思う。

(前半の記事はこちら↓)

もっと素晴らしいライブレポートはこちら↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?