見出し画像

ポリゴンのウェイヴに乗って。(前半)

2週間経って、何事もなく無事でいられたら
この日のことを書こうと決めていた。


=====
2021年8月14日。
自分は、ぴあアリーナMMという場所にいた。

見覚えのあるTシャツ、タオル、トートバッグ、サコッシュを身に着けた人たちが
自分のすぐそばを行き交う。
「これ俺も持ってるな」と思うものもいくつも見かける。
こんな感覚、いつぶりだろう。

…1年半ぶりか。
勿体ぶっておきながら、とても具体的に即答できる。


=====
遡ること、数か月前。
Perfumeが、1年半ぶりの有観客ライブ [polygon wave] を開催すると発表。
これまで、自身のラジオや音楽番組、雑誌といった媒体を通して
都度その姿を我々に見せてくれていたが、やはりアーティストの本懐はライブ。
我々ファンも多いに沸き立った。

チケット抽選は熾烈を極めた。
アリーナ、ドームクラスまで大きくはない会場のようで
かつ、こんなご時世ゆえ客席数が制限されることもあってか
1次抽選では多くの人が落選していた。
自分もそうだった。
その後、2次抽選(自分はここで当選した)と、リセールチケットの抽選販売があり
ライブに行く人、やはり断念する人、最後の最後でチャンスを掴んだ人、そもそも応募を見送った人。
また、公演2日目にはライブビューイングも予定されていたので、そちらに行く人…etc.
それぞれの人が、どのようにライブ当日を迎えるのか、徐々に決まっていった。


そして、ライブ当日。
関東地方は、ほとんどが緊急事態宣言下にあり
本当に開催できるのか?という緊張感が最後まで拭えなかった。
「チケット払い戻しのお知らせ」というタイトルのメールが来た時はさすがに焦ったが
(希望者は払い戻せますよ、という内容だった)、当日まで中止の知らせ等は無く、朝を迎えた。

その日の朝、自分は…
朝食のために、レンチンできるパスタ容器でパスタを温めていたら
水が噴きこぼれてしまい、慌てて電子レンジの中を掃除していた。
湯切られることを忘れたパスタ麺が、徐々に容器の中でふやけていく。
これが本当に、1年半ぶりに好きなアーティストのライブに行く奴の朝の過ごし方なのだろうか。

加えて、台風の襲来もあり、日本全土はすぐれない空模様に。
会場がある関東近郊も、その例に漏れず…だった。
「お足元の悪い中~」という枕詞は、こういう天候のためにあるのだろう。

だけど、関東よりもっと悪天に見舞われた地域はたくさんあった。
遠征で、今から横浜まで向かう方々が足止めを喰らっている報告も数多く見かけた。

みんながあるべき場所に辿り着けばいい。
食後、各地の様子をニュースで観ながら、真っ先にそう感じたのが
果たして正しい感情かよく分からないまま、家を出た。


なんやかんやあって会場に到着。
改めて、この会場を目の当たりにして
芽生える感情は何なのかと思う。

自分と同じものが好きな人たちが、目の前に沢山居ることへの高揚感。
と同時に、こんなたくさんの人たちがこの世には居たんだな、と不思議がる気持ち。
それとはまた別で、何に対して抱いているのか分からない緊張感。

朝っぱらから電子レンジを掃除していた記憶はとうに薄れて
1年半ぶりのライブが始まるのか…という実感がいよいよわいてきた。

入場時間は、各人に割り振られていた。
自分が入場できる時間になり、ゲートへ向かう。
チケット認証、身分証提示…を終えると、イベント会社のポロシャツを着て
フェイスガードと不織布マスクをしたスタッフさんが、自分の両手にアルコールを吹きかけてくれた。

きっとこの会場で、最も多くの人と接触する立場だろうし
あの場に立つには、それ相応の覚悟もあったのかなと思う。
そんな人たちにも支えられて、今日この場があるのだと知った。


会場に入る。
座席がどこなのかも、ようやくアナウンスされる。
自分はスタンド3階の座席。
アリーナには座席が無く、全面ステージセットが配されていたが
それを少し高いところから見下ろす形だった。
メインステージの周りを取り囲む、カクカクした通路がひときわ目を惹く。
幼少期によく遊んだ、アスレチックの遊具のコースを思い出す。
自分の座席の両隣には既に人が座っていたが、そこに自分も座ると
少し距離が近く感じられて、開演時間ギリギリまでは席を立っていることにした。

何するわけでもなくロビーで待機。
いつもなら、知り合いを探したりするけれど、なんだかそれもする気にならなかった。
もっともらしく言うと、頭の中のもう一人の自分に
「今日は一人で楽しめ」と言われている気がした。

開演時間の17時が迫る。
いつも、開演前には観客一体となって手拍子しながら待機するが
なんだかそれも巻き起こる気配もなく、流石に今回は自重かな…と思っていた。
しかし、そんな思惑を裏切るように手拍子が大きくなり
3人の登場を今か今かと待ちわびる気持ちも高まる。

「開演後の声援はお控えください。」
ふと、そんな影ナレが聞こえてきて、場内が一斉に静まり返る。
感染対策のため、客席で声を上げるのは控えるようにとお達しが出ていた。
だから、その後の影ナレが注意事項を読むときに、いつもならちらほら聞こえる「はーい」という返事や
「間もなくライブが始まります―」の後に轟々と巻き起こる歓声や、メンバーの名を叫ぶ声も
今回は全く聞こえなかった。
誰かひとりくらい、我慢できずに叫んじゃいそうなものなのに。
それほどまでに、客席の一人ひとりも
「今日のライブを成功させたい」気持ちに溢れていると伝わってきた。

場内の灯りが一斉に落ちる。
いつもなら、立ち上がって観るところだが、自分は座ったままでいた。
周りの様子に合わせたから、というのもあるが、またもっともらしい言い方をすると
「頭の中のもう一人の自分に、『今回は座って観ろ』と言われた気がした」から。

そこから先は、言わずもがな
3人やスタッフさんが造り出す世界に魅せられていった。
初日と2日目の記憶が混ざりあっているが
敢えてそれを整理せず書いていきたい。

オープニングには「システムリブート」というタイトルがついていた。
ステージ周囲に配置された出島に、3人が登場。
SASUKEっぽい、と感じた通路を渡り、メインステージに3人が集う。

と同時に、さらに多くの人たちが集まってきているような…
黒子、とでも呼ぶべき人たちがステージ上に続々とやって来る。
何やらパネルも持っているが…もしかすると、という憶測が脳裏に浮かび始める。

ライブ、ならびにミュージッククリップをあわせて
3人以外の人を交えてパフォーマンスすることはない、という暗黙の了解があった。
…ある1曲を除いては。

1曲目のイントロを聴いて、その憶測が確認に変わる。
結成10周年の2010年にリリースした両A面シングルより「不自然なガール」。
「こんな雨の日にきっと 歩く君を見つけて…」という歌詞が
今もなお、会場の外では雨が降り続いていることを思い出させる。
2010年頃から、Perfumeはライゾマティクスと共同で
最新鋭の演出技術を武器にしたステージを数多く魅せてきた。
そんな中、複数人が持つパネルで作った窓枠からのっちが顔を出して
「こんな雨の日はただ 窓の外は暗くて」と歌う、そのアナログな演出がむしろ真新しく思えた。

続けて「Pike Me Up」「再生」を披露した後は、3人のMC。
自己紹介で「3人合わせて『Perfumeです!』」のところでは
我々観客は声を出せないので、手のポーズだけ合わせる。
「Perfumeです」のハンドサイン、こんな形だったっけ…
と、思わずその手の形を見つめてしまう。

一番最初に思いを語り始めたのはあ~ちゃん。
喋っていくにつれて、その声がどんどん涙交じりになっていく。
自分の近くからもすすり泣く声が聞こえてきた。
お次はのっち。
「みんなの拍手が声に聞こえる」「Perfumeの”のっち”としての自分が戻ってきた気がします」と語るのを聞いて
自分たちが好きだったPerfumeが本当に戻ってきたんだと、ようやく実感がわいてきた。
胸元で手をこねこねしながらも確実に想いを伝えてくるさまが、愛らしくも心強さを感じさせる。
かしゆかの
「今日ここに来た人、やっぱりやめた人…誰の決断も間違っていないから、みんなの意見を尊重したい」
という、言葉には多くの人が救われたのかなと思う。
コロナ禍のライブに行くうえでいつもあるのは、「楽しもう」という心持ちよりも
罹患できないプレッシャーや、自分より我慢している、苦しんでいる人たちへの申し訳なさ。
こんなご時世で、この場に居ることが少しだけ後ろめたく感じられていたけど
そんな気持ちが少し軽くなった気がした。

恒例のコール&レスポンスも、ジェスチャーを使ったものに変更。
「男子」「女子」「そうじゃない人」「眼鏡」…
様々な呼び名が、明瞭で分かり易いジェスチャーに取って返られていく。

気持ちが軽く、のってきたところで再び場内は暗転。
スクリーンに映される「2021」という数字。
昨年開催された「P Cubed Dome Tour」で披露された「Challenger」という楽曲でも
これと同じフォントで書かれた西暦が、3人の結成年である「2000」から「2020」まで
カウントアップされる演出があったことを思い出す。
加えて、あ~ちゃんがしきりに口にしていた「2020年は、私たちが目指してきた年です」という言葉も。

そんな日々はもう過ぎ去ったと言わんばかりに
いま目の前に映し出されている西暦は、すぐさま「2030」までカウントアップされる。
みんな、もう前に進むべき時だと言われているような心地。

そんななか、聴こえてきたのは「Future Pop」のイントロ。
表題の曲をタイトルに関したアルバム「Future Pop」の全国ツアーで、一番最初に披露されていた曲。
実は、このツアーは自分がはじめて「全通すること」を意識して
日本全国あちこちを駆けずり回ったもので、結構思い入れがある。
当時とほとんど変わらない、背後のスクリーンの映像と3人の振り付けがシンクロするさまを観て
思わず、色んな思い出が蘇る。

しかし、次の曲への繋ぎの部分で、この楽曲の新たな一面を垣間見る。
背景にそびえる東京タワーの頂上が、3人の足元に来るように景色が流れる。
背景にあったものが足元へ…まるで、バーチャルの世界にでも迷い込んだよう。
こんな不思議な感覚を味わえるのも、客席数を絞らないといけない制約を逆手に取って生まれた
全ての人が見下ろすように観られる、ステージ設計が所以。
「今しかできないパフォーマンスを持ってきました!」という旨の
先程のMCであ~ちゃんが言ったことの真意を思い知らされる。

東京タワーの頂上に3人が立っているような感覚に陥ったところで
「TOKYO GIRL」のイントロが流れる。
この楽曲のMVには、3人が東京タワーの頂上で踊るシーンがあり、きっとそれの再現。
タワー下に流れる、都心をイメージした映像の効果もあって
3人が本当に地上333メートルの地点にいるように見える。
その後の、足場が空中浮遊して都心を揺らめく演出でも
3人が本当に移動しているように見え、不思議さと凄みを感じた。

その後は再び、「不自然なガール」でも登場した黒子が登場。
4×4で16人が並び、その中央のお立ち台にPerfumeの3人が立つ配置。
異例の19人で披露する「I still love U」。
直前の「Future Pop」「TOKYO GIRL」が、演出の凄さで魅せる楽曲だったのに対し
こちらは、19人でダンスをシンクロさせる、人間のフィジカルな部分を全面に押し出して魅せてくる。
Perfumeの3人で振り付けをシンクロさせることさえ、かなり難しいのに
19人なんてなおのこと。
ますます、あの黒子の方々は何者なのか…?という疑問がわいてくる。

ここまでの楽曲がどちらかというと、ストイックに演出やパフォーマンスを突き詰めた印象だったので
次の「マカロニ」では、それとは対照的な柔和な印象を受けた。
センターマイク前で歌う3人を、モノクロの映像で背後に映すのはおそらくMVのオマージュ。
自分がPerfumeを知って間もない頃に流れていた曲だったので
その懐かしさもひとしおだった。
後半での、3人の影を背後や足元に自在に映す演出も、おそらく「FUSION」の応用。
「真新しさ」よりも「懐かしさ」を覚え、少し安堵しながら観ていたけれど
最後の、影と3人が分離されるところでまた気を惹かれた。
3人は、歌い終えてセンターマイクを離れ、ステージ裏へと向かっていくのに
影は依然と変わらず、センターマイクの前で踊っている。
現実と空想の境目が分からなくなるような感覚に陥り、呆然とする自分をよそに
再び場内は誰も居ない、暗闇へと堕ちていった。

(何気に長くなってしまったので後半へ続きます↓)


もっと良いライブレポートはこちら↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?