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イヤホンが落ちた。

1か月ほど前にBluetoothイヤホンを買った。それまで使っていた有線のイヤホンが断線してしまい、新しいモノを買わねばと思ったときに、家電量販店で見かけたのがBluetoothイヤホンだった。
無線接続のイヤホンって、音質や接続性の観点から見て使用に耐えうるのかしら…と懐疑的な姿勢を貫いてきたが、物は試しだと思って手に取ってみた。いざ使ってみると、接続性や音質も問題なかった。特に、音質に関しては、過去に使っていた有線イヤホンよりもむしろ良くなってるのでは…?と思えるほど。コードがカバンの中で絡まっていたり、歩きながら音楽を聴くときの取り回しに悩まされるといったこともなくなり、快適さを感じつつ使っていた。

ある日のこと。
出先でぷらぷら散歩していたら、ふと音楽でも聴くかと思い立ち、Bluetoothイヤホンを装着した。専用のケースから取り出すときに、若干の磁力を感じる。磁石でケースに吸いつけられてしっかり収まっている感じも、安定感があって良い。
ウォークマンとBluetoothで接続。”Bluetooth can connect.”とナビゲーションの音声が聞こえて、再生ボタンを押すと曲が流れる。最近、お気に入りのアーティストがニューアルバムをリリースしたこともあり、聴くのは専らそのアルバム。好きな音楽を聴いているだけで、街中の景色が少し違って見えるのは何故だろう。曇り空だが適度に涼しくもあり、散歩日和だな…とか呑気なことを思っていた。

その道中で、ハプニングは起こった。
左耳のイヤホンだけ耳へのハマり具合が甘かったのか、ぽろっと落ちてしまった。イヤホンは足元でワンバウンドし…傍らの、金網が掛かっているタイプの側溝に落ちた。
Bluetoothイヤホンを使っている中で、ひとつだけ恐れていたのが”落下による破損や損失”。有線タイプとは異なり、落下させてしまったときにどこに行ってしまうかが予測できない。自分が購入を躊躇っていたのも、街中でイヤホンを落として車に轢かれたという、友人のエピソードを聞いていたことが一因だった(轢かれた現物も見せてもらった)。実際、こうして街中で使っていてもそのリスクを感じることはしょっちゅうある。川辺を歩いているとき(川に落っことしたら拾えても水没)、電車に乗るとき(ホームと車両の間に落ちないか心配)…もう1パターンぐらい言えるとテンポ良いのだが、思いつかないのでここで止めておく。
とにもかくにも、自分の左耳のイヤホンが側溝に落ちてしまった。右耳からは曲が聴こえ続けているが、左右で異なる音が聴こえる箇所になると、片方しか聴こえず違和感があるので曲を停止する。
その場にしゃがみこみ、金網の網目に手を入れてみる。だが、成人男性の自分の手が網目を通れるわけもなく…まるでクリームパンでも押し込んだような光景を見ただけだった。手を突っ込むまでもなく、網目の大きさを見ただけでこうなることは容易に想像できた。
次に、金網を外そうとしてみる。揺すると若干左右には動くが、四隅をナットでしっかり留められており、手を突っ込めるスペースの確保には繋がらなさそうだ…。
そんな風に試行錯誤していると、クラクションを鳴らされた。不運なことに、自分がイヤホンを落としたのはとあるレストランの駐車場入り口だったのだ。今いいところなのに…!と歯がゆく思うも、車を通さないわけにもいかないので道を譲る。時刻もちょうどお昼時で、この後さらに何台も車が通りうることを考えると、早いところ決着をつけなければという想いに駆られた。
空模様も、だんだん怪しくなってきた。このまま雨が降ってきたら、イヤホンも水没しちゃうのかな。不安になってばかりもいられないので、ダメもとでそのファミレスに駆け込んだ。
「いらっしゃいませ、お客様一名様でしょうか?」
ウェイターさんが出迎えてくれる。店内の様子を見るに、まだピーク時ではなく、相談できそうな状況だったことが救いだった。我ながら、ファミレスでこんなこと聞くなよと思ってしまう相談。
「ちょっと、店先の側溝にイヤホンを落としちゃって…火バサミとかって借りれないですか?」
ゴミ拾いでよく使う、鉄製の火バサミ。それさえあれば容易に拾えそうだった。ファミレスでも、掃除用具として持っていないかな…と、一縷の望みを託して聞いてみた。
「は、はぁ。ちょっと探してみるのでお待ちいただけますか?」
戸惑いを隠せないといった表情で裏へと戻る店員さん。そりゃそうだよね、ご飯じゃなくて掃除用具注文してくる客なんてなかなかいないよね。そもそも自分、きっと客ですらないよね。
申し訳なく思いつつも待つこと数分、戻ってきた店員さんの手元にはピンセットがあった。長さにして10~15センチ程度、といったところか。当店で一番長いモノがこれでして、一度使ってみてもらえませんか、と言われる。ありがとうございます!と一言言って受け取り、側溝へと戻る。それにしても何故、ファミレスにピンセットがあったのか。誰かの何かの工具箱にでも入っていたのだろうか。
側溝にピンセットを突っ込んでみる。摘まむ部分まで金網の中に入れないとイヤホンに届かず、イヤホンを掴むために必要な力を与えられずまたしても苦戦する。下手したら、このピンセットも溝の中に落としてしまいそうだ。そうなったときはどうすればいいのか、大人しくホームセンターで火バサミを買うしかないのかな、けど買った後持ち歩くの恥ずかしいな…

半ば諦めムードでピンセットを動かしていると、奇跡が起こった。イヤホンに仕込まれていた磁石がピンセットの先にくっついたのだ。
これなら挟まずとも救出できそうだ…!と希望が湧いてくる。全神経を手元に集中し、慎重にピンセットを引き上げる。ピンセットの先端の僅かな部分にしかイヤホンはくっついておらず、かなり揺れながらピンセットにくっついているのがわかる。さながら、UFOキャッチャーで片方の爪だけ景品に刺さった状態で、出口まで持っていくときの、あの緊張感。すぐそこの通りを車が通っているのも感じる。ここで入店する車があれば、きっとまたやり直し…それだけは避けたいっ!!!

無事救出には成功した。「取れました!!」とお礼を言いながら、ウェイターさんにピンセットを返す。注文はしなかった。せめて軽食ぐらい食べて行くべきだったと思うので、また今度行こうと思う。
今後、出先でBluetoothイヤホンを使う際には、「とりあえず長い金属の棒」をセットで持ち歩かないといけないと思ったのであった。

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