ドラゴンクエスト ユア・ストーリー~人生はロールプレイング~
※この記事はドラゴンクエスト ユア・ストーリーのネタバレを含んでおります。映画をご覧になった方、ネタバレが気にならない方のみ閲覧ください。
ドラゴンクエスト 映画化決定
私がドラゴンクエストの映画化決定を知ったのはツイッターでした。正直初めからあまり期待はしておりませんでしたが、キャストが発表された時、期待できない映画だという気持ちは確信に変わりました。キャラクターデザインに関しては、映画化にあたって鳥山明先生の絵でなければいけないというほどには強いこだわりはありません。ただ、キャストに関しては既にプロの声優によって演じられたキャラクターが何人かいるにも関わらず芸能人の起用ということで、昨今の流れとは言え非常にがっかりしました。
ドラクエのナンバリングシリーズしかプレイされていない方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、ドラクエヒーローズやドラクエライバルズ、いただきストリートなどにより、ビアンカは井上麻里奈さん、フローラは花澤香菜さんと既に声優は決まっているのです。それを話題作りかいかような理由かによって差し替えられてしまったのは大変残念なことです。
しかし、私のゲーム人生を変えてくれたドラゴンクエストの映画ということで、どのような映画になったのかこの目で確かめないことには始まりません。期待値はとても低いものの、やはり楽しみな気持ちも持ちつつ私は公開初日に映画館に向かいました。
副題に隠された製作者の意図
まず映画の感想を結論から申しますと、非常に良い出来でした。2時間という尺の中で、ドラクエⅤの壮大な物語を見事にまとめていました。ピクサーを彷彿させるような生き生きとしたCGキャラクターたちによるアニメーションは、前述したネガティブな感情を払拭させる程の出来で、全体を通してワクワクしながら観ることができました。特に息子である勇者が天空の剣を抜くところは胸が熱く高鳴りました。鳥山明先生の絵じゃないことにより、逆にドラクエとしての先入観を忘れることができ、声優への違和感も消えて素直に楽しむことができました。また、音楽もドラクエⅥの音楽が多用されていたことは気になりましたが、劇場で大音量で聞く名曲の数々は物語を大いに盛り上げてくれていました。
ただ、やはり既に観た方の中で物議を醸すのはラストのオチでしょう。勇者が天空の剣によって魔界の門を封じた瞬間、ミルドラースの存在を乗っ取ったウイルスプログラムによってこの世界がバーチャル世界であることを明かされ、共に冒険を旅してきたアンチウイルスプログラムのスラりんと共にウイルスを倒してバーチャル世界のドラゴンクエストⅤの世界に平和が戻る、という流れです。
やはりこの部分に関しては余計だという方が多いのではないかと思われます。それまでとても熱いシーンが続いていて、私もこの映画に没入していただけにこの展開によって急に現実に戻されたことで興醒めしてしまいました。
しかし、私は単純な否定派ではありません。この演出は映画の製作側としてどのような話を作りたかったかという意図を考えると、単純に描き方に問題があったのではないかと思います。そう、私は今回の映画が実はバーチャル世界であったこと自体は肯定的に捉えているのです。
なぜなら、この映画はドラゴンクエストⅤの映画ではなく、かつて子供だった頃にドラゴンクエストⅤを夢中でプレイしていた私たちの物語「ユア・ストーリー」を描いたものだからです。劇中においてもロボットと戦うというのは違和感がないかと主人公リュカに問われて「今回はそういう設定です」とマスタードラゴンが答える伏線が張られていたり、幼少期はスキップするという設定によってオープニングはゲーム本編のダイジェストになっていたことや、数々の改変されたストーリーはメタ的には尺のためですが、物語としてはドラクエⅤではなくあくまでバーチャルゲームだから、ということで全て説明がつくようにしたことは非常に見事な演出だと思いました。
恐らくバーチャル世界だったというのはこの映画における予想外のクライマックスとして持ってきたかった肝となる部分だと思います。それ自体は前述の通り肯定しているのですが、やはりその種明かしの仕方に問題があったように思います。恐らくですが、エンディングを迎えたときに、実はバーチャルゲームでした、という現実に戻るオチが描かれていたら、なんだそういうことだったのか!すごいなー!と、全員とは言いませんが今よりも多くの人が納得して映画館を後にしたと思います。
突然現われた第三者の理不尽な理由によってゲーム体験を否定されて、それでも自分の子供のころからのドラクエが大好きだという思い出を守るために必死に抗う、というのはまさに今映画の世界に没入して楽しく観ている私たちが、山崎貴監督という第三者によって急に現実に戻された状況そのものであり、二重の意味でユア・ストーリーにリンクしている、という意図もあるのかもしれません。
ただ、個人的にはゲーム体験を否定する「第三者」が「ウイルス」だったことがイマイチ盛り上がりに欠ける気がしています。製作側がこの度ドラクエⅤを映画化するにあたって単純な物語の映画化で終わる気はなく、ファンが望む望まないに関わらず、製作側のエゴとして第三者によって否定されるゲーム体験に対して自分の思い出、堀井さんの言うような人生はロールプレイングであり、人生における主人公は自分なのだということを強調して、第三者に抗う展開を描きたかったのであれば、この部分をもう少しうまく描けなかったものでしょうか…。
人生はロールプレイング
このように不満はあるものの、私はこのドラゴンクエスト ユア・ストーリーはもう一度観たいと思うくらいには面白い映画だと思います。かつて青春時代にドラクエⅤをプレイした人にはぜひ観ていただきたいですし、プレイしたことがない人が観ても楽しめる映画だと思っています。もしネタバレを気にせずにこの記事を読んだ方がいればぜひ劇場に足を運んで自分自身の目で確かめていただけると嬉しいです。