見出し画像

愛し合っている者同士にはパリも狭い


ファミレスがマイブームになりつつある。

それだけ。



「あくちゃんの好きな仮面ライダーって何?」

楽屋トークでこんな話題が上がることがある。ミュージシャンはオタク気質な人が多いので自然と各々のルーツや影響を受けてきた作品の話に言及しがち。僕は別段、特撮モノに造詣が深いわけではないのだけれど。

ZO(ゼットオー)と真・序章しか知らない」

「クセが強い」

いわゆる王道、ステレオタイプな勧善懲悪モノではなく、ダークでエキセントリックな味付けを好む傾向にあるのは、多感な時期に触れたものの影響が大きいと思う。往々にして”誰もが知っている履修科目”をことごとく外している。仮面ライダーならどの作品なんだろう。生まれる年代にもよるだろう。たとえば『幽遊白書』であるとか。『NARUTO』であるとか。”知っていて当然のもの”として話題にあがりがちな名作タイトルに対して、あまりにも無知だったりする。ジョジョだって1部と2部ぐらいしかついていけない。

なぜならボンボン育ちであるから、というお門違いも甚だしい言い訳も、改めて用意させて欲しい。

『SLAM DUNK』だって最近ようやく読み切ったのだ。NBAは20年以上観てるのに。リアルタイムで最初から最後まで追えた作品は多分『トライガン』と『鋼の錬金術師』ぐらいだ。

「あの頃親しんでいたものたち」のリバイバルブームが訪れているけれど、作品の直球世代が時を経て作り手側に回っているからなのか、旧作(原作?)ファンにも喜んでもらえるような仕掛けが施されているものも多い。Production I.Gが2017年に手掛けた『魔法陣グルグル』では24話で『Wind Climbing 〜風にあそばれて〜』が流れたのが記憶に新しい。つい先日までは『うる星やつら』が放映されていた。『ONE PIECE』『地獄先生ぬ〜べ〜』『らんま』も再アニメ化されるという。

洋画も、長い時を経て『ビルとテッド』や『星の王子 ニューヨークへ行く』の続編が制作されたりした。『処刑人』は3が制作中。ノーマン・リーダスはすっかり売れっ子になってしまった。

慣れ親しんできたのが川尻善昭監督や押井守監督作品だったりするので、同じような変遷を辿ってきた人とは急激に仲良くなれたりもする。



「ストレス解消ってどうしてる?」

という話になった。

「どうしてるかなぁ」

言い淀む。さて、僕はどうしているんだろう。

気が済むまで酒を飲むという破滅型の解消法を選ぶ人が周りに多い中、自分はぱっと答えが出てこなかった。「現在進行形でストレスが溜まっているなぁ」という心理状態には陥らない、もしくは陥りにくいタイプなのかもしれない。ストレスになりそうなものを極力避けて通る生き方をしているから、かもしれない。一日に何本も煙草を吸うからかもしれない。
何度も聞かれるけれどお酒はほとんど飲めない。ビール2杯で酩酊できる。

複合的ではあるけれどたしかに、思い立ったタイミングで心理的な負担を排撃する生き方をしてる気がする。ストレス耐性が低いからなのか、ストレスになりそうなもの/ことには鼻が利く。

例えば一般企業に勤めている人たちは、月曜からスタックし始めるストレスその他が金曜にはカンスト寸前に達して夜の街に繰り出したり、週末の休日でリセットを試みると思う。組織適性を問われ、長く同じ顔ぶれと膝を付き合わせる環境下に置かれるわけだから、1案件ごとの成果制で暮らしているミュージシャンと比べると”隣人ガチャ”の引きがその後に大きく関わってくる気がする。仕事の内容そのものよりも”誰と過ごすか”が肝要かもしれない。

「こんな風に同業の友人と話す時間が一番の解消かもね」

とはいえ、よほど慣れ親しんだ同業者とでもないと内輪の話をすることも少ない。”慣れ親しんだ同業者”はほとんど”友人”と同義なので、仲間と仕事をする時間は『友達と遊ぶこと』に近しい感覚でもある。多くの人がどこかしらのタイミングで辞めるので”続けて生き残っている人たち”は戦友であり、盟友である。「こんなに楽しくていいのかな」とも思うし「この時間がずっと続けばいいのに」とも、いつも思う。そういう意味では、おそらく全業種において最も負荷値の比重が高いであろう”人間関係のストレス”が、現場によっては皆無どころかプラスに働く、という側面を持ち合わせている。

一方で時には。

「遊んでお金もらってるみたいで楽しそう」

みたいに言われることもある。広義的にはそうとも言える。趣味の延長線上にくるものだ。「好きでもなんでもないけど稼げそうだから音楽を始めた」という人はおそらくいない。いないこともないだろうが。
『お金が稼ぎたいなら』『チヤホヤされたいのなら』ミュージシャンはやめておいた方がいい。「なんか思ってたのと違う」に行き着く。

表に出るのは輝いている部分だけなので、実態は大きく異なる。こういった影の部分については、言及し易い時代になったとも思う。それを打ち明けるか否か、取り入れるか否かがユーザーの手に委ねられる。
僕は演奏家だけれど、演奏行為そのものは実際の稼働時間の半分もない。楽器を触っているだけの時間、音を奏でているだけの時間に向けて準備することが多いのだ。

楽しいけれど、楽ではない。
楽だったら、たぶんあんまり楽しくない。

ストレスがあるとしたら、それはたぶん『理想の演奏に持っていくまでの負荷』かもしれない。曲を覚えることと個人技能の向上は別軸なので、曲に追われて個人的な練習に時間が割きづらい、というリソース(可処分時間)の食い合いが生じることはある。

好きな仕事じゃなければ、たとえば友人に会う、であるとか。どこかへ出掛ける、であるとか。できること、できないことの取捨選択にもストレスを感じるかもしれない。
もともとこの仕事を選ぶにあたって覚悟はできていたので、致し方あるまいと割り切っている部分ではある。仕事が第一で大いに結構。なんせ楽しい。

それと僕の場合、ビジネスメールのやりとりや譜面の準備、仕込みといった、演奏以外の時間も結構好きなのだ。届いた箱をワクワクしながら丁寧に開けていくような感覚でいる。

能動的に飲みに行くわけでもなく(ただし呼ばれたらホイホイと招かれる)
趣味に没頭するわけでもなく(時期やタイミングを選ぶ)

そんな筆者のストレス解消は何かと聞かれると

仕事

という味気ない回答になってしまう。
もちろん、趣味の時間も大好きではあるが。

逆説的だけれどストレスが溜まっていると趣味に没入できないからかもしれない。

「ストレス溜まってたけど、あくちゃんに会って元気になった」と言われるような人でありたいね。願わくば。


慣れ親しんだ某スタジオで、とあるレコーディングをしてきた。

”とある”なんて言い方をしたら匂わせてるみたいだけれど、いつものお仕事の一つ。それに、録るだけ録っていつリリースされるのかわからない、という案件が多いため、その後の動向にはそれほど関心がなかったりする。2年後3年後になっていつの間にかリリースされていた、なんてこともザラなのだ。

舞台に上がるのと同じぐらい、レコーディングが好き。華やかな場所で観てもらうのとは異なる、閉じた空間での地道な作業だけれど。この音がまた世に羽ばたくのが楽しみだ。

僕がセッションワークを始めた頃はまだ現在のようなサブスクがなく(サブスクという言葉も一般には浸透していなかった)録音媒体といえばCDだった。CDから配信への過渡期だったかもしれない。自分の演奏が形になって全国各地、世界中で売られているという実感が嬉しかった。CDショップに並んでいるのをわざわざ見に行って、感慨深い気持ちになったりもした。

それから10年以上が経ち、いつの間にか物理メディアのパッケージは配信に取って代わられた。当然、成果物として棚に並べるもの(録音したものが完成すると演奏参加者はサンプル版がもらえたりする)の数は変遷に伴い年々減っている。自身のアチーブが実際に目に見えて、その手に取ることができるのは、果たしてあといくつだろう。

僕の主戦場はゲーム音楽なので、お店に並ぶゲームソフトがCDを代替してくれている感がある。ドラムを叩いていない時の僕はただのゲームが好きな一般人なので日頃からTSUTAYAやGEOやヨドバシなんかに寄るわけだけれど、ふと立ち寄った先に自分が参加したタイトルが並んでいると今でも嬉しくなる。

バンドマンやアーティストやアイドルのような、わかりやすいスーパーヒーローとは大きく異なる日陰の地味な存在かも知れないけれど、その感じが好きなのだ。どこまでいっても所詮はサポート、バックバンド、日雇いミュージシャンかもしれないが、僕にはそのぐらいがいいんだ。

それはそれとして、読者諸賢の中に仮面ライダーのZOと真と川尻監督作品が好きな人がいたら嬉しいなぁ。

いつものことではあるけれど、内容が乱雑になってきたので今日はこの辺で。読んでくれてありがとう。


いいなと思ったら応援しよう!