ロンドンどんより晴れたらパリ
「NHKアニメが好き」という話になった。
地上デジタルや配信が台頭するずっと前の、アナログ放送の時代。僕が育った場所は田舎の中の田舎、限界集落もかくやと言わんばかりの田舎だったので漫画誌に載っているようなアニメが基本的には放送されなかった。
どうしても観たい、けれど放送されていない作品は大きな街のビデオショップに行くしかなかったのだ。
テレビのアニメといえばだいたいNHKか、衛星放送。WOWOWという強者も居たと思う。僕は専らNHKだった。
伝説級の語り草となっている『CCさくら』を筆頭に『YAT安心!宇宙旅行』『飛べイサミ』『プラネテス』『無限惑星サヴァイヴ』『十二国記』『ふたつのスピカ』『学園戦記ムリョウ』などが記憶に残っている。
そんな中、特に好きだったのは『カスミン』
ご存知だろうか。
可愛らしいデザインと作風に対してあまりにも渋過ぎる主題歌(OP/EDともに名曲である)や、馬越嘉彦氏、湯浅政明氏、たかはしひでき氏らの手にかかった上質な仕上がりに琴線を鷲掴みにされたのか、見ていて妙に安心する感覚があった。
録画や一時停止という手段が存在しないからこそ発動していた”見逃すまいと集中的に作品を観る”という強制力の存在が大きかったのは間違いない。
時代の恩恵とも呼べるかもしれない。そして何より。多感な時期に変遷を肌で感じ取れる世代でいられてよかったと思う。
しかしながら、この頃の傑作は視聴手段が限られていることが多く、童心に還りたくても大人の事情に阻まれてしまうのであった。かなしい.。
作品単位では世代差やメジャーマイナーがあるとはいえ、この頃のNHKに触れていた人なら『フルハウス』の再放送を一度は目にしただろうし、ピンク・レディーのカバー版である『アリスSOS』の主題歌「S・O・S」は、口ずさめば同世代オタクは大体反応してくれる。今見直しても戦慄するほど凄まじいオープニング映像だと思う(演出は若かりし日の細田守監督/別名義)
アニメからの延長で、シットコムである『アルフ』や『愉快なシーバー家』『名犬ラッシー』『サブリナ』『おまかせアレックス』『私はケイトリン』『恋するマンハッタン』『メントーズ』などで育った人も多いと思う。
思いつく限りのタイトルを挙げてみた。もっとたくさん観ていたはずなのに記憶が朧げなのが悲しい。レンタルビデオも過去の遺産になりつつある。
VHSに触れる機会はめっきりなくなってしまったけれど、16倍速で録画をしてはせっせと爪を折り、ラベルを作っていた頃を思い出すと郷愁の念が押し寄せる。鉛筆を差し込んでテープをぐるぐる巻いたり、レンタルしてきたビデオが排出されなくなって、もしくは排出されたと思ったら中のテープがぐちゃぐちゃになって冷や汗をかいた記憶などが蘇る。
ちなみにアニメーションの原初の記憶のひとつが『名探偵ホームズ』である。初めて憧れたテレビの中のヒーローは広川太一郎さん演ずるホームズで、初めて恋焦がれたアニメのヒロインはハドソン夫人だった。今なお無意識に『空からこぼれたStory』を口ずさんでしまっている辺り、血肉のような作品だ。
そも、ボンボン、月ジャンとサターン、ドリキャスで育ってしまった人間が、アニメだけは都合よく王道タイトルを辿るなどというはずもなく。
「ガから始まる国民的ロボットアニメといえば」
「それって4文字のアレ?」
「そう、4文字のアレ」
「ガサラキ」
始末に負えないこの体たらくである。
テレビ離れをした以降も、NHKアニメといえば『電脳コイル』『精霊の守り人』『アリソンとリリア』『こばと』等々、良質な作品が多く出ていた。ここ最近の作品では『映像研には手を出すな!』などがある。
稀代の名作が手軽に観られる時代になりつつある。歴史に埋もれるには惜しい。
それはそれとして「今期何観てる?」にさえ全然ついていけなくなりつつある昨今なのだけれど。
にしても。
『カスミン』然り『明日のナージャ』然り。最近でいうと『RWBY』然り『リトルウィッチアカデミア』然り。
”女の子ががんばるアニメ”が好きなんだな(•﹏• )なんて思うなどした。
読んでくれてありがとう。
追記
原初の記憶のひとつに”もぐらが受話器の赤ちゃんをなだめ寝かしつけている様子”が焼き付いていて、あれはなんだったのだろうと思って調べてみたら『もぐらのクルテク』というチェコのアニメで、大昔にNHKで放映されていたらしいことが判明した。すごいなインターネット。
アニメ版の『あんみつ姫』なんかもやってた気がするんだよな。記憶違いかなぁ。
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