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"Willingness"

NBAの選手、デリック・ローズが引退を発表した。

「デリック・ローズって誰?」
「NBAって何?」

という方は、引き返した方がいいかもしれない。もしくは、読む前に一度wikipedia辺りを巡回してきてもらった方がいいかもしれない。ちなむと僕は長年NBAファンだけれど(そも、そうでもなければこんな記事を書こうとも思わないか)その中でもずっと、どんな時も、一番応援してきた選手だ。

かつては、輝かしい将来を嘱望されたドラフト1位、史上最年少のMVPであり、全てのNBA選手を過去にするほどのスピードとスター性を持って現れた超新星。全盛期の身体能力、特にスピードに関しては人間をやめていたレベルと評され今なお語種であるほど。しかしながら、それが結果的には自分自身を壊すことになってしまった。あまりにも悲しいタイミングで、幾度も怪我と不運に見舞われた。

チームからもトレードされ「アイツはもう終わった」と言う人が増え、優勝候補の大手チームからは遠のいた。引退していてもおかしくなかった。

それでも彼は這い上がってきた。

世界中のファンが「もうダメかもしれない」と何度も歯を食いしばり、拳を握りしめても、諦めと共にため息を吐き出し肩を落としても、何度も何度も彼は舞い戻ってきた。滑稽かもしれない。痛ましくて見るに堪えない人も多かったと思う。それでも。何度も。

Derrick Roseは。
薔薇は返り咲いた。

僕にとってデリック・ローズは諦めない姿勢のロールモデルだ。多くを乗り越えてきた不屈の精神、それを体現し続ける姿に何度も勇気づけられた。元気をもらった。

僕の携帯の待ち受けはずっとローズだった。彼が移籍したチームは贔屓じゃなくても毎シーズン試合をチェックしていた。

全盛期のようなスピードもスター性も鳴りを潜めた、周りを立てるロールプレイヤー、若いチームメイトのメンターとして、いぶし銀なバスケットをするようになった。ギラギラした闘志に満ちていた顔つきは、穏やかで冷静で、静謐なものになっていた。

そんなローズも僕は大好きだった。妙に色気があって、昔と変わらず釘付けにさせられた。コートに居るだけでチームの雰囲気が変わった。敵地のファンも総立ちでリスペクトを送り、自分がプロデビューした年に生まれたような若手選手たちがこぞって「アンタを観て育った」と声を掛けに行く。

もう試合を観てもローズの姿が観られないというのは寂しい。ヴィンス・カーターの時も、カーメロ・アンソニーの時も凹んだけれど(世代がバレそう)デリック・ローズは最後の最後、肉体年齢の限界まで戦い続けるような気がしていたからだ。

いつか終わりが来るのはわかっていたけれど、いざその時になると本当に寂しい。

これから僕がどんな人生を送ろうと、君は僕の一部だ。
もう『さようなら』と言っていいんだね。
僕はずっと君のものだよ。

『僕の初恋に感謝』と題して地元紙の広告に、バスケットボールへの愛を語るのがまた泣ける。

最後まで戦い抜いたんだ。勇退と言っていいだろう。
最高にカッコよかったよ。



いつか僕も、ミュージシャンじゃなくなる日が来るんだろうか。

好きの熱量に身体が追いつかなくなったり、やんごとなき事情に見舞われたりしなければ、できる限りは続けていきたい。
今では職業欄に『ミュージシャン』と書くことへの気恥ずかしさみたいなものも薄れてきて、矜持のひとつになっている。賃貸契約の審査だってちゃんと通ったのだ。胸を張っていいはずだ。

他にやりたいことが見つかったり、地元に帰って家業を継いだり、技量が追いつかなくなってきて自ら手放してしまったり、色んな理由で引退していく人を見送ってきた。一人、また一人と、ずっと見送る側でいるような気がしているけれど、いつか自分も”そっち側”に行くんだろうか。

「そっか、辞めちゃうのか」

と、寂しがってくれる人がいるだろうか。恋しがってくれる人は。

ドラマーは特に怪我や故障との戦いなので、リスクが高く、現役生活が短くなりかねないパートであるとも言える。ある種アスリートのような側面がある。『好き』の気持ちひとつで簡単にしがみついていられるほど甘くないことも、よく知っている。

だからこそ、丹念に。ひとつひとつ。
此処に自分が居た証を残すように。
ずっとずっと、僕を覚えていてもらえるように。

どうか忘れないでいて欲しいと、切に願うばかりだ。

「こんなはずじゃなかった」の連続の中でも、絶望的な状況に何度陥っても、決して諦めることなく咲き続け、たくさんの勇姿と最高のドラマを届けてくれたDerrick Martell Rose氏に、感謝と敬意を。

読んでくれてありがとう。


観るのは好きだけどちゃんとやったことは全然ないんだよね、バスケ。
実はやってみたい。

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