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禍話リライト【紙袋の中】

皆さんは普段、通勤に何の交通手段を使っているだろうか?
電車を使う人は、この話を読まない方が良いかもしれない。
特に関東にお住まいの人は....…。


体験者であるKさんは普段、電車で通勤していた。
その日も、会社帰りにホームで電車が来るのを待っていた。
携帯を見るのに疲れた彼女は、なんとはなしに遠くを眺めた。
その日は珍しく、2つ向こうのホームが良く見えた。いつもなら発着の電車に遮られて、1つ先のホームが見えれば良いほうなのに。

(こんな先まで見えるなんて珍しい)

何気ない風景の中、ベンチに座るおっさんが視界に入った。
髪はボサボサで服もボロボロで、大量の何かでパンパンになったレジ袋を横に置いたその人は、まるでホームレスのような出で立ちだった。

(ああいう人がベンチ占領してると座れなくて困るんだよね…)

我ながら心が狭いなと思いつつ眺めていると、あることに気が付いた。
そのホームレスは自らの傍らに置いたレジ袋の他に、両手で大事そうに紙袋を抱えていた。

(そんなに大事なものが入ってるのかな?
…ま、どうでもいいけど)

ただでさえ会社帰りで疲れている。
他人のことなど気にしていられない。
お目当ての電車がきたので乗り込んだ。
いつも同じ時間に乗る、見慣れた車両。
普段は最寄り駅まで立っているのだが、その日は偶然にも席が空いていた。
珍しい出来事に、Kさんは内心喜んだ。
降りる駅は大分先だったし仕事の疲れもあったので、座ってすぐにウトウトしだした。

〚次は○○駅、○○駅~〛
アナウンスの声で、不意に目を覚ました。
車内のモニターに映る駅名は、最寄り駅の5つ前のものだった。

(良かった、まだ先だった。
流石にここまで来ると乗ってる人も少なくなるな…)

そう思いながら、車内を見渡すと.......。
同じ車両の少し先の席に、乗る時に見かけたホームレスのおっさんがいる。

(いやいや、さすがにあり得ないって…)

自分が乗る時に、2つ向こうのホームにいた人間が同じ電車に乗るのは不可能だ。きっと他人の空似だろう……そう自分を納得させようとした。
しかし、レジ袋の膨らみ具合や抱えている紙袋の雰囲気がどうしたって似ている。
持ち物まで一緒などということがあるだろうか。
さっきよりも距離が縮まったことで、おっさんの持ち物がどんなものかがだんだん分かってきた。
どうやら、紙袋の中にはビーチボールくらいの物が入っているようだ。

(いったい何が入ってるんだろ…)

そこでKさんはハッとした。
おっさんを気にしているのはKさんだけで、決して多くは無い周囲の乗客は、彼の方を確認する様子すらない。
他の乗客は無関心なのに、自分だけ見ていて変に因縁を付けられても困るので見ないように視線を外した。
しかし1度認識してしまうと、ずっと気になってしまうのが人間の性だ。
それが変なものなら余計に意識してしまう。
Kさんはその後も視線の隅でホームレスを捉えていた。
そのうち、あることに気が付いた。

(ん?おかしいな…なんか怖…い……)

紙袋の中の物が、ゆっくりと回っている感じがする。
ホームレスは両手でしっかり抱えているから、中身を回せるはずがない。

(え?なに、生き物でも入ってるの?!
…ダメだ、考えないようにしよう!寝よっ!)

ずっと見ていると気になってしょうがないので、彼女は目を閉じて強制的に視線を外した。
当然、そのような状況で眠れるはずはないのだが、必死に見ないように努めた。
降りる駅まであと2駅。そろそろ居なくなったかなと、ゆっくり目を開ける。
ホームレスがKさんの目の前、向かい側の座席に座っていた。

(!!!??)

臭いという物は、空気の動きと共に移動する。ましてや何日もお風呂に入っていなければすぐに分かるはず。それなのに、今まで全く分からなかった。
認識した途端、嫌と言うほど感じているのに…。
不幸中の幸いだったのは、彼と目が合わなかったことだ。
ただ、真向かいに座っているのでどうしても意識が紙袋にいってしまう。
失礼にならない程度に寝たふりをしながら薄目で観察していると、やはりボールが回っているような、蠢いてるような感じがする。

(やっぱり動いてるよね?いったい何が入ってるの?)

その時、クフフっと笑い声が聞こえた。
ホームレスが紙袋の中身の動きに応じて、薄ら笑いを浮かべている。
どうしても笑い声が我慢できない。そんな笑い方だった。
あともう少しで着くから我慢しよう。そう思って目を閉じるが、紙袋の擦れるカサカサ音と彼の含み笑いが余計耳につく。

あと2駅───、あと1駅───、

〚○○駅、○○駅〛

(着いた!)

直ぐに降りようと勢いよく立ち上がったKさんが目を開けると、今度は目の前にホームレスが立っていた。

(!!!!!)

驚く彼女に、抱えていた紙袋を押し付けながら


「そんなに気になるなら、あなたも抱えてみますか?」

ホームレスは面白いものを見るようにそう言った。

「うわあああああああ!」

紙袋を必死に振り払って何とか抜け出した直後、車両のドアが閉まる。
恐る恐る振り返ると、動き出すドアの向こうで紙袋を抱えたホームレスがこちらをじぃーっと見ていた。
Kさんはしばらく電車から目が離せず、その場で震えていた。
押し付けられた瞬間─。
確かに、何かが動いた感触があった。

「思い込みかもしれないですが…あれは確かに人間の口…だったと思います…」

Kさんはそう漏らした。


そのような、何が入っているか分からない紙袋を持つホームレスが、関東圏の駅に出没しているらしい。
注意のしようが無いのだが、くれぐれも気をつけてもらいたい。
電車内でこれを読んでいる、あなたの視線の先にも……。



このリライトは、毎週土曜日夜11時放送の猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス「禍話」から書き起こし、編集したものです。
該当の怪談は2018/03/03放送「震!禍話 第七夜」1:30:10頃~のものです。


参考サイト
禍話 簡易まとめWiki様


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