#27 高地トレーニングの効果をVO2maxの変化で検証
高地に一定期間滞在してトレーニングを行う高地トレーニングという方法があります。
今回の論文では世界レベルの陸上選手でも効果があるのか?を検証しています。
今回の論文は富士山5合目ほどの標高(2,500m)に一ヶ月間滞在しながらトレーニングを行ったものになります。
是非、読み進めてみてくださいね。
高地トレーニングとは
高地トレーニングとはその名の通り高地でトレーニングを行うことを指し、スポーツで高地とは少なくとも標高2,500mを意味するようです。
2,500mほど高い標高に行くと酸素が薄くなっているのを実感でき、普段通りに歩いていても何だか息苦しいなと感じるでしょう。
しかしこのような酸素の薄い状況に一定期間滞在していると、体は赤血球をたくさん作ったりすることで環境に合わせて体自身を適応させていきます。
そうして得られた体の適応が、いざ高地トレーニングを終えていつもの低い標高に戻ってきたときに効果を発揮してくれます。
前回の記事でも高地トレーニングについてご紹介させてもらいましたので、そちらもご参照くださいね。
国上位クラスの陸上選手で検証
今回の検証にはアメリカでトップ50位以内の陸上選手(男性14名、女性8名)が参加。選手たちは約4週間の高地トレーニングを実施し、その後のレース(3,000m走)とVO2max測定によって効果が検証されています。
選手たちは4週間、以下のように高地トレーニングを実施しています。
標高2,500mに滞在して生活を送る
強度の低いベーストレーニングを標高2,000m-2,800mで行う
強度の高いインターバルトレーニングを標高1,250mで行う
そして高地トレーニング終了3日後に標高の低いところで開催される陸上競技の大会(3,000m走)に参加。同じタイミングでVO2max測定のテストも行われています。
高地トレーニング後のパフォーマンス変化
高地トレーニング3日後に参加した陸上の大会(3,000m走)では、平均すると6秒タイムが更新されました。
この結果だけだとどれくらい凄いことなのか分かりづらいので、もう少し説明をしておきますね。
選手たちは高地トレーニングが行われる直前にアメリカの国代表選手権に出場しており、この大会はシーズンでも特に大事な一戦で、選手たちのコンディションも高かったと考えられます。
この国代表選手権のときのタイムに比べて高地トレーニング実施後に行われた大会で平均して6秒タイムが更新されています。これは1.1%パフォーマンスの改善になります。
ベストコンディションに近いトップ選手が4週間でパフォーマンスを更に1%ほども改善できることは、なかなか凄い成果だと思います。
そしてVO2maxの測定でも平均すると2mL/kg/minの向上が見られました。
こちらも選手のもともとのVO2max能力の高さを踏まえると、高地トレーニングのポテンシャルの高さがうかがえます。
参考に私たち一般の方の平均値と、男性サイクリストの一般的な値を載せておきますね。アスリートのVO2max、高すぎる。。笑
パフォーマンスの向上は赤血球にあり
上でご紹介したパフォーマンスの変化の要因を調べるために、血液検査の結果が追跡されています。
高地トレーニングの効果は赤血球が多く作られることで有酸素能力が向上することにあるとされていますので、その点について検証がなされました。
検査結果にはヘマトクリット値というものがあって、この言葉は「血液の成分の中で赤血球がどれほどの割合(%)を占めているか」を意味しています。
割合(%)が高いほど、赤血球が多いとイメージしてください。この値は2-3%の変化でもパフォーマンスに直結します。
血液検査が行われたタイミングは以下の4時点で行われました。
高地トレーニングを行う3日前、いつもの標高:平均41.0% ←ベースライン
高地トレーニング開始20時間後:平均40.6%
高地トレーニング19日後:平均42.5%
高地トレーニングが終了した20時間後:平均42.8%
検査の結果、高地トレーニング19日後の検査では統計的にみてもヘマトクリット値が上昇していて、高地トレーニングを終えた後もその数値が維持されていることが分かりました。
2%以上の増加ですので、この赤血球の増加がVO2maxを押し上げて3,000m走のパフォーマンス改善につながったと考えられます。
おわりに
今回の結果からは高地トレーニングの高い効果が伺えました。
ただ注意点も多く、高地に行っていつも通りトレーニングをすれば良いという訳ではなくて、強度設定などには細心の注意が必要のようです。
また鉄分不足にならないよう、サプリメントの摂取なども行う必要があります。
高山病のリスクもありますので、それらのリスクを極力少なくするためのノウハウが、高地トレーニングには必要になってくるように思います。
こちらの記事でリスク回避のアドバイスも紹介していますのでご参照ください。
また今回の記事内では結果に載せていたエリスロポエチンには触れておりませんが、次回のドーピングにまつわる記事でご紹介しようと思っています。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。スキ、フォローをいただけると大変励みになります!
また読みに来てくださいね。
ご紹介した論文
Stray-Gundersen, J., Chapman, R. F., & Levine, B. D. (2001). “Living high-training low” altitude training improves sea level performance in male and female elite runners. http://www.jap.org