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#15 筋トレでハイレベル選手のパフォーマンスもアップする

前回の記事では筋力トレーニングによってペダリングの効率が高まって、パフォーマンスアップにつながるという論文をご紹介しました。

では、よりハイレベルの選手でペダリングの効率がすでに高い選手にとって筋力トレーニングはあまり効果がないのでしょうか?

今回の論文では筋力トレーニングによって得られるその他の恩恵によって、ハイレベルな選手のパフォーマンス向上にも役立てられる、という内容です。

具体的には筋線維タイプの変化などが話題になります。是非、読み進めてみてください。

前回の話題も含みますので、前回分も併せて読んでもらえると嬉しいです。




はじめに

みなさんこんにちは。川崎です。今回も記事に目を通してくださりありがとうございます。

過去に読んだ論文の中で面白いと思ったものを、テーマ毎に数編ずつご紹介している連載企画の15回目になります。

トレーニングって大事なことは分かっているけれど、続けるモチベーションをキープすることは難しいもの。

今日のこのトレーニング、頑張って意味あるのか?

と頭をよぎることもありますよね。

そんなときにトレーニングの基礎となる知識が頭にあると、もう一踏ん張り出来て次につながるんじゃないだろうかと感じています。

スポーツ科学の様々な側面を紹介することで、皆さまの日々のトレーニングが充実することを願っています。

こちらに今までのものをまとめていますので、是非他の論文にも目を通してもらえると嬉しいです。


今回の論文の見どころ

前回の論文で筋力トレーニングが有効なのは、

  1.  高い筋力の立ち上げができるようになる(RFDが上がる)

  2.  必要なタイミングに大きな力をペダルにかけられる

  3.  ペダリングの効率が高まって、パフォーマンスがアップする

という筋道で考察がなされていました。

今回の論文ではすでにペダリングの効率が高い(サイクリングエコノミーの高い)と考えられる選手に対して、筋力トレーニングを処方しています。

  • よりハイレベルな選手にとって筋力トレーニングは有効なのか?

  • 有効な場合、どういった理由で効果があるのか?

この二点について、検証を進めていきます。


検証の方法

検証にはヨーロッパのU23国代表の選手が参加しています。

選手たちは2グループに分けられて、以下のとちらかのプログラムを実施。

  • 16週間通常の自転車トレーニング

  • 16週間、自転車トレーニング+筋力トレーニング

筋力トレーニングは週に2-3度、5-10RMの強度で行われました。

選手たちは16週間のトレーニング前後に5分走と45分走、それに各種測定を実施。各種測定の一つに筋線維タイプの変化の検証が含まれています。


筋線維タイプ

ここで少し筋線維タイプについて触れておきます。

一つの筋肉はたくさんの筋線維で作られていて、たとえば大腿直筋には700本以上の筋線維があるようです。

これらの筋線維全てが同じ性質を持っているのではなく、いわゆる遅筋タイプの持久的な能力に優れている筋線維もあれば、速筋タイプの収縮速度に優れている筋線維もあったりと、色々な種類の筋線維が一つの筋肉を構成しています。

一般的に遅筋をタイプⅠと呼びます。タイプⅠ線維は有酸素能力に長けており、後ほどご紹介するタイプⅡX線維の5倍ほどの有酸素能力を持っています。

一方速筋はタイプⅡと呼ばれていますが、このタイプⅡには複数のサブタイプがあります。

今回の論文ではより速筋らしい速筋をタイプⅡx線維と呼び、持久的な能力も併せ持つ線維をタイプⅡa線維と呼んでいます。

これらタイプⅡ型の線維はタイプⅠ型の線維よりも2倍以上速く収縮できて、かつ無酸素能力に長けています。

タイプⅡa線維(持久型速筋)は無酸素能力を少し犠牲にする変わりにミトコンドリアを多く含み、有酸素能力を高めている線維です。

サイクリストにとって、瞬発力特化型のタイプⅡx線維(瞬発型速筋)よりも持久的な能力も持ったタイプⅡa線維の方が、好ましい状況は多くなると考えられます。


検証の結果

検証の結果、両グループともに5分走の平均パワーは向上していました。両グループともに見られたので、この結果は自転車トレーニングによる効果だと考えられます。

一方45分走の平均パワーは、筋力トレーニングを併せて行ったグループのみで向上が見られました。

続いてRFDとサイクリングエコノミー、筋線維タイプの変化について結果を追っていきます。

RFD(筋力発揮率)とサイクリングエコノミー
前回の論文で見られたようにRFDも筋力トレーニングを行ったグループで向上が見られましたが、サイクリングエコノミーに変化はありませんでした。

筆者はこのことについて、ハイレベルな選手ですでにペダリングの効率が高かったことで、RFDの向上がサイクリングエコノミーの向上につながらなかったと考察。

しかしRFDの向上が45分走の平均パワー向上に影響していることを指摘し、その理由として大きな力を出せる分、同じ出力をしても余力が大きく疲労感の軽減につながっているのではと考察しています。

10の力を持っていて8の力を出し続けるよりも、12の力を持っていて8の力を出す方が楽に感じるということです。

主観的疲労度の検証は行われていなかったのですが、是非とも知りたいところでした。

筋線維タイプの変化
自転車のトレーニングのみのグループでは筋線維の変化は見られませんでしたが、筋力トレーニングを併せて行ったグループはタイプⅡa線維が増えてタイプⅡx線維が減りました。

つまり、タイプⅡx線維(瞬発型速筋)がタイプⅡa線維(持久型速筋)に変わったことが伺えます。

タイプⅡ型の線維の中で、より持久的な能力を持つタイプⅡa線維の割合が増えるたことも45分走の平均パワーの向上に影響していると筆者は考察しています。

ちなみに、両グループともにタイプⅠ線維の数に変化は見られませんでした。


まとめ

ハイレベルな選手にも筋力トレーニングが有効かを検証した結果、45分走の平均パワーの向上が見られました。

その要因として、RFDの向上とタイプⅡa線維(持久型速筋)の増加が挙げられました。

今回の結果からも筋力トレーニングを自転車トレーニングに併せて行うことで、様々な効果を上乗せできる可能性がありそうです。

もちろん様々な論文の筆者が自転車のトレーニングが最も大事であることは強調されていて、筋力トレーニングだけ行っても強くはなれないことを前置きしています。

次回ももう一遍、筋力トレーニングにまつわる論文をご紹介する予定です。

今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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ご紹介した論文

Aagaard, P., Andersen, J. L., Bennekou, M., Larsson, B., Olesen, J. L., Crameri, R., Magnusson, S. P., & Kjær, M. (2011). Effects of resistance training on ph endurance capacity and muscle fiber composition in young top-level cyclists. Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports, 21(6).


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