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#14 高強度の筋力トレーニングはサイクリングエコノミーを向上させる
ロードバイクのパフォーマンスアップに筋力トレーニングを実施してみようかな、とお考えの方もいると思います。今のところ論文では筋力トレーニングは効果がある、効果がないと意見が分かれることもありますが、肯定的な論文も多くあります。
今回は肯定的な論文の一つをご紹介し、なぜ筋力トレーニングがロードバイクのパフォーマンスアップにつながるのかを見ていきましょう。
はじめに
みなさんこんにちは、川崎です。今回も記事に目を通してくださりありがとうございます。
今回から数編、ロードバイクのパフォーマンスと筋力トレーニングの関係についてご紹介していこうと考えています。私自身はトレーナーという立場から、筋力トレーニングの効果については肯定的に考えています。
確かに筋肉が大きくなる(肥大する)だけでは効果は薄いだろうと考えられますし、ヒルクライムなどの場合は体重が増えてしまうことのデメリットも懸念されます。
しかし筋力トレーニングで得られるメリットは筋肉が大きくなることではなく、筋力の立ち上げが速くなることでより少ないエネルギーコストでペダリングできることだと多くの論文が主張しています。
ここで、論文で出てくるサイクリングエコノミーという言葉を説明しておきます。
サイクリングエコノミー
たとえば180ワットで巡行しているとします。このときペダルに効率よく力を加えられていると、そうでなかった場合よりも筋の疲労は少なく済むはずです。つまり、酸素の消費は少なくて済みます。
効率良くペダリングが出来ているか?を酸素消費の観点からその良し悪しを表す言葉がサイクリングエコノミーです。
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このサイクリングエコノミーに、筋力トレーニングはどのように作用するのでしょうか。それをご説明するために、もう一つRFDという言葉を紹介します。
RFD(Rate of Force Developmeny):筋力発揮率
こちらは筋力の立ち上がりの速さを意味する言葉です。例えば0.2秒後にどれだけ強い力を発揮できているかといったことを表します。
100m走や野球、サッカー、どうようなスポーツでも大きな力を体やボールに作用させることは大切ですが、力を作用させられるのは一瞬の限られた時間です。コンマ数秒の世界。
ロードバイクの場合、ペダリングを90回転/分で行っているとしましょう。
ペダリングでは3時方向(最もペダルが前にある地点)付近でどれくらいの力をかけられているかは大事なことかと思います。
ですので12(頂点)から3時に向かうまでにペダルへしっかりと力を伝えておくことが必要です。
12時から3時までに要する時間は、90回転/分の場合約0.17秒。かなり限られた時間しかありませんね。
こういった短い時間に立ち上げられる力(=RFD)が高まることで得られるメリットは以下のような点が考えられます。
同じワット数で巡行していても、効率よく力をペダルに伝えられているためエネルギーロスが少なく済む。つまりサイクリングエコノミー良くなる
サイクリングエコノミーが良くなることで、高いワット数を長く維持できる
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今回の論文では筋力トレーニングによってRFDが高まると、それに伴ってサイクリングエコノミーが向上するのかを検証しています。
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検証方法
検証には普段ロードバイクに乗っている男女が参加しています。
参加者を2グループに分けて8週間、以下のような内容のトレーニングを処方。
ロードバイクのみのトレーニングを行うグループ
ロードバイク+筋力トレーニングを行うグループ
8週間のトレーニング前後に、ランプテスト(徐々に強度が上がっていくテスト)を行ってVO2maxや乳酸閾値、サイクリングエコノミーを測定。
それに加えて全員の筋力測定と、高強度パワー継続テストを実施。
二つのグループでどのような変化があったかを検証しています。
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なお筋力トレーニンググループは週に3回、強度の高いスクワットトレーニングを実施しています。
筋力トレーニングの強度設定は「RM(レペティション・マキシマム」という概念を用いることが一般的で、何回上げ下げできるかを表していて、たとえば4RMは、4回ぎりぎり上げ下げできる重量を意味しています。
今回の論文では一日に4RMの重量で4回、休憩をはさんで4セットのスクワットを行うことが指示されています。
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検証結果
検証の結果、高強度の筋力トレーニングをロードバイクのトレーニングと並行して行うことで、以下のような結果となりました。
体重やVO2max、乳酸閾値は変わらない
RFD(力の立ち上げ)が+16.7%向上
サイクリングエコノミーの改善幅が大きかった(+4.8%)
高強度パワーの持続時間も17.2%長くなった
論文の筆者は筋力トレーニングによってRFDが向上した結果、パフォーマンスの向上につながったと結論づけています。
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まとめ
筋力トレーニングはロードバイクのパフォーマンスを向上させるのかを検証した結果、高強度の筋力トレーニングはサイクリングエコノミーを向上させて、ロードバイクのパフォーマンスアップにつながると結論付けられました。
ヒルクライムなどで体重が重いことはデメリットな側面が強く、筋力トレーニングによって筋肉がついて重くなることを懸念されている方も多いと思いますが、やり方次第ではそのようなデメリットも解消できます。
今回の論文でも高強度で筋力トレーニングを行い、筋の肥大よりもむしろ神経系の適応に重点を置くことで体重の増加はありませんでした。
また最大筋力が上がっても、ペダリング時にそんな大きな力は発生させないよという観点からも筋力トレーニングの意味が問われることもあります。
今回の論文でも筋力トレーニングによって最大筋力は上がっています。しかし筆者の注目した点は最大筋力ではなく、限られた時間の中でいかに高い筋力を立ち上げることができるかという点でした。
つまり、スクワットの挙上重量が上がったことではなく、スクワットの挙上始めに立ち上げられる力(RFD)の向上に注目していました。
このRFDという能力の向上がサイクリングエコノミーの向上につながって、ロードバイクのパフォーマンスが上がるという筋道が、今回の論文が筋力トレーニングを支持するものです。
次回の論文も筋力トレーニングについての検証を行ったものをご紹介する予定です。筋力トレーニングの効果について、様々な観点を知ってもらえればと思います。
最後までお読みくださりありがとうござました。今後もよろしくお願いします。
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ご紹介した論文
Sunde, A., Støren, Ø., Bjerkaas, M., Larsen, M. H., Hoff, J., & Helgerud, J. (2010). Maximal strength training improves cycling economy in competitive cyclists. Journal of Strength and Conditioning Research, 24(8), 2157–2165.
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