#23 プロロードレーサの一年はいかに過酷なものなのか?
レースシーズンが始まると毎週のようにレースがあるプロロードレーサーたち。
彼らは一年を通じていかに闘い、そしてその合間を縫っていかにトレーニングを積んでいるのでしょうか?
今回の論文は、ジロ・デ・イタリアに出場した4選手の一年の軌跡を追った論文をご紹介します。
はじめに
こんにちは、川崎です。
この記事に興味をもってくださりありがとうございます。
最近の論文レビューでツールドフランスなどのワールドツアーがいかに厳しいものか、そして出場している選手たちの驚異的なフィジカルをご紹介しました。
今回は論文をもとに、ワールドツアーに出場するような選手が一年間どのようにトレーニングし、レースに参加しているのかをご紹介していきます。
私たちのような一般人ではとても考えられないような時間を競技に捧げている様子を是非ご覧ください。
データ取得方法
検証にはプロロードレーサー4名の1シーズン分の走行記録(パワーと距離、時間)が取得されています。
この選手たちの所属などは記載されていませんが、論文の著者の一人がコフィディスに所属されている方で、その他の情報も照らしてこのチームの選手であろうと思われます。
4名の平均年齢は24歳、平均身長は184cm、平均体重は77.6kg。脚質やチーム内の役割などの記載はありませんでした。
取得された1シーズンは2014年10月~2015年9月で、この期間コフィディスはプロコンチネンタルチームの登録です(2020年以降はワールドツアーチームに復帰)。
なお、選手4名のうち2名は過去のジロ・デ・イタリアでステージ優勝している選手ということで、ワールドクラスの選手たちと考えて良いかと思います。
検証は1シーズンを3つのフェーズに分け、それぞれの比較がなされました。
ベースづくり期
レース期1
レース期2
各フェーズで行ったトレーニング、レースの記録がそれぞれ取得されています。
そして4名全員が、このシーズンのジロ・デ・イタリアに参加しています。
結果
まず全体像からお伝えします。
4名の選手の1シーズン平均
トータル距離:26,450km(519km/週)
トータル時間:856時間(16.8時間/週)
全体の平均パワー:208ワット
各フェーズの1週間平均の結果は下の表をご参照ください。
続いて、各フェーズのトレーニングとレースを分けた場合の結果です。
この結果から以下のようなことが述べられています。
ベースづくり期は後半の週にレースがあるものの、多くの時間を有酸素系の強度でじっくりとトレーニングを行っている。このフェーズでは週あたりの走行時間がまだ少ない。
レース期1の最後の3週はジロ・デ・イタリアもあるフェーズで、最もボリューム、強度ともに高いフェーズ。レースが毎週のようにあるためトレーニングの時間は少なくなるが、トレーニングの強度は落ちていない(トレーニングの平均パワー200ワット、ベースづくり期とほぼ同じ)。そしてより高強度帯の出力をレースで出している(レースでの平均パワー242ワット)。
レース期2ではトレーニングの強度は下がり(平均パワー191ワット)、レースでのパワーも下がっている(平均パワー216ワット)。その要因としてはジロ・デ・イタリア後に体のリカバリーを行うために強度が下げられたこと、最終週にチームタイムトライアルがありTTバイクでのトレーニングが多くなったことなどが挙げられています。
以上の内容は、下図の積み上げ棒グラフで示された週あたりの時間配分にも反映されています。
ここまでが論文著者が述べられていた内容で、以下私見となります。
フェーズごとのトレーニング時間はレース期1(9.2h/週)よりもレース期2(8.9h/週)の方が少ない結果でした。
しかし週ごとの結果(上の図)をみるとレース期1(オレンジ矢印)よりもレース期2(緑矢印)の方がトレーニング量が多いように見えます。
ただ各フェーズの集計結果と違って、週ごとに4名の選手の記録を平均すると上図のようになるのかもしれません。
詳細は分からないので何とも言えませんが、週ごと(上図)の結果だけをみた場合に、以下のように感じました。
レース期2ではレース期1での疲労を取り除くためにトレーニング量に緩急をつけて調節して、シーズン終盤の試合に向けてコンディションを取り戻していくような計画に見えました。
レース期2のレースでのパワー発揮が低めなのも(レース期1:242ワットに対してレース期2:216ワット)、コンディションを戻す困難さが反映されているのかもしれません。
以上、私見を少し述べさせてもらいました。
おわりに
この論文を読んだ後、プロ選手のハードワークぶりを目の当たりにして、自分のトレーニング量と比べて笑ってしまいました。
私はだいたい一週間に5-6時間ほどトレーニングを行っていますが、たまに10時間ほど乗れた週には、
「かなりトレーニングできたなー!そして疲れた!!」
と充実感に浸ったりするのですが、プロ選手はその2倍以上もの時間を毎週こなし、そしてパワー発揮も全く比べ物になりません。。笑
もちろん一般人の私と比べても仕方ないのですが、自分自身と引き比べることでプロ選手がいかに凄いのかが分かりました。
そしてプロ選手たちはレース期に入ると毎週のようにレースがあって、その中でフィジカルを高めながら狙いとする大会に焦点を合わせていることが、本当に凄いことだなぁと思いました。
#21の論文でもご紹介しましたが、レースが重なると選手たちは疲労を抱えてオーバーリーチやオーバートレーニングの状況に陥ると考えられます。
このような状況は適切に対応しないと、フィジカルパフォーマンスが低下してしまうことも十分に考えられます。
大事な大会で限界のパフォーマンスを発揮する、各レースでポイントを重ねる、でも翌シーズンに向けてもフィジカルを高める。
これら全てをやってのけるには、本当に綿密なトレーニング計画がなされているのだろうなと感じた論文でした。
皆さんは、どのように感じられましたか?
この記事でロードレース観戦がより楽しくなってもらえると嬉しいです。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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今後ともよろしくお願いします。
ご紹介した論文
Metcalfe, A. J., Menaspà, P., Villerius, V., Quod, M., Peiffer, J. J., Govus, A. D., & Abbiss, C. R. (2017). Within-season distribution of external training and racing workload in professional male road cyclists. International Journal of Sports Physiology and Performance, 12, 142–146.
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