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#50 何に意識を向けるべきか?

今回はレースやトレーニング中、何に意識を向けるかでパフォーマンスが変わってくるよという論文をご紹介します。

皆さんは強度の高いパワー(80%VO2maxやFTP前後)で巡行中、どのようなことに意識を向けているでしょうか?

サイクルコンピューターに表示されるパワーやケイデンス、体の動き、リズム感、呼吸、脚の疲労、

もしくは好きな曲を頭に巡らせている方もいらっしゃると思います。

意識を向ける先は様々ですが、今回ご紹介する論文ではMulti-Action plan modelという考えのもと、4つに区分されたそれぞれの方向へ意識を向けることがパフォーマンスにどう影響するのかを検証しています。

◆Type1:Optimal-Automatic
自律的な(フロー的)な動きの流れに注意を向けるタイプ。今回の検証ではメトロノームのリズムに注意を向けています。

◆Type2:Optimal-Controlled
体の感覚のうち、パフォーマンスに直結する要素に注意を向けるタイプ。今回の検証では足を回している感覚に注意を向けています。

◆Type3:Suboptimal-Controlled
体の感覚のうち、パフォーマンスには直結しない要素に注意を向けるタイプ。今回の検証では脚の疲労感に注意を向けています。

◆Type4:Suboptimal-Automatic
動作とは関係のない、外因性のものに注意を向けるタイプ。今回の検証には含まれていません。


◆検証方法

〈参加者〉
20代の一般男性12名、女性5名

〈方法〉
VT2+5%の強度(おおよそFTPよりやや高め)で何分間自転車エルゴメーターを漕げるか、意識の集中先を3タイプに分けテストを3回実施。各テスト間には2日以上の間隔をあけています。

3タイプの順番はランダムで実施。
1.ケイデンスのリズムに合わせたメトロノーム(Type1)
2.足を回している感覚(Type2)
3.脚の疲れ(Type3)

実施途中に感じているRPE(0-10スケールver)を1分おきに聞き取り、最終的に何分間漕げたかを条件間で比較しています。


◆検証結果

三つの方法を比較した結果、「メトロノーム」と「足を回す感覚」に意識を向けた場合に統計的な差はありませんでしたが、「脚の疲労感」に意識を向けた場合は統計的に継続時間が短くなっていました。

また、RPE(主観的運動強度)の変化も「脚の疲労感」に意識を向けることでRPEが5:きついと感じる始める時間が早くなる傾向にありました(下図の赤マーク)。


何に意識を向けるべきか?

意識を向ける対象が異なることでパフォーマンスにも影響があることは昔から研究がなされており、今回の研究もその一つです。

意識を向ける対象を分類する方法はいくつかあるようですが、今回の論文では「動作への関連度」と「内部or外部感覚」の二軸で分類し検証を行った結果、

  • 動作への関連度が高ければ、内部or外部感覚のどちらに意識を向けても差はない(メトロノームと足を回す感覚)

  • 動作への関連度が低い内部感覚に意識を向けるとパフォーマンスは下がる(脚の疲労感)

ということが分かりました。

一般的には動作への関連度が高い外部感覚(リズム感や動作の流れ)に意識を向けることがパフォーマンスに良い影響を及ぼし、脚の疲労感などに意識を向けることはパフォーマンスにとってネガティブに作用するとされていて、今回の結果もそれに準ずる内容です。

なぜ意識を向ける対象が違うと継続時間が変わってくるのか?とうい点についてはRPE(主観的運動強度)が併せて検証されており、持久的なパフォーマンスを大きく左右するRPEは、疲労感に注意を向けることで高くなってしまう、つまり余計に疲労を強く感じてしまうことが伺えます。

以前の記事(レビュー#12)では、脚をストップさせてしまうのはフィジカルではなくメンタルによるものだという論文をご紹介しました。

こちらの論文では、疲労困憊の5秒後に数秒間の全力ペダリングを行ったところ、全参加者が疲労困憊時のパワーの優に2倍以上のパワーを出力できており、脚を止めたのは体の限界ではなくメンタル(=RPE)の限界であったと結論づけられています。

レビュー#12より

また他の論文(レビュー#13)では、ナロキソンという疲労感などを和らげる体内物質の生成を阻害する薬物を投与すると、血中乳酸値などは同様にも関わらずナロキソンを投与されることでRPEが高まり、持久テストの持続時間が短くなっていました。

レビュー#13より

以上の論文からはRPE、つまり主観的な疲労度は私たちが実際に感じているものであり、持久的な運動をどれくらい持続できるかの最終判断材料である一方で、RPEはいつでも同じように体の状況を伝えてくれる精度のよい指標ではなく、意外と精度の低いものであることが伺えます。

そのため脚の疲労感などに注意を向けてしまうと、そのことで余計に疲労感を高めてしまう、RPEが高くなってしまうという事態になるのかもしれません。

今回の論文からは、パフォーマンスを維持するためには疲労感からは出来るだけ距離を置くことが望ましいと言えるでしょう。

しかし一方で、終盤の脚の辛さは無視できるものでもありませんね。

何に意識を向けようと、辛さが感覚の大半を占めてきます。

次回の論文紹介では、このような状況においてはどのように意識を構築することが最善なのかを検証した論文をご紹介しようと思います。

今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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また読みに来てくださいね。


併せて読んでもらいたい記事


ご紹介した論文

Bertollo, M., di Fronso, S., Filho, E., Lamberti, V., Ripari, P., Reis, V. M., Comani, S., Bortoli, L., & Robazza, C. (2015). To focus or not to focus: Is attention on the core components of action beneficial for cycling performance? Sport Psychologist, 29(2), 110–119. https://doi.org/10.1123/tsp.2014-0046

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