"アイデアこそ全て"症候群
プロダクトマネジメントに関わる人であれば誰しもアイデアの重要性は認識していると考える。世界中で使われているどんなプロダクトも、最初は誰かのアイデアから始まっている。誰も思いついていないような革新的なアイデアは世界を救おう→ジョブ理論だ!デザイン思考だ!という理屈自体は正しい。
しかしアイデアを考えるということは全体のスタート地点に過ぎない。さらに言うなら、私含め多くの人が思う「アイデア」自体、プロダクトを作るために考えなければならないことがそもそも欠落しているパターンが非常に多い。
間違ったPDCA
例えばあなたがPMだとして、なにか新しいプロダクトのアイデアを立てたとする。そのアイデアがうまく行かなかった時、企画で頓挫してしまった時、当然がっかりし、反省する。次こそはと思い、何がいけなかったのかを考える。そして「アイデアがダメなんだ。もっとシャープなアイデアを」という結論に至る。そしてジョブ理論やデザイン思考の書籍を読み直す。
多くの人は上記のような経験があるのではないだろうか。しかし冷静に考えて、今世界で使われてるプロダクトの「アイデア」はそれほどシャープであろうか。Google検索やiPhoneのアイデアは確かに凄いし、誰も思いついてなかったし、シャープだとは思う。じゃあFacebookは?mixiっていう似たようなものが一応あった。Twitterは?Netflixは?
私は別にFacebookやNetflixを貶めたいわけではないし、むしろ優れたアイデアだと思う。ただ、「人々をつなぐ」「DVDを借りなくても映画が見られる」という「アイデア」ではなく、「世界中の人々をつなぎ彼らのアクティビティを収集することで、より最適なコンテンツや広告を提供できる唯一無二の存在となる」という言ってしまえば世界観込みで素晴らしいアイデアだと考えている。
初級者向け情報が溢れすぎている
プログラミングでもそうだが、プロダクトマネジメントもとにかく初級者向け情報にあふれている。すでにシニアなプロダクトマネージャーより、これからプロダクトマネージャーを目指す人口のほうが常に多い現在の状況でPVを稼ぐのは常に後者へ向けた記事である。結果、書籍で言えば序文から第二章辺りまでの情報が氾濫し、第三章以降の情報がシャットアウトされてしまっている。序文から第二章では、大体「アイデア」の作り込み方、つまりジョブ理論やユーザーインタビューやMVPの話がメインとなる。第三章以降の情報は消えていく。
そしてプロダクトに失敗した人々は、序文から第二章までの範囲内でPDCAを回す。そして誤った方向に進み、絶望していく。プロダクト開発は天才にしかできないものと考え始める。かつての私もそのように思っていた。
世界観まで考えないと評価もできない
「アイデア」では多くの場合、どういうユーザーが使うか、どのような困りごとを解決してくれるものか、いくらのものか、どんな機能を持つか、といった要素は考えられている。
世界観では更に踏み込んで、「そのプロダクトはどういうサイクルでユーザーを増やし続けるのか」「そのプロダクトはどのようにユーザーの生活に食い込んでいくのか」「そのプロダクトはどういう力学で(営業の売り込みとは別で)普及されていくのか」「そのプロダクトが普及されると次はどのような可能性が見えるのか」という具合に、プロダクトに対する人々の動きを予測する。「良いプロダクトなら口コミで自然に増えていく」等という牧歌的なものではなく、合理的に予測できる未来が描かれている必要がある。
エンジニアやデザイナーはモノ作りの人々なので「アイデア」だけでも惹き込むことは可能かもしれない。しかし営業や企画者、人事、総務、経理、更にはユーザーを巻き込むにはこの世界観が必要となる。
そしてこの世界観の作り込みは決して天才しかできないものではない。ユーザーに関するある程度の理解があれば作れるはずである。しかし多くの「アイデア」は世界観を考えられることすらなく死んでいく。
世界観を作り込む
私自身、とくに網羅的に法則化できているわけではないが、よく考えるのは以下である。(noteで箇条書きしようとすると異常なまでに空白ができるのがとにかく気に食わない)
- そのプロダクトのユーザーと繋がっている人には、どんな人がいるか
- 直接触ってない人の生活に、どのような影響が出るか
- プロダクト自体が次のユーザー(候補)を持ってくるようなサイクルが組めているか
- そのプロダクトをユーザーが繰り返し使い続ける導線やモチベーション設計が整備されているか
- 「良かったからまた使う」よりもさらに具体的に
- そのプロダクトが想定ユーザーシェアの50%を取れたら、世の中がどうなるのか
- その時、どのような事業を次に仕込むのか
とにかく、そのプロダクトを使うユーザーがその使った瞬間どうなるか、だけではなく、次の日や次の週にどうなるか。そのユーザーはどのように次のユーザーを引っ張ってくるのか、といった具合に時間軸などを極限まで長く引き、それぞれの状況を考える。それぞれの瞬間で、プロダクトを意識してもらうために何があると良いのかを考える。
こんな具合に進めると、一度は頓挫した「アイデア」もまた日の目を見ることがあるかもしれない。
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