シアターホームステイで松山へ。
今月、6日〜12日
全国小劇場ネットワークが行っている、シアターホームステイという事業で愛媛県松山市の「シアターねこ」へお邪魔してきました。
全国小劇場ネットワークとは、日本各地の民間小劇場が繋がり情報共有をしたり、協力できたりする関係を緩やかに形作っている団体です。
そして、シアターホームステイはそこに所属する劇場同士でアーティストやスタッフを派遣しあい、研修を行う取り組みです。
「研修」と、言いましても。
そんなにかっちりしたものではなく、とにかくその街や劇場に滞在して、そこで起きていることを肌で感じ、そこで暮らしている人と話をしてみる。
そして、自分の活動の糧になったり、その街の活動に何かをもたらしたりする。あるいは、何も起きなかったりもする。それでも、よい。
そんな活動です。
私が上田で働いている劇場にも毎年、2、3組のアーティストが滞在して
数日、長いときは1週間以上滞在して、街の人と話したり、文化的な活動を見たり、3階のスタジオで稽古をしたり、ただ温泉に浸かってのんびりしたり。それぞれのペースと目的で過ごしていました。
私は6泊。
シアターねこは劇場でありながら、すぐお隣に「風のねこ」という精神障害のある方への就労支援を目的としたB型事業所があり、事業を共に行っています。
上田でも劇場・文化芸術と福祉的活動の「領域横断的」な動きが生まれているのでずっと気になっていたのですが、シアターねこは今月8月末で閉館となってしまうということで、
これは、どうしても行かねば!ということで行かせてもらうことに。
閉館間近であるが故に、様々な議論が交わされていたり、
関係するたくさんの人の中で、いろいろな想いが渦巻いていたり・・・。
私自身も考えを巡らせるのに、とてもいい時間をいただきました。
6月から7月にかけてヨーロッパへ出掛けて、
劇場や街やたくさんの人にリサーチをさせていただいた延長のようでもありました。
今回の記事はそのレポートとして書いたものです。
・・・
1日目(8月6日)
訳あって、今回の移動は陸路。LCCとか取れるならもっと安いし早いのだけど、決まったのが割と直前だったこともあり飛行機は手配できず。
約9時間(!)の特急電車旅です。
初めて通過する瀬戸大橋。
実は四国は仕事で高松へ来たことしかないのです。楽しみ。
到着後、ゲストハウスにチェックインして、
シアターねこへご挨拶。
2日目(8月7日)
10時半に約束をして、鈴木さんとおしゃべり。
シアターねこを松山で始めた経緯、風のねこを始めた経緯、
鈴木さんが劇場を開き続けている理由。
私自身も、なぜ舞台を仕事にしているのか、上田に至るまでの経緯、
これからやっていきたいこと、今抱えている課題、
話し始めると止まらずに、そろそろお昼の時間ね、と言いながら
13時過ぎまでノンストップで話し込んでしまいました。
お忙しいところ、お時間ありがとうございます!
シアターねこは保育園の園舎を利用しています。
他の教室だったところには別のテナントが入っていたり。
滞在中、ざっくりといつどんなことをするか
どんな人にどんなことを聞きたいかご相談させていただき、
この日はひとまず、お昼を食べて、道後温泉へ。
元はシアターねこの関連施設だったお店。風のねこに来ている利用者さん達がお仕事に来ていたりしたそうですが、今回の体制変更により、今後はそんな連携もなくなってしまうそう・・。
お店の方ともちょっとだけお話ししましたが、やはり、利用者さんがいらっしゃらなくなるのは寂しいし、お手伝いしてくれる人たちがいなくなると、実際業務が大変になってしまうんですよね、とのこと。
その後、道後温泉でゆったり温まった後(というか、外は38度以上。休憩しながらじゃないと、20分の距離も一息には歩けませんでした)、
ザ!観光地!な商店街を通って、チンチン電車で宿へ帰りました。
3日目(8月8日)
本日もシアターねこから活動開始。
昨日、急遽誘っていただいて風のねこのワークショップを見学させてもらいました。10時半に劇場にお邪魔すると、俳優・演出家・劇作家である有門正太郎さんと利用者の方、数名が輪になって座り日常の雑談をしていました。
わたしの幻聴幻覚プロジェクト 「この病気にならないと理解できないと思います。どうせ、他人事でございましょう」と題された、この企画。
精神疾患のある方とアーティストの協働によって進むこのプロジェクトは、文化庁の委託事業として5年間続いてきました。
今年はその最後の年。
有門さんと風のねこに通う利用者の方の間には、確かな信頼関係が見えました。ワークショップとして聞き取りを行なっているのですが、この日は2時間ほどの活動の間、半分は日常の雑談。
「家から20分の距離にマックがあったらやばいね!通っちゃうね!」
「いいねぇ、物語が始まりそうだね」
「長年続けたことをやめてみようと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?」
利用者さんの言葉に明るく、軽快に返答する有門さん。
本当に何気ない世間話から、きっと、有門さんにしか聞けないこと、この場だから話せてしまうこと、などがあるんだろうなと想像します。
人との関係ってそういうものだなあと。
家族や職場や学校や、日常的に顔を合わせている人には、あえて触れないことや、あまりに「日常」過ぎて話題にならないこと。
たまに現れて、でも信頼関係があって、お互いに
「聞いていいこと」「聞かれてもいいこと」の範囲が広がって、さまざまな話ができる。そんな場所が、誰にもで必要なのだと。
なかなか難しいことですよね。
そして、きっとそれは「演劇のワークショップ」として、だからこそ起こることもあるのだろうなと。
12時過ぎ、ちょっとだけ有門さんとお話をして(次のワークショップへ向かわれるそう!お忙しい。)以前お仕事をご一緒した、ダンサーの森下真樹さんに勧めていただいたランチを食べに松山市駅前へ。
(森下さんは学生時代一番長く松山で過ごされたそう。オススメをたくさん伺いました)
甘くて美味しい。ごちそうさまでした!
14時半、シアターねこに戻り「松山ブンカ・ラボ」のディレクターを務められていた、戸舘正史さんにお越しいただき、お話を伺うことができました。
中間支援のあり方、地域で文化的な活動が続いていくこと、興っていくこと、松山ブンカ・ラボがどんな体制で設置され、どんな活動を行なっていたのか。
それから、長野県の「信州アーツカウンシル」の動きや、今上田市で起きていることなども・・・。
お話ししている間に有門さんがワークショップから戻られて束の間、
鈴木さんも含め4人でおしゃべり。
有門さんが地域創造の事業に関わられていることもあり、そのことや岡山県に昨年新しくできた「ハレノワ」のことなど、さまざまなことに話は及び。
短時間で凝縮してたくさんのお話を聞き、なんとも頭がパンパンです。
その後は流れで、戸舘さんを空港へお見送りに鈴木さんの車に同乗。
とって返す車内で緊急地震速報が鳴りました。
南海トラフ地震の注意報が発令されたのはこの後でした。
何事もなく、いま、過ごせているので良いですが、滞在中でも戻った後でも地震が起きていたらと思うと、本当に恐ろしいことです。
4日目(8月9日)
滞在折り返しのこの日は、レンタカーを借り、香川県丸亀市へ。
色々ご縁があり、丸亀市で今建設中の「みんなの劇場(仮)」の準備室に入られている市役所の方々と最近知り合うことができ、オンラインでお話をしていたのでした。
機会があれば、是非お伺いしたいです〜なんて言っていたのですが、意外にもその機会はすぐにありました。
お昼過ぎに、市役所へお伺いし松岡弘樹さんと合流。
課長の村尾剛志さんともご挨拶。直接お会いできて嬉しかったです・・!
松岡さんが市内を案内してくださるとのことで、早速お昼を食べにうどん屋さんへ。
MOMICA 美術館へもお邪魔しました。ほとんどのお店がシャッターを下ろす、商店街のアーケード各地にシャッター商店街はあれど、ここまで寂しい通りは初めてかもしれない・・。
いろいろなところを案内していただきながら、新しい市民会館がオープンすることになった経緯、市役所の中での動き、そこで中心となって準備している人たちの話、ここでもたくさん伺いました。
今年度、丸亀市では文化的な活動に対する助成金が新設されたそうですが、ほとんど応募がなかったとのこと。
場所が違えば問題も違う。その土地ごとで、課題は千差万別。
市役所へ戻り、新しい劇場の3D図面を見せていただいたりして解散となりました。お忙しいところ、たっぷり時間をとっていただいてありがとうございました・・!
是非、劇場が動き出したのちお邪魔できたらと思っています・・!
その夜は19時から松山市内で行われる勉強会に参加する予定だったのですが、渋滞に巻き込まれ、反対方向の電車に乗り、1時間の大遅刻。
おかしいな・・丸亀を出たのは全然間に合う時間だったのにな・・。
結果、20時から劇場を勉強する会に参加。
松山市ではいま、経済団体から5,000人規模のアリーナを新設する計画が提案され、検討が始まっているそうです。
先日、シアターねこの運営団体も含め3つの団体から要望書が出されたばかり。
アリーナ建設の前に、まずは劇場がある意義についてなど根本的なところからみんなで集まって話をしようという会。今回が2回目。
すっかり遅くなってしまったけど、集まっているのは25名ほどの松山や周辺に住む文化芸術に関係する人たち。
仕事にしている人から、趣味で劇団に参加する人、市議会議員まで・・。
一人ひとり発言する機会があり、私も上田のことなどお話しさせてもらいました。
劇場が街にあるということは、ただ、舞台の発表だけが目的ではない。
場所があって、人が集まれるということがどんなに貴重で大事なことか。
私がいる上田の劇場も、なくなるとなったらどんな動きが生まれるのだろうと想像してしまうのでした。
きっと、同じように誰かが声をあげて、
同じようにたくさんの人が想いを巡らせてくれるのだろう。
でも、開いている間は「大丈夫」って思ってる。
きっと、松山も同じ。
5日目(8月10日)
実は滞在中、ある書類作成に追われており
日々、夜な夜なその作業をしていたのですが、だんだんと時間がなくなってきており、この日はそれを仕上げる時間としました。
昼過ぎに、こちらも人にお勧めしていただいた伊丹十三記念館へお出かけ
と
まだ歩けていなかった、近くのアーケード商店街をぶらついて終了。
6日目(8月11日)
毎日動き回って、疲れが見えてきました。
よっこいしょと思い腰を上げて朝からまずは、みどりの窓口へ。
気がつけば帰る日はお盆の初日。無事にチケットが取れたので、一安心。
午後にシアターねこでリーディングのお芝居を見る予定です。
漁港からの帰り、お店が何も開いていなかったので仕方なくコンビニで買ったお昼をロープウェイ駅の前で食べてたらおばあちゃんが声をかけてくれてちょっとお喋りして、気が付いたら、開演4分前・・!やばい。
すぐそばなので、時間には間に合ったのですが、
当日券で入るつもりが、なんと、当日券売り切れ・・!
しかし。
あちゃー、どうしようかなと受付の前で悩んでいると
偶然その時隣で受付していた方が
「私もう一枚持っているんです。これではいれますか?」と。
なんとー!!
ありがとうございます!!!
ありがたくいただいて、無事入れました。
お連れさまが急遽来られなくなってしまったとのことで。
上演の中身としては、ところどころ
はて?この演出は・・と思うものの、大変おもしろく見ましたが
何故今その台本を上演するのか、当日パンフレットに書かれている情報では説明が足りないようにも感じました。
シアターねこが閉館するというタイミングで約10年ぶりに上演をするという劇団が、何故この台本を選ぶのか。理由を知りたいと思う感じでした。
そして、その後ちょっとお部屋に戻って、19時、鈴木さんと合流。
風のねこの代表、森本しげみさんと、松山ブンカ・ラボに勤めていらっしゃった、松宮俊文さんとご飯へ。
松宮さんは現在、静岡の施設で働いていらっしゃるのですが、そこは犀の角と関わりの深い方が何名か在籍されており、いろいろな話に花が咲き。
21時半に解散。
みなさん、お忙しい中ありがとうございました・・・・!
翌日はまた約9時間かけて、長野の山へと帰るのでした。
・・・
いろいろと詰まっている中、今こそ!と思い、出掛けた今回の旅でしたが
やはりこのタイミングで行けてよかったなと思います。
ヨーロッパでは、各地で行われているイベントをリサーチし
どこでどんな取り組みがあるのか、どんな人がそこに訪れるのかを中心に見てきたような気がしますが、
今回は、その街で行われていることが、人々とどう繋がっているのか
その文化施設が、劇場があることによって何が起こっているのか
そこに住む人にとってどんな存在であるのか、
そんなことを感じる時間だったかなと思います。
劇場が、ある意味。
この先も追求し続けるべき問いではあるし、
その街によって、人によって、時代によって、
答えは変化していくべきと思いますが
自分にとっての、その意味がどうあるべきなのか。
いま、私自身にとっては、どうなのか。
ゆっくり、じっくりと考える時間をいただきました。
滞在中、時間を割いてくださった皆さま
上田から松山という、だいぶ遠い距離ですがご支援いただいた
全国小劇場ネットワークの皆さま、
送り出してくださった上田の皆さま、
受け入れてくださった、鈴木さん、
改めて、本当にありがとうございました。
この先も、この事業でたくさんの人が
考えるための時間や出会いを持てますよう。