ムラブリ―文字も暦も持たない採集狩猟民から言語学者が教わったこと、あるいは天職に就く幸運さ

ムラブリ―文字も暦も持たない採集狩猟民から言語学者が教わったこと
5.5/10 図書館。

面白かった。

ムラブリとはタイとラオスの国境域に住む少数民族。ムラ(人)+ブリ(森)で森の人という意。
マレー語のorang(人)+utan(森)から成るオランウータンを想起させる。
著者は38歳の男性の言語学者。


“専門性が嫌なのではなく、それが生む権威が気に入らない。働くことが苦手なのではなく、強制されることが身体に合わない。所有やお金を避けたのは、そこに絡む社会の仕組みや税金に、ぼくやぼくの友人たちが苦しめられているからだ。”(P251)

“(そんな)ぼくはムラブリを研究することからはじめた。いつしか、ムラブリとともに研究するようになった。そしていま、「ムラブリ」として研究することに挑戦している。”(P250)

資本主義的なラットレース・椅子取りゲームへの嫌悪感と、社会や科学を前に進める一助を担おうとするアカデミックな公共心。
矛盾し合う気質を持て余していた彼が学部時代に出会えたのがムラブリで、両者の精神性がとてもよく馴染んでいる。
直感を信じた結果天職を選び取ったし、また掴んだものを手放さぬための努力を続けている。
そうした人間特有の、屈託や衒いのない幸福感が本著には通底している。

心地よい読書体験だった。

いいなと思ったら応援しよう!