ドラマ『かぞかぞ』からの→AI ミック・ジャガー
ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(通称かぞかぞ)が大好きで、3周観ました。特に8話の最後5分間には心を打たれ、何度も繰り返し観ては涙を流しました。
その5分間というのは、美保純演じる主人公の祖母が、坂井真紀演ずる娘に林檎をむいてあげる場面です。8話はその祖母、芳子にスポットライトを当てたエピソードなのですが、認知症で頭の中の時空がごちゃ混ぜになっている様子を、若い頃(臼田あさ美)の思い出を時折挿入することで表現しています。芳子は、小学生の娘に玉子焼きを作ってあげた時と同じように、50代になった娘に林檎をうさぎさん型にむいてあげ、それを嬉しそうに食べる娘を見て、満面の笑みを浮かべます。このシーンの芳子を優しく明るく包むのが、後ろに流れるThe Rolling StonesのShe's A Rainbowです。
She comes in colors everywhere
She's like a rainbow
昭和の封建的な家庭環境で不条理な状況に耐えながらも強く逞しく生きてきた芳子。夫からも義理家族からも解放されて、自由気ままな生活を送っていましたが、娘の病気を機に、再び家族に尽くす日々を余儀なくされます。そんな中、狂っていく認知。しかし、ドラマは芳子を変わらず讃えます。若い頃の芳子も、老いて時空を彷徨っている芳子も、いずれも芳子という「虹」を構成する層のひとつ。人生は、生きてきた分の色を重ねた虹なんだと、ポジティブな気持ちで満たしてくれるのです。
そうだ。私もこの歌をテーマソングにしよう!と、早速このShe's A Raibowをダウンロードしました。運転しながら聴いていたところ、どうも引っかかる歌詞があったのです。
And her face is like a sail
Speck of white so fair and pale
Have you seen a lady fairer?
彼女の顔は帆のように色白だ
こんな美しい女性を見たことあるかい?
という一節です。fairという言葉が、「白い」という意味と「美しい」という意味で使われているのです。ミック・ジャガーとキース・リチャードが白人女性をイメージして書いたのは明らかで、そうなると、「こんなに色白な女性を見たことあるかい?」と意味した可能性はないのか?と思ったのです。
ただ、私は詩の読解に関しては苦手意識が半端なく、というのも、学生の頃、エミリー・ディキンソンの『A Dying Tiger』という詩に出てくる「His Mighty Balls」という言葉を、当時ハマっていた『ぼのぼの』の影響で、「トラのかっこいい肉球」(本当は眼球だった)と訳してクラスの失笑を買ったことがあるので、このShe’s A Rainbowに関しても、素っ頓狂なことを言っている恐れがあると思い、気心知れた友達のグループチャットで意見を求めました。
するとYくんが、「大学を出てからはすっかり英語には疎くなってしまったけど、代わりに……」と、自慢のChatGPT-4oに聞いてみてくれました。
以下、AIの答え。
「『fair』という単語には、確かに『色白の』や『肌の白い』という意味が含まれることがあり、特に古い英語の文脈では女性の外見を形容する際に使われることがあります。ただし、『She’s a Rainbow』の歌詞において、その意味が強調されているかどうかは、文脈からは明確ではありません。この曲の全体的なテーマは、女性を虹のように色鮮やかで魅力的な存在として描いていることにあります。虹のメタファーが使われていることから、カラフルで多様な美しさが表現されていると解釈できます。そのため、『fair』という言葉が『色白』という狭い意味で使われた可能性は低く、むしろ『美しい』『魅力的な』というより広い意味での『fair』が使われていると考える方が自然です」。
なるほど。しかし、優等生的な答えに満足が行かなかったYくんは、さらに聞きました。
「追加で質問です。ミックジャガーの性格を考えると、皮肉を含め白を意味する意図でfairを使ったと考えられませんか?」
AIの答え。
「ミック・ジャガーの性格やローリング・ストーンズの音楽に見られる皮肉や反抗的な要素を考慮すると、(中略)表面的には『美しい』という伝統的な意味で『fair』を使いながらも、当時の美の基準や社会的な期待、特に『白さ』を美しさの基準とする西洋文化への皮肉を含めた可能性もあります。特に1960年代は、社会的・文化的な変革の時期であり、既存の価値観や美的基準に対する挑戦が音楽やアートにおいて頻繁に見られました。 ただし、歌詞全体が『虹』という色鮮やかで多様な美しさを象徴するイメージを強調していることを踏まえると、『fair』が色の特定の側面(白さ)に限定された解釈よりも、より広い詩的な美しさや優雅さを表現している可能性が高いです(以下省略)」
ということで、AIはミック・ジャガーの人種差別疑惑に関してはシロと見ているようです。
しつこいYくんが、さらに聞きます。
「ありがとう。参考になりました。 あなたのデータベースのリソースを総動員して、ミックジャガー自身にこの問いかけをした時に、彼の答えそうな返事を英語で生成してもらえますか?」
AIが妄想したインタビュー(ファンの方、不愉快だったらすみません)。
Interviewer: “Mick, in ‘She’s a Rainbow,’ there’s the line, ‘Have you seen a lady fairer?’ What was your intention behind using the word ‘fair’ there? Were you referring to beauty, or perhaps implying ‘fair’ as in ‘pale’ or ‘white’?”
Mick Jagger (Imagined Response): “Well, you know, ‘fair’ is one of those words that can mean a lot of things, isn’t it? I wasn’t sitting there with a dictionary, trying to decide between meanings. It just fit. It’s got a kind of poetic quality, a bit old-fashioned, maybe. You could say it means ‘beautiful,’ but yeah, it also plays with the idea of ‘pale,’ I suppose. But I’m not really one for over-explaining things. It’s about how it hits you. If you hear ‘fair’ and think of someone pale and delicate, that works. If you think of beauty, that works too.”
Interviewer: “And with lines like ‘Speck of white so fair and pale,’ were you being ironic or critical of the way society often associates beauty with whiteness?”
Mick Jagger (Imagined Response): (Laughs) “I think you’re giving me a bit too much credit there. I mean, it’s a song from the late ’60s, and a lot of it’s very dreamy and psychedelic. You’ve got rainbows, you’ve got this ethereal woman… It’s more about creating a certain mood than making some big social statement. But sure, I think everyone was aware that beauty standards back then were, well, pretty narrow, weren’t they? So, maybe there’s a bit of a nod to that. I like when people find layers in the lyrics that maybe even I didn’t think of at the time.”
(以下省略)
つまり、AIが考えるミック・ジャガーは、「いやいや。ノリと語呂で書いただけさ。60年代に書いた詩だから、もちろん美の基準は限定的だったと思うけど、まぁ好きなように解釈してよ。音楽は自由なものサ」と答えるだろう、という想像上のインタビューでした。
私はThe Rolling Stonesの楽曲をほとんど知らないし、ミック・ジャガーという人物にも(と、途中からキース・リチャードを無視していたのに今気づきました……)興味を持って注視したことがないので、AIの意見に納得していいものかどうか分かりません。でもここまで言われると、「Have you seen a lady fairer」の解釈は、「色白」ではなくて「美しい」でほぼほぼ間違いないと見て良い気がします。
ただ、しつこいようですが、彼らが白人女性をイメージしていたのは「帆のように色白で透明感がある」の一節で疑いようがありません。fairという単語にはたくさんの意味があり、最近は「公平」とか「お祭り」とかの意味で使われることがほとんどで、人の外見を表すのに使われるのはあまり聞きません。やはり、うっかり「美しい」という意味で使ってしまって、私のようなひねくれ者からあらぬ言いがかりをつけられるのを避けるためでしょうか。
The Rolling Stonesのファン、ミック・ジャガーのファンの皆様、ごめんなさい。こんなことをして、冒涜ですよね。ほんの洒落と思って、どうか大目に見てくださいますように。