サイダーハウス・ルール【レビュー】【映画】
「おやすみ、メイン州の王子たち 。そしてニューイングランドの王たち」
これが、この映画のキーフレーズだ。
言葉自体にはあまり意味がない。『君たちは貴重な存在なのだ』ということを伝えたい最上位の表現、というところだろうか。
たが、ごく短いこのセリフが、『サイダーハウス・ルール』という映画を彩る詩的で、深い愛情の総てを体現しているような気がする。
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「サイダーハウス」というのは、主人公が働くリンゴ農園の寄宿舎の名前。その壁に貼られた「ルール」。それが「サイダーハウス・ルール」だ。
ハウスの住人はそもそも字を読むことが出来ない。誰が決めたのかもわからない。そんな勝手に決められた「ルール」。
こっけいなようで、世の中にはそんな「ルール」がはびこっているし、果たしてそのルールが正しいと言えるのか。
これは、そんな普遍的な「倫理と論理の対立」が描かれる作品だ。
監督は「ギルバート・グレイプ」なども録った、ラッセ・ハルストレム監督。監督が同じだけあって、二つの作品の雰囲気は通じるものがある。
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とにかく脚本が素敵。
『問題提起』と『解決』。そしてそれを彩る『エピソード』。時間の限られた映画では、特にこの3つ要素のちりばめかたで出来が違ってくる。
この点、原作のジョン・アーヴィング自身が脚本を務めており、たぶんもっといろんなエピソードがあったであろう話を、コンパクトにまとめているのが大きいのだろう。
映画から入った私はとりあえず、原作をポチるところから始まって(もちろんいまだ絶賛積読中だけれど)、余裕のあるときに簡単でいいから映画の『箱書き』をしてみたいと思ったほど。
池井戸さんの小説なんかを読んでいても思うけれど、作りが良くできているものは、仮にキャラや描写が二の次であったとしても「作りで推せる」という強みがあるものだ。
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テーマとしてもセンシティブな内容があって、心に染みるとか、良くわからないけれどいいなんてゆう、感情に訴えかける部分も満載。
しかし、個人的にはそれ以上に、「物語としての作りの強さ」が、一番印象に残った映画。「サイダーハウス・ルール」。
いい映画なので、みなさんも一度どうぞ。