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『お正月』【ショートショート】【#179】
「いやほんとあいつはアツだな」
「まったくアツだぜ……困ったもんだ」
喫茶店では常連のおじいさんたちが談義をしていた。今日はまだ年明け早々の1月3日。喫茶店はさっき開いたばかりでまだ朝の8時だ。いくら老人は朝が早いからといって、近所のおじいさんたちが5人も集まって文句を言いあうのにはちょっと早くないだろうか。
「ねぇ、そのアツってなんなの……?」
話が聞こえてしまったわたしこと、この喫茶店の店長の娘リンはおじいさんたちのテーブルに問いかけた。
「まぁリンちゃん。その、聞かなかったことにしといてくれよ……なかなか難しい問題でな」
「そうなんだよ、困ったもんでさ」
「そんな大きな声で朝から話してればイヤでも聞こえるって……。どうせまたなにかもめてるんでしょ?」
彼らはどこかに問題発生するたびにこの喫茶店に集まって議論するのだ。お客さんが少なく、こじゃれているわけでもないので気心知れているところがいいらしい。こっちとしてはあまり気分が良くないけれど、お客さんとして来てくれるのだから強くは言えない。
「リンちゃんはなんでもお見通しだねぇ。まあそのアツってのはさ……つまり"圧力を感じる"っていうところからはじまって、こうケムたいとか、めんどくさいみたいな意味なのさ」
「そうそう、ほらリンちゃんも知ってるだろ? 最近あそこの寺の住職が代替わりしただろう? その息子がね……まあアツなわけだよ」
「困ったもんなんだよ、これが」
「へぇ~そうなんですね」
わたしはなにも知らない顔をしながらそう答える。本当はその住職さんの評判があまり良くないことは風のウワサで聞いている。なんでもギャンブルとかにはまっていてあまり素行が良くない人らしい。
「でも、ちょうどいいじゃないですか」
おじいさんたちの顔にはてなマークが浮かぶ。
「……ちょうどいい?」
「どういうことだい?」
わたしは得意顔で続ける。
「だってその人、住職ってことはお坊さんでしょ。でお坊さんと言えば和尚ってことでしょ?」
「……そうだけど?」
「だってほら今日はまだ1月3日だし。和尚がアツ、和尚がアツ、和尚がァツ……お正月、なんちゃって。――どう?」
「いや、どうって言われても……」
おじいさんたちは目を白黒させ反応にこまっていた。その姿はまるでトラの縞模様のようであった……かどうかはご想像におまかせしたい。
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