平成にとらわれた歌姫【ショートショート】【#26】
GWも半ばに差し掛かって、ついに今日は平成最後の日だ。
すこし前に桜が散ったばかりなのに、気温は急激な上昇をみせ、夏がもう訪れたかのような錯覚におちいる。これはもう冬用の布団は片付けてしまわないと暑くて夜も満足に眠れない。仕事は休みなので、睡眠時間には事欠かないけど、暑さのせいでいくら寝ても寝足りないように感じる。寝ぼけた頭で、ぼんやりとそんなことを考えながら僕は目を覚ました。
テレビをつけると、どの局も『平成の最後』を盛り上げようと、様々な番組がやっている。平成を懐かしむ番組や、次の元号である『令和』をどう生きるか、なんて挑戦的な番組もある。
今日は平成31年4月30日の火曜日。平成最後の日。僕の記憶が正しければ、これで『4度目』の平成31年4月30日の火曜日だ。
どうも、僕は平成から抜け出せなくなったらしい。
*
わが身にそんなエキセントリックな出来事が降りかかるなんて思いもしなかった。なんら、きっかけらしいきっかけは思い当たらない。トラックにはねられたわけでもなければ、ビルから飛び降りたりもしていない。平成の最後の日……いや、「最初に迎えた」平成最後の日の話だけど、特別なことは何も起こらなかったはずだ。
今日のようにゆっくり起きだし、テレビを付け、朝ごはんだか昼ごはんだかわからないものを食べる。特にやることもないけれど、改元セールを見に行こうと思って、歩いて近くの家電量販店に出向く。特別目当てのモノがあったわけではないので、適当に見て回って、特に買うものもなく店を後にする。そのついでに本屋によって漫画を買い、コンビニでお弁当を買って家に帰る。あとは、弁当をたいらげ、テレビを見ながらゴロゴロとしているうちに、日が変わった。それだけだ。
僕の記憶に残っているのも、12時を迎えるその瞬間まで。その段階でリセットされて布団の中に……1日前の、「平成の最後の日のはじまり」に連れ戻されるようだ。
最初は何が起こったのか理解できなかったけれど、4回も経験していれば、受け入れざる得ない。
僕は、平成最後の日を繰り返している。
*
もしかしたら『令和』という時代が、僕をはじき出しているのかもしれない。顔も見たことがないのにつまはじきにされるなんて、僕が一体どんな悪いことをしでかしたというのだろう。
それとも、逆なのだろうか。地縛霊のように、僕自身が『平成に未練がある』からこそ、令和に入れないのかもしれない。もちろんどれも可能性の話に過ぎない。そもそもこんな超常現象に対して、まっとうな理由を求める方が、ナンセンスなのかもしれない。
何にしても、また『今日』が始まってしまった。いい加減『平成の最後』には飽き飽きしているし、もし解決につながるんなら、何らかのアクションを取ろうじゃないか。同じ内容ばかりのテレビを切って、朝ごはんをかきこむ。どこへ行くとも決めることなく、身支度をして、ドアを開け外に飛び出した。……いや、飛び出そうとした。実際に飛び出せなかったのは、ドアのすぐ外に人影があったからだ。
「……やあ、久しぶり!」
目の前に居たのは、2年前に亡くなったはずの僕の幼馴染だった。
どうやら原因は『平成に未練があるせい』のようだ。
(続きません)
「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)