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第20回「財布」4分

人物
林田博貴(42)無職
合田隆正(50)山垣交番勤務
伊藤(32)サラリーマン

〇繁華街(夜)
ネオンがキラキラしている。

〇裏路地(夜)
泥酔した林田博貴(42)が歩いている。
スーツ姿の伊藤(32)が疲れた様子で林田の反対側を歩いている。
伊藤と林田がぶつかる。
林田「おい、ちょっと」
伊藤は無視する。
林田、伊藤の肩を掴む。
伊藤「やめてください」
林田「おめさ、なんであや、あやまんねぇんだ」
と、ろれつの回らない林田。
伊藤、林田の手を振り切って進む。
林田は足元がもつれてゴミ箱へ倒れる。
林田の胸元から茶色の古びて柔らかくなった皮財布が落ちる。
林田「なんでだよー、くっそぉ」
林田、いびきを立てる。

〇山垣交番・外観(深夜)

〇同・内(深夜)
あくびをする合田隆正(50)。
入り口扉の外に立っている林田に気付く。
合田「うひゃ」
と、驚く合田。
合田、扉を開けて
合田「こんばんは……」
林田「こんばんは」
合田、林田の酒臭さに顔をしかめる。
合田「どうかされました?」
緊張した様子で林田を見る合田。
林田「なくしたんす……」
合田「はい?」
林田「財布……」
合田「あ、財布?はい、はい」
と、ほっとした様子で林田を中に入れる。
ドカッと椅子に座る林田。
合田「大丈夫?」
林田は首を何度も縦に振る。
林田「おえ……」
合田「ちょ、まって、まって」
ゴミ箱を林田に差し出す合田。
林田「ごええええ」
ゴミ箱に吐く林田。
合田「あー、今日はついてないわ」
林田は首を縦に振りながら寝息を立てる。

〇裏路地(朝)
時計を見ながら小走りするスーツ姿の伊藤。
伊藤「仕事だる……」
と、ゴミ箱の横に落ちた茶色の皮財布を見つける。
通り過ぎる伊藤。
伊藤、立ち止まって周りを見る。
伊藤、引き返して財布を恐る恐る拾う。
財布の中身を見る伊藤。
レシートばかりで少しの小銭しか入っていない財布。
伊藤「なんだよ、っちぇ」
と、財布を放り投げる。
財布から緑色のぺちゃんこになった小さなお守り袋が飛び出る。
伊藤はお守り袋から飛び出た紙を見る。
伊藤「あー、めんどくさ」
と、財布を拾い上げる。

〇山垣交番・外観(朝)

〇同・内(朝)
いびきをかいて寝ている林田。
合田はデスクで肘をついて首を上下にかくかくしている。
扉があいて伊藤が顔を出す。
伊藤「すんません」
合田、驚いた様子で
合田「ひゃい、どうか、されました?」
伊藤は寝ている林田を怪訝な顔で見る。
伊藤「財布、落ちてました」
合田「あ、もしかしたら……」
と、林田を横目で見る。
合田「こちらご記入いただけますか」
と、届の用紙を差し出す。
伊藤はなぶり書きして急いで交番を出ようとする。
合田「あ、あの」
伊藤「お巡りさん、その人にもっとちゃんとしろって言ってください、俺急ぐんで」
と、扉を閉める伊藤。
寝息を立てる林田。
財布の中身を確認する合田。

×  ×  ×

林田、目を覚ます。
林田「ここは?へ?」
合田「交番」
林田「ぐぶあん」
合田「交番!」
林田「俺、なにかしました?」
と、青い顔で合田を見る。
合田「違うよ、自分できたんだよ」
林田は不思議そうな顔をしている。
合田「はい、じゃ免許証出して」
林田、服の内ポッケ、ズボンのポッケを探す。
立ち上がって体中を確かめる林田。
林田「そうだ……」
合田は厳しい目で林田を見る。
林田「あの、俺財布落したみたいで、す」
合田「そう、どうすんの?」
林田「……」
合田「届け出す?特徴は?どんなの?」
林田「……茶色の、皮で……」
合田「で?」
林田「やっぱりいいです……」
合田「なんで」
林田「お金、入ってないですし」
合田「本当にいいの?免許証とか入ってんじゃないの?」
林田「いいんです、ほんと」
と、椅子に座る林田。
合田「大事な財布じゃないのか?」
林田はしばらく考えてから、
林田「親父の昔使ってたやつなんです、自分の財布は売っちゃって、代わりに使ってて」
合田は相槌を打つ。
林田「けどそこに残ってた金も使って、もうなんにもないんですよ、俺」
合田「親父さんは今は?」
林田「この前逝っちまいました」
合田は窓の外を見る。
林田「仕事も次のが見つかんないんですよ、昔はちゃんと仕事してたんですけど、なんかうまくいかなくて」
林田は口元を抑えながら目を閉じる。
合田「親父さんはお前が心配だろうな」
林田は小さく頷いている。
合田は引き出しから林田の財布を取り出す。
林田は目を丸くする。
合田「林田さん」
林田「はい」
合田「こちら届いたんですよ」
と、財布の中からぺちゃんこになったお守り袋を取り出す。
机の上にお守り袋を置く合田。
お守り袋を手に取る林田。
林田「こんなの、入ってました?」
と、お守り袋から飛び出ている紙を広げる林田。
古くなった紙に
「博貴から退職祝い、拾った方は林田宛に連絡ください TEL〇〇-〇〇〇」
と書かれている。
林田は震えた手で紙をそっと閉じる。
合田「親はいつまでたっても子どものことが心配なんだよ、今でも」
林田は目に涙を浮かべている。
林田はお守り袋に紙を戻そうとするが手が震えてうまくできない。
合田は林田の財布を林田の前にそっと置く。



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