第1回「自己紹介」2分

人物
沖野春（26）　　会社員
右田奈々子（42）春の上司
川田あい（28）　春の同僚

〇高層ビル・外観
　立ち並ぶビル群。
　
〇吉野夢企画総合ビル・28階窓・外観
　沖野春（26）がハイヒールを履いた右田奈々子（42）に頭を下げている。

〇同・オフィス内
　静まり返る室内。
　春、顔を上げて
春「お言葉を返すようで申し訳ありませんが、確認していただいたのは右田　　課長ですよね」
　奈々子、資料を春に投げつけて、
奈々子「何？それって私が原因ってこと？」
春「はい、課長からの指示で今回は進めていったので」
　無視する奈々子。
　春、奈々子に近づき距離を詰める。
奈々子「ちょ、なにするの？」
　動かない春。
　川田あい（28）が春と奈々子の間に入って、
あい「ちょ、ちょ、まぁまぁほらほら……」
　と、春と奈々子の距離を離す。
　春、床に落ちた資料を踏みつけながら歩き出す。
　奈々子、春を追って歩き出し、資料を踏みつけて滑って転ぶ。
奈々子「んもぅ、何よコレ」
　と、資料を放り投げる。
　
〇同・休憩室
　自販機、長椅子、コーヒーメーカーが並んでいる。
　春、長椅子に座って空の紙コップを眺めている。
　あい、春を見つけて、
あい「もー、春ちゃん、アレはアウト、アウトだよ」
　春、あいを見上げて笑い出す。
春「ね、見てました？課長のあの顔！っていうか香水キツすぎて」
　と、紙コップをゴミ箱に投げ入れる。
春「あー、言ってやったわ、本当あの人日本語通じないしさ」
あい「まーねー」
　と、あたりを見て人がいないことを確認し、
あい「めっちゃ盛大に転んだね」
春「でしょ、仕事中にあんなヒール履くから罰が当たったんですよ」
あい「服装は自由じゃない？」
春「あーそうでしたっけ？」
あい「また、今日の話さ、ネタにするでしょ？」
春「まー、ああいう人がいると困らないですよ」
あい「やだ、私の事書かないでよ」
春「あいさん普通ですから、けどみんな絶対ワクワクしてましたよ」
春はガラスの向こう側にいる奈々子を見る。
奈々子は折れたヒールを直している。

〇春のアパート・外観（夜）　
　
〇同・内（夜）
　片付いたワンルーム。
　ベッド、パソコンと梅干、海苔の入った瓶が乗った卓袱台。
　部屋着姿の春がパソコの電源を入れる。
　胡坐をかいて海苔を手づかみで食べる春。
　パソコンが起動する。
　春はタイピングし、文字を打っている。
　パソコンの画面には題「ヒールは12センチ」の文字が表示されている。
春「じゃ、やりますか、今日の出来事、ヒトの事」
　タイピングの音が部屋に響く。

〇同・窓の外（夜）
　カーテンに卓袱台に向かう春のシルエットが映っている。
春の声「あー、酸っぱい、うまっ」
　
〇空（夜）
　半月に雲がかかっている。

　了