第7回「パンプス」4分
人物
鹿島保太郎(32)会社員
小林和美(28)鹿島の同僚
佐々木龍平(50)鹿島、和美の上司
〇電車・外観(朝)
鉄橋を走っている。
カーブに入る。
〇同・車内(朝)
満員。
窮屈な姿勢で吊革につかまる鹿島保太郎(32)。
電車の揺れで右隣のサラリーマンにぶつかり、押される。
鹿島は左側の大学生に寄り掛かって舌打ちされる。
鹿島「す、すみません」
アナウンス「間もなく、山下通~山下通~」
停車する電車。
赤い12センチのパンプスを履いた小林和美(28)が乗り込む。
和美に気付く鹿島。
更に満員になる車内。
〇伊理橋駅ホーム(朝)
電車から這い出す鹿島。
涼しい顔で和美がホームを歩いている。
次の電車が入線してくる。
ため息を吐きながらエスカレーターへ進む鹿島。
〇合木会社・屋上
ベンチでおにぎりを食べる鹿島。
ヒールで階段を上がる音。
物陰に隠れる鹿島。
和美が屋上に出て煙草を吸っている。
遅れて佐々木龍平(50)が屋上に出て和美の肩に手を置く。
佐々木に吸いかけの煙草を差し出す和美。
佐々木と和美をこっそりと見る鹿島。
〇同・部署内(夕)
佐々木がデスクで電話をしている。
佐々木のデスクで書類を持って待つ鹿島。
佐々木「ああ、そう、今日も遅くなるらさ、ああ、飯は良いよ、うん、じゃ」
と電話を置き、鹿島をめんどくさそうな顔で見る。
佐々木「何?」
鹿島「あ、あのこの書類の訂正が終わりましたので……」
佐々木「あ、そこ置いといて、見るから」
鹿島、書類を置いて去る。
鹿島、和美のデスク横を通る。
和美、足の小指を撫でている。
鹿島「足、大丈夫?」
和美「ああ、別に、大丈夫」
和美は隠すようにスリッパを履く。
〇ルミート33(夜)
伊理橋駅横の小さな百貨店。
コンビニ袋に缶ビールを下げた鹿島が駅に向かって歩いている。
鹿島、靴屋にいる佐々木と和美を見つける。
ヒールが高く青いパンプスを試着する和美。
鹿島、首をかしげて立ち去る。
〇電車内(朝)
青いパンプスを履いている和美。
和美のパンプスを見る鹿島。
〇合木会社・屋上
靴を脱いでベンチに寝転ぶ鹿島。
ペタペタと階段を上がる音。
靴下のまま物陰に隠れる鹿島。
青いパンプスを手に持ってスリッパで屋上へ出る和美。
スリッパをベンチの下へ隠して青いパンプスを履く和美。
和美、鹿島の脱いだ靴を見つけて不審な顔をする。
ベンチに座って煙草を吸う和美。
和美を物陰から見る鹿島。
階段を上る足音。
振り返る和美。
2人の女性社員がお弁当を持って屋上へ出る。
2本目の煙草に火をつける和美。
〇同・エレベーター内
鹿島、和美、他2人の男が乗った下りのエレベーター。
5階で停まる。
女性社員と乗り込む佐々木。
和美、佐々木をじろりとにらむ。
3階で降りる女性社員。
女性社員は赤いパンプスを履いている。
赤いパンプスを見る鹿島、和美。
だんまりとしている佐々木。
〇伊理橋駅ホーム(朝)
眠たそうな顔で歩く鹿島。
踵の低い革の靴を履いた和美に抜かされる。
鹿島「あっ」
と、思わず声を出す。
振り向く和美。
鹿島「あ、その、おはようございます」
和美「おはようございます」
鹿島、和美、無言になる。
鹿島、和美の足元に手を差し出し、
鹿島「それ、歩きやすそうですね」
和美「あ、ああ、これ」
と笑いながら、
和美「この前のは、返したんです」
鹿島「え?」
ニコリとお辞儀して歩き出す和美。
鹿島も歩き出す。
〇合木会社・外観
〇合木会社・内
佐々木が引き出しを何度も引っ張っている。
鹿島、佐々木のデスクに書類を持っていく。
鹿島「あの……」
佐々木「あ?今忙しいんだよ」
鹿島、書類を置いて鹿島の引き出しを調べる。
鹿島「何か、引っかかってますね」
と、机を少し持ち上げる鹿島。
佐々木、力強く引き出しを開ける。
開いた引き出しの中には赤いパンプスと青いパンプスが入っている。
鹿島「あっ」
無言の佐々木。
鹿島は書類を持って頭を下げて立ち去る。
和美は自分のデスクで佐々木の様子を見ている。
和美、鹿島が通りかかり、
和美「歩きやすいのが一番ですよね」
鹿島、足を止めて、
鹿島「そうですね、足も痛くならないし」
和美、ニコッと笑う。
鹿島も微笑みながら立ち去る。
了