![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/94017428/rectangle_large_type_2_b71c076079a2c0127ba139101ee76800.png?width=1200)
しつけができない世界と帰らずの森
「いや、これは痛くしなくても痛いってわかるだろ?」
──痛かったことがないからわからないんだ。
「だから、転んだことくらいあるだろ? あれと同じだよ」
──転んだことがないからわからないんだ。
「転んだことないってそんなことある? 常識だろ」
──転んだらダメって言われたから、転んだことない……。
常識ってなんなんだよ。「ぼく」にはそれがわからなくて悔しい。転んだらダメだって言われたから、すごく気をつけて、転ばないように生きてきただけなんだ。なぐるのとなぐられるのは同じ痛さ、と言われてもわからない。なぐっちゃダメって言われたから、なぐったことがない。殺しちゃダメって言われたから、虫だって殺したこともないんだ。
だから、なんでだろう。
殺したらいけないと言われてもわからない。
でも「ぼく」は殺したことがないから……。
なぜダメなものはダメなのか
ひとが言われてなくてもわかるのはなぜだろう? 知ってることは言われなくても知っている。知らないことも知っていることと同じだとわかればわかる。だから言われなくても知らないことがわかる。
そのためには「はじめに知っておくべきこと」を知らないといけない。それなしに、言われなくてもわかるだろうと言われても、わからないものはわからない。ダメなものはダメだとわからないと、ダメかどうかがわからない。
現代はあたまの「よくない」ひとに冷たい──というと、そんなことないと誰もがおもう。なぜなら「あたまがよくない」から。あたまがよくないと、あたまの「よくない」ひとが、なぜそんなことをするのかわからない。
「ダメなことがダメだとわからないのって、なんで?」
「バカでしょ? おかしくない?」
それはそう。しかしそれは「ダメなことがダメだとわからない!」と叫んでしまうひとのことをわかれないということである。それって「あたまがよくない」ってことだから。なぜダメなことがダメだとわかれないのか。思い出そう。ぼくらはなぜダメなことがダメだとわかっているのか。
こどもに「なんで?」「なんでェ?」と聞かれて、いつまでそれを答え続けることができるのか。いつまで「ダメなものはダメって言ったでしょ!」と言わずにガマンできるのか。できてないひとびとは沢山いる。何もおかしくはない。いたって「ふつう」だ。
ほら、ショッピングモールに行けば、すぐ会えるよ?
だから「ふつう」はダメなことをダメだと説明できない「あたまのよくないひと」だとわかっておいたほうがいい。いつから「あたまがいい」と思っていたんだろう? ぜんぜんそんなことないのに。ダメなことはダメだという理由さえ言えないのに。
絵本の角で「しつけ」されたい……ってコト?
泣いちゃダメだよ。こどもじゃないならね。
教えられないから、教えられない
痛い。痛いことは痛い。それは生まれた瞬間から知っている。たまに知らないこともあるけど、それでは生きていくのはむずかしい。痛くないと、痛いとしぬってことがわからないから。
痛くなくても痛いとわかるのはなぜなのか。痛いものと、痛くないものがわかるから。ひとつ痛いことをわかればどんな痛いこともわかるなら、痛いのはいちどでいい。でもそれは、ちょっとあたまがよすぎる。
あたまの「よくない」ひとは、ぜんぶの痛いを知って、やっとぜんぶの痛いがわかる。だからあらゆる痛いことを知らないといけない。なのに世界は痛いことを教える機会をなくした。これは痛いからやめよう。これも痛いからやめよう。ついでにあれも痛いからやめよう。だって痛いとしぬから……痛くないことはいいことだから……。
いいことだけど、いいことだけじゃなかった。
世界の中に「誰もしなない世界」はつくれたけど、その世界で「しぬほど痛いを知る」ことはまだできない。誰かがしぬ世界の方で「しぬほど痛いを知る」しかない。ダメなものはダメだと。生まれた瞬間から知っている「これ以上ないほどの痛み」と同じだと。説明されなくても身体で絶対にわかる絶対の痛み。
しんだらしぬ。殺してもしぬ。しぬほど痛いとはどういうことか。殺すということは「しぬほど痛いことの次」にあり、殺すということは「しぬほど痛いをされる」こともある。なぜなら「しぬほど痛い」がすきなやつはいないから。すきなやつはもうしんでいる。だからそれはダメなんだ。そして「道」はひとつじゃないことも。こどもはおとなと森をあるけばなにもかもわかる。
それを知る機会だけがどこにもない。
痛いことを教えてあげなければならない。でも痛いことは教えられないから、痛いことを教えられない世界。誰もわるくなくて、みんなわるい。誰もわるくなりたくなくて、みんなわるくなる。だからみんな、その子のためにそっと道をあけた。それを忘れないようここに書いておく。
その子だけが知らない「森」へ続く道。
そこから帰ることはできないと、みんなだけが知っている。
いいなと思ったら応援しよう!
![aizuk](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45383679/profile_06a459dd89f5493e91a27d26607da116.png?width=600&crop=1:1,smart)