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俺が、山だ。~登れない山に登る魔法~
なんだこいつバカか? 何を言っているんだ? なにもかも間違っているのではないか? と思うかもしれない。実際そうだ。それでいいんだ。も…もしもバカってゆったほうがバカになるなら…などと要らぬ心配をするな! 大丈夫だ。安心してほしい。
現実として俺も俺をバカだと思っている。
本当に大丈夫だ。安易にひとをバカにするとあぶない世の中になったのはすごくよくわかる! でも本当なんだ。本当にバカなんだ。読んだらきっと、な…何を言っているんだ…コイツ…? と思うと思う。いいね?
さて。「そこに山があるから」と言う人は言う。
とにもかくにも山に登りたい。言い訳がほしい。いい言い訳がない。長い言い訳を毎回言うのも面倒だ。もう、なんとかなれ~ッと魔法がかかった呪文が生み出されてしまったのだ。山に登りたいときは、これを唱えよ! さすれば常識人は黙るであろう。代償におまえの常識をもらっていく。いったい人間は何をやっているのか。バカをやっている。
そもそも君は「山」とは何だと思う?
そう、あのバカと煙がのぼるところだ。
つまり高いところだ。
ちがう! 煙と蜜がのぼるところじゃない。それは……あれだ。特定の人類が天に昇るあれだ。夢見心地でいっていいところじゃない! いや夢見心地になりにいくところか。しぬぞ。いやどっちもしぬといえばしぬ。
あまりにもあたりまえなことを言うなこのバカが、と思ったかもしれない。確かにそれはそう……本当に済まないと思っている……だが至って真面目な話なんだ。いやふざけてはいるんだが。信じてほしい。真面目な話なんだ。ただちょっとゴミみたく臭うだけで伏線なんだ。本当なんだ。ちゃんとゴミは拾って帰るからァ! マナーを守って楽しい登山!
では話を戻そう。
いいかね諸君。高いところは、山だ。
つまりこういうことだ。
俺の歩いているところが、山だ──。
どうかね。魔法を感じただろう。エクセレント。君には魔法の才能があるようだ。魔法学校の転入手続きを済ませよう。ご両親にこの書類を渡してサインをもらってきなさい。いいね? その間にかんたんなオリエンテーションとして、ひとつの事例をお見せしよう。
君はムサシコスギ=ヤマを知っているかね。そう。武蔵小杉に生えているあのヤマだ。近年、豪雨で地下に浸水してとても大変になってしまったという天空にそびえたつあのヤマ。俗世では「タワマン」と呼ばれている。気圧差でごはんの炊きあがりが心配になりすぎるため、インターネット・オソレザンのミコたちも笑顔のあまり弛緩してチビるというあれだ。
※本稿は筆者の感情を除き大体フィクションです※
※実在の地名、団体等とは一切関係ありません※
※紳士的配慮により、想像上の「ヤマ」はカナ表記されます※
まさに裏・関東百名山。とおおおおくに見えるあの高い高い頂き。バカと煙がのぼるところ。近づくとなぜかスンッ…としてしまうふしぎ。周囲を見やれば、同じ日本人なのに、同じ日本人に見えないひとびとが闊歩している。そして煌びやかな商業施設の軒先コンクリをひっぺがすおっさんのすがたが。なぜ床? もしかして、浸水の復興!?
ああだめだ笑顔になってしまう。そうではないけどそうだと思うとおもしろすぎて。そうでなくてもギラッギラの脂ぎったおっさんにより、キラッキラの曇りなきガラス細工が磨き上げられているんだ。これが……雇用。こんな「すくないこども」のために……なんてせかいは残酷なんだ。
これが、おっさんずラブだ。
おっさんがおっさんを愛する。無限の自己愛がたぎってくる。こんなすてきな魔法があるか? しかしこれだけではない。なんと……人類は都市に向かう人類を「おのぼりさん」と言うッ! つまり平地をただ歩いているだけなのに「のぼって」いるのだ。すごい。厳しすぎる大自然の山を登れない人類でも、これならのぼれる!
は? 田舎に住んでいればすぐそばに山があるだァ? うるせえこの世には都市でも田舎でもない謎のエア・ポケットがあるんだよ。登るべき場所を失った、哀しきすみッコ暮らしを営む汚えフェアリーの住まうところだ。田舎かどうかはどうでもいい。都市ではないところからなら都市にのぼれる。それが全てだ。ドゥ・ユー・アンダースタン?
これが、都市登山の魔法だ。
リスペクト・パトロン。おっさんの金でおっさんがよろこんでおっさんがはたらく。うつくしきもののために。悪魔ひしめく絶望の大地へのぼろう。しかし実際安全。何が起きても最低ラインとして「終電を逃したひと」にしかならないため、終電を逃したことがあるひとならへーきへーき。
そうとも断崖絶壁をのぼる必要はない(入口でおことわりされるため)。きっと滑り落ちてしぬことはない(欲望の沼に落ちたらしぬ)。そこらじゅうに人間がおり遭難することもない(まれに遭難させようとしてくる)。それに電波の届かないエリアだってない(ふしぎな電波は届きがち)。
安全……だな……?
そうか。危険なのは自分だったんだ。山はあぶない。シロートが調子に乗ってはいけないところ。山は高いところだ。バカと煙がのぼり、落ちてしぬところ。俺が歩いているところが山なんじゃあない。逆だったんだ。なんでこんなことに気がつかなかったんだ。灯台下暗し。バベルの塔を建造するため黒子としてはたらく、名もなきおっさんたちへの愛を見失ってはならない。心に明かりを灯せ。
俺が、俺たちが山だったんだ。
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