「○○すると死ぬ世界」#2 BKSにて
※読む前に
この話は連続するオムニバス形式の短編小説の2話目です。まずはこちらのルール説明を読んでからご覧になってください。
「おい、わざわざこんな遠いところまで呼びやがって。あ?聞いてんのかよ。」
金髪で長髪の見るからにガラの悪い男が僕に話しかける。
「いつものことじゃないか、僕達3人が何か会議をできる場所はここしかないんだから。」
横目で彼を見ながら答えた。
「そうです。ここは私たち3人、いや3種族が集まり、そして誰の目にもとまらない貴重な場所です。その口調の悪さはまだ直らないのですか?」
黒髪をきっちりと7対3に分け、メガネをかけたビジネスマンのような男は言った。
「俺の口調の悪さしか責め立てられないお前に言われたくねぇなあ。おい人間!さっさと本題に入れ!」
白い丸テーブルを囲む者達の出席を確認するように見渡してから言った。「わかったよ。」
今ここには、人間である僕と天使と悪魔がいる。地球に住む人間達は気づかないだろうが、僕がここに住み始めてから、何か重要な決め事はこの3種族で会議をする決まりにした。人間は優れた知性を持ち、大衆を扇動することが得意だ。一方、天使は神に近い神聖なる存在で、高次元のエネルギーを扱う。対して悪魔は心に凶暴性を持ち、負のエネルギーで人間の心や身体を蝕む。なぜそんな3種族で集まるのかと疑問を抱くかもしれないが、僕たちは互いの利害一致のために共に行動しているだけだ。
「今回の議題は、『モーロを殺すべきか』だ。」
しかし、悪魔との関わりにおいて非常に面倒な事が1つある。それは悪魔の『重要な意思表示は嘘をついてしまう』という厄介な特徴だ。だから僕は悪魔と話すのに慣れるまでかなり時間がかかった。彼らの「ノー」は「イエス」であり、「やれ」は「やるな」だからだ。
「モーロ...イタリアの彼で合っているでしょうか?」
上品なグレーのスーツを身にまとった「シチサン」の男が僕に確認した。
「ああ、そうだよ。彼を殺すべきかどうかだ。」
突如、会議室の机に手が叩きつけられた。
「はぁ!?モーロだろ?あんなやつ殺すに決まってんじゃねえか!」
柄の悪い「キンパツ」の拳は強く握られていた。
「一旦落ち着いてくれないか、まだ彼の意見を聞いてない。」
キンパツはほんとに品がないし血の気が盛んだ。
「君は、どう思う?」
シチサンの方に目をやる。
「……殺すべきですね。愚問です。」
現状を理解し、スーっと大きく息を吸って、吐いた。
意見がわれた。今日は少し特別な日であるため、やはり一筋縄ではいかないのだなと思った。僕は、この会議を上手く収束することができるだろうか。まず第1に、モーロはすでに殺しているからだ。混乱を招くことは必至である。だが、始めからこの会議を平和に終わらせるつもりも無いのだ。
「じゃあまず2人とも、理由を話してくれないか。」
「殺しちまえばいいじゃねえか。社会的な影響力の大きさはあるけどよ、アイツのした事を考えると仕方ないだろ。それが今の事態を引き起こしたんだ。」
キンパツは先ほどと違い、落ち着いた様子で淡々と喋った。
「殺すべきです。裏で糸を引いてる人間は誰かご存知ですか??」
「糸を引いてるってよりは対立してるだけだろ?」
「似てるようで異なります。表立った綺麗な場所や組織には、汚く黒い連中が絡んでいることが多いですが、残虐な事件の裏には、地位や権力のある誰かが絡んでいることは世の中の常識でしょう?」
「俺たちのことだな。」
「そう捉えることもできますね。」
「まー、あれだ。今回で言うとアレドレオッティの事で間違いないよな?」
「そうです。彼は犯罪組織と密接な関係にあるため、その点を踏まえて考えると、モーロは殺すべきです。」
「そうだね、君たちの言い分は充分に理解したよ。」
キンパツとシチサンの会話を僕が遮った。
「えーと……。話している最中に悪いが、実は君たちに伝えてないことがあるんだ。」
ぴしゃりと会話が止まり、彼らの視線が僕に集まった。
「モーロはすでに殺しているんだ。」
「それは……。まずは事実確認からしましょう。何か証拠はありますか?」
僕は左手にあるモニターのリモコンを手に取り、「入」ボタンを押した。
そこには車の荷台と思われる場所に押し込まれた老人の姿が映し出されていた。
「電話1本で見つかるような状態にしてある。」
シチサンとキンパツが喋る様子ではなかったので僕が口を開いた。
「拉致してからの政府の対応があまりにも酷かったからこうなるとは思ってたけどよ。驚いたぜ。」
キンパツは最初の勢いをとうになくしている。
「想定の範囲内ではありますね。では今日の会議の目的は一体何だったのでしょうか。」
対してシチサンは取り乱した様であるが、落ち着いたように見える。
「これまで僕たちはこの会議で色んな人間の生死を決定してきた。」
「ハビエルイバーラ、ムハンマド・ダーウード、大きく世間を動かしたので言うとジョン・F・ケネディ。社会さらには世界に大きく変化を与えるために、ここで決定した事を地上の人間達に実行させてきたが、実はその必要がなくなったんだ。」
「必要がなくなったあ?もう誰も殺さねえってか?」
「その逆さ。「ある程度の範囲なら誰でも殺せるようになった」が正解」
僕はさらに続ける。
「だから会議の必要がなくなったんだ。まだ精度が悪いから地上では人が死にすぎてしまうのが難点だけどね。」
「それだと私の質問に答えたことにはならないはずです。任意で人を殺す術を手に入れたことと、会議の取り止めが今日の会議の目的だと、そういうことですか?」
「そんなところかな。でも報告だけなら通信すればいいだけなんだ。君たちにはここに来てもらう必要があった。」
シチサンとキンパツは状況が理解できてない様子だ。
「君たちはそんな体をしているが、その組成は理解しているかい?」
「人類は紀元前から目に見えない物を神として崇め、物語に登場させては都合よく扱ってきたし、今でも神を心に飼っている人は多いんだ。未だに神がそう使われている理由は知っているだろ?」
「神なんてもんはいねえからだ。」
「そう、神は存在しないんだ。宇宙人も天使も悪魔もいるこの世界、宇宙、どこを探しても神なんて存在はいやしない。」
「では、広く宇宙人と呼ばれる存在はどうだろうか。僕は最初、彼らと交流を持とうとした。彼らの優れた知識と技術は人間を選別することに大きく寄与するからね。」
「でも僕より頭がいい「ヤツら」を僕の目的のために使ったら、僕がどうにかされてしまうんじゃないかと怖くてね。しかも彼らは文明が発達しすぎていて、顔と手足があるだけで宇宙「人」と呼んでいいほど人と似た内部構造をしていないんだ。」
「そこで君たち天使と悪魔になるんだ。」
「内部構造が人間と同じ...」
「悪魔」は気づいたように呟いた。
「そう!必要が無くなった時に排除できる存在じゃないと使うことにリスクがあるからね。」
まだかつてない状況に僕は高揚している。血の巡りを身体で感じるように暑い。果たして成功するのか、いや、殺せるのか。
「ここまで言えば後はわかるだろう?」
「これまでは地上の人間を効率良く動かすために、悪魔に心を蝕んでもらってたけど今日で終わりさ。モーロを殺した上で今日ここに呼んだのは人間だけじゃなく悪魔も殺せるのか見届けるためだ。」
悪魔はすごく気分が悪そうだ。
「その点天使という存在は素晴らしい。彼らはそれぞれ性格は違えど、そもそも悪いことをしようという思考がないからね。」
天使は声を出さず大きく頷いた。
窓から外を眺めると、改めて自分がちっぽけな存在だと思い知らされるが、今あの星を動かしているのは誰でもない僕なのだ。
「そろそろ時間だ。今までありがとう、さよなら。」
悪魔は椅子から落ちその場に倒れこんだ。
「また会いましょう.....」
「悪魔」死亡。享年、不明。