指切りなんかしなくても、(今朝は、ウィンナーコーヒー)
9/30。
5:00起床。
天気は晴れ。
*
――あ、うかない顔してる。
――アルネ。
ベランダで一人ぼんやりしていると、アルネが現れた。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――何か「あった」の?
――……何も「なかった」日なんて、一度もないよ。
きっと、アルネにはすべてお見通し。
だからこそ、はぐらかしたくなる。
――今日はコーヒー? それとも紅茶?
――君は何が飲みたいの?
――ぼく?
ぼくが飲みたいもの。
そんなこと、一度も訊かれたことがなかった。
アルネなりに、ぼくを気遣ってくれているんだろうか。
――じゃあ、ウィンナーコーヒーにしよう。ホイップクリームが余っててね。市販品だけど。
――私、初めて。
――ぼくも2回目だよ。この前行ったカフェでおいしいのを飲んでね……。
豆を挽いていると、自分にのしかかっている問題が遠のいていくのを感じた。実際は、そんなことないんだけど。
淹れ立てのコーヒーに、さらにホイップクリームを浮かべる。
――はい、どうぞ。
――どうも。……ああ、おいしい。カフェラテとはまた違う味。
――うん。……なかなか上手にできたな。
――クリームは市販でしょ?
――コーヒーの方だよ。
ずっと、こうしていられたらいいのに。ぼくがコーヒーを淹れて、アルネがそれを飲んで。そんな、なんでもないことで世界が満ちていればいいのに。
――また、うかない顔してる。
――たぶん、元からだよ。
――ウソつき。
――それも、元からだよ。
ぼくは、アルネにすらいえない。自分にしか見えない、自分だけの女の子にすら。
ぼくにのしかかっているものは、ひどく臭くて、とても重い。こんなもの、見せられるはずがない。
――何か「あっても」何も「なくても」、
――うん?
アルネは、すでにコーヒーを飲み干していた。
――これからも、私とお茶してくれるんでしょう?
そして、微笑んだ。
もしかしたら、ぼくの背後にあるものを見ても、こんな風に笑ってくれるのかもしれない。だからといって、彼女の気分を害すことはしたくないけど。
――もちろん。ぼくは、君専属のお茶係だからね。
――お茶を飲む相手もね。
アルネはすっと立ち上がると、ぼくの顔をのぞきこんだ。
――私がお茶を飲みたくなったとき、ちゃんとそこにいなさいよ。
――約束するよ。ぼくだけの女の子。
指切りはしなかった。
そんなことをしなくても、ぼくらの約束はいつでもここにある。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
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